逆・恋心編
4月7日(月)
逆・恋心編
青空が広がり、穏やかに晴れている。
先週の金曜日は入学式だけだったから、実質、今日が初登校日。そんな私のことを温かく迎えてくれているように思えた。
午前7時20分。
私は高津田駅のホームに立っている。これから、7時27分発の八神行きに乗るつもり。
もうちょっと遅くても充分に間に合うんだけれど、方向音痴なところがあるから、今週はこの時間で行くことに。
金曜日はお母さんと一緒に高校へ行ったけれど、あのときはお母さんも一緒だったし、周りに入学式に行く生徒と保護者がたくさんいたので大丈夫だった。
ううっ、高校でお友達ができるか不安だけれど、それ以前に学校にちゃんと行けるかどうか不安になってきたよ。金曜日にどんな道を歩いたのか思い出そう。
『間もなく、1番線に各駅停車・八神行きがまいります』
そんなことを考えていると、そんなアナウンスが流れた。
そういえば、この時間は電車が混んでいるんだよね。満員電車は初めてだから、最寄り駅の鏡原駅までのおよそ20分間がとても長く感じちゃうかも。
電車が到着して扉が開くと、電車の中には多くの人が乗っていた。スーツを着た男の人もいれば、私と同じように制服を着た女の子もいる。
私は待っている列の最後だったから、扉のすぐ側に立つことができた。混んでいるけれど、車窓から景色も見られるからこの場所はいいなぁ。明日からも最後に乗って、ドアの側の場所を確保できるようにしよう。
電車が高津田駅を出発してから、およそ3分後。
最初の停車駅である鳴瀬駅に到着する。高津田駅よりもホームに立っている人が少なくて良かった。
ドアが開くと、目の前には黒髪の男子高校生が立っていた。目が前髪に隠れがちで、メガネもかけていて。でも、とても誠実そうで優しそうに見える。
そんな彼と目が合ったような気がした。
その瞬間に、胸がキュンとなって。
きっと、これを一目惚れって言うんだと思った。
一瞬、彼が私の方を見たような気がした。まさか、私と同じように一目惚れ……って、自惚れちゃいけないね。私の近くに制服姿の女の子がいるから、その子の方を見ているかもしれないもん。
でも、彼に変な印象を持たれたくないから、なるべく平静を保っておかないと。絶対に気を緩ませちゃダメ、私。きっと、ニヤニヤしちゃいそうだから。
それでも、私は彼のことをチラチラと見てしまった。
優しそう。
メガネを外したらかっこよさそう。
どこの高校に通っているのかな。
また、明日も彼と会えるのかな。
彼と話すことはできなかったけれど、そんなことを考えていたら時間はあっという間に過ぎていってしまって。
『まもなく、鏡原、鏡原。お出口は左側です』
もう、高校の最寄り駅の鏡原駅に着いちゃうんだ。
彼の通っている高校の最寄り駅も鏡原駅だと嬉しいな。私の通っている高校は女子校だから一緒の学校はあり得ないけれど、確か鏡原駅が最寄り駅の高校は他にもあったはず。
でも、鏡原駅に到着しても彼が降りることはなかった。あと少しでいいから彼のことを見ていたかったな。
「……また、明日も会えるのかな」
今日と同じ電車。先頭車両の一番後ろの扉から乗れば、また。
よし、明日も今日と同じ電車に乗ってみよう。彼と会える可能性がちょっとでもあるんだったら。もし会えたら、彼と一緒にいられるのは鳴瀬駅から鏡原駅までの15分くらいだけれど。その時間だけでもいいから、彼のことを近くで見ていたい。
鏡原駅から高校に向かおうとするけれど、道順をすっかりと忘れてしまった。
スマートフォンを駆使しても道に迷っちゃって、結局、着いたのは集合時間ギリギリに。思えば、駅を出てすぐの場所から、とても高い校舎が見えていたのに……ううっ。明日からは校舎を目印に学校へ行くことにしよう。
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