12月25日(日)

特別編-Merry Christmas in 2016-




 先月は雪が降る日もあったけれど、この1週間は秋のように暖かい日が多い。といっても、クリスマスに近づくにつれて急に寒くなっている。

 学校自体は八神高校、天羽女子高校共に22日の木曜日に終業式を迎えた。これからはいよいよ受験なので、3学期は学校に登校する日は10日もない。

 2学期の期末テストはお互いに赤点がなかったので、僕と栞はすぐそこに迫っている大学受験に向けて一緒に勉強する日々が続いている。今月受けた模試の結果も帰ってきて、栞の方の判定が1つ上がっていたので最近の彼女は上機嫌だ。



 今日の栞は一段と気分がいい。

 クリスマスということで僕が栞の家でお邪魔をしている。一昨年や昨年のように遊び中心ではなく、受験生なので勉強中心だけれど。今年も栞の部屋で泊まらせてもらう予定だ。今年はダメかなと思ったんだけど、栞の御両親から勉強もするならOKと快諾していただいた。


「悠介君、ここなんだけど……」

「……ええと、こうやって解くんだよ」

「ああ、そういう風に解くんだね!」


 分からないところがあっても、栞のしっかりと勉強している。これにもちょっとした理由がある。

 クリスマスに僕が泊まりに来る……それだけで栞は気持ちが舞い上がってしまったようで、最初は勉強にあまり集中できていなかった。

 そこで、僕が今日勉強する中で難しい問題に印を付けて、そこをちゃんと解くことができたら口づけをするというご褒美を設定した。すると、これが効果抜群で栞の集中力が急に増して想像以上のハイペースで口づけをすることに。

 途中、栞の御両親と一緒にクリスマスケーキを食べたり、夕飯を頂いたり……それでも勉強は続いて、気付けば25日になろうとしていた。


「あっ、もうすぐ25日になるね」

「そうだね。今日はたくさん勉強したからもういいんじゃない? せっかくのクリスマスなんだし、ゆっくりしようよ」

「うん! じゃあ、ちょっと待っててね! 準備してくるから」

「……うん、分かった」


 栞は張り切った様子で部屋を出ていったけれど、何の準備をするんだろう?

 そういえば、ずっと勉強していたからクリスマスプレゼントを渡していなかったな。バッグの中にずっと入れたままだ。ちなみに、そのプレゼントというのは手袋だ。付けたままスマートフォンを操作できる優れもの。

 僕は……栞に何が欲しいって言ったっけな。確か、今月に入ったくらいに栞から訊かれた気がするけれど。お菓子だったかな。


「ふぅ……」


 温かいコーヒーを飲んで一息つく。栞のノートを見てみると、今日は随分と勉強したなぁ。クリスマスだというのに。

 ――コンコン。

 えっ、ノックが聞こえたんだけど。栞かな?


「はーい」


 とりあえず、返事をしてみる。すると、部屋の扉が開く。


「悠介君、メリークリスマス!」


 栞サンタが現れた!

 そういえば、去年までもサンタコスプレをしていたっけ。ただ、これまでと比べるとかなり露出度が高めな気がする。胸元が大胆に露出していて、スカートの丈や袖も短めだ。


「メリークリスマス、栞」


 部屋の時計を見てみると、もう25日になっていた。


「……悠介君。どうかな? 去年よりもその……大胆な感じにしてみたんだけど」

「うん、よく似合っているよ。可愛いね」


 似合っているし、可愛いとも思うけど、そんなに肌を露出していて寒くないだろうかとちょっと不安になってしまう。


「悠介君。栞サンタからプレゼントだよ」


 そう言われ、栞から渡されたのは可愛らしい袋に入っているクッキーだった。クッキーは大好きだからこれは嬉しい。


「ありがとう、栞」

「悠介君、前にお菓子がほしいって言っていたもんね」


 どうやら、僕の記憶は正しかったみたいだ。甘い物が好きなので、こういうときのプレゼントはお菓子が一番嬉しいんだ。


「じゃあ、僕からも栞サンタさんにプレゼントだ」

「えっ?」


 何なんだ、まさかくれるなんて、っていう反応。一昨年や昨年だってクリスマスプレゼントはちゃんとあげたじゃない。

 バッグからラッピングされた袋を取り出す。


「はい、栞。メリークリスマス」


 そう言って、栞にクリスマスプレゼントを渡す。


「開けてもいい?」

「うん、いいよ」


 喜んでくれるかな。ちょっとドキドキする。

 栞は袋を開けて、手袋を取り出すと喜んだ表情をした。


「手袋! あったかい……」


 さっそく手袋を付けて、自分の頬に当てている。喜んでくれたようで良かった。


「その手袋、付けたままでもスマートフォンを使えるんだ」

「そうなんだ。嬉しい……」


 すると、栞は手袋をつけた手を僕の頬に当ててくる。栞の可愛らしい笑顔が僕の視界を包み込む。


「ねえ、悠介君。私ね、もう一つ……プレゼントがあるんだよ」

「そうなんだ。何だろう?」


 この体勢で言うから、プレゼントは私ですとかそういう展開になるのかな。いや、まさかその通りになることは――。


「私がクリスマスプレゼントだよ」


 そう言って、栞は僕のことを抱きしめてきた。肌の露出度が多い服装のせいか、いつもよりも栞から温もりと甘い匂いを強く感じているような気がする。

 それはそうと、まさか僕の予想通り、栞がクリスマスプレゼントだとは。もちろん、それは嬉しいけれど、


「今までも……僕のものじゃなかったのかな?」

「……今までもそうだけど、これからもだよ……」


 そう言うと、栞は僕に笑顔を見せ、口づけをしてくる。


「……何か新しいものが欲しいんだったらさ、お互いに18歳になったから、す、する?」

「……何をするの?」

「えっ、そ、それをわ、私から言わせるつもりにゃの? か、噛んじゃった……」

「あははっ、可愛いな」


 栞のしたいことは口づけよりも先のことなんだろうけど、今でもかなり悶えているのに実際にしてしまったら、恥ずかしさのあまりに気絶しちゃうんじゃないか? まさか、露出度が高いサンタコスプレをしたのはそのためだったりして?


「こうして、栞サンタさんと口づけできたのが幸せだよ。その……栞が考えていることは少なくとも、大学を合格してからでいいんじゃないかな」

「……うん」


 そういうことをするのは、せめて大学生になってから。そりゃ僕だって男だから、栞としたいと思ったことはないと言ったら嘘になる。


「でも、ね……悠介君。悠介君がそういうことをしたいって思ったら、私はいつでもいいからね? だって、私は悠介君のものだもん。その……初めてをあげるから」

「……うん、分かったよ」


 まったく、僕は可愛い彼女を持ったものだ。付き合い始めてから2年半以上経っているけれど、改めてそう思うよ。


「栞。僕は……栞のものだから」

「……うん。じゃあ、もっと甘えてもいい?」

「いいよ」

「じゃあ、甘えるね」


 そう言うと、栞は僕の胸に頭をすりすりしてきて、時々、僕の方を向いて笑顔を見せてくれる。まるで猫を抱いているようだ。

 栞の笑顔はとても可愛いけれど、サンタさんのコスプレをしているからか、今日の笑顔はまた一段と可愛らしく見えるな。

 ただ、僕はいつも栞から素敵なプレゼントをもらっているよ。栞のその優しくて可愛らしい笑顔に、僕はいつも幸せを感じているんだから。その感謝を込めて、僕は栞のことをぎゅっと抱きしめた。

 高校生最後のクリスマスは去年までよりもドキドキしながらも、僕達らしい温かいクリスマスになったのであった。




特別編-Merry Christmas in 2016- おわり

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