4月28日(月)-中編-

 午後3時半。

 今日も学校が終わった。鏡原駅から鳴瀬駅まで、栞との15分を過ごすつもりだ。

 そういえば、ゴールデンウィークに栞と行きたい場所を考えていたんだけど、迷ってしまって候補を纏めることができなかった。


「さてと、帰るか……」


 終礼も終わったので、下校をしようと席を立ったときだった。


「悠介」


 クラスメイトの女子・篠宮亜実しのみやあみが僕の目の前に立つ。

 亜実とは高校受験の際に通っていた予備校で出会った。日本人には珍しい金色の髪をしていて、100%の日本人であると知ったときにはかなり驚いたな。彼女はそんな金髪の髪を後ろで纏めている。


「どうかした?」

「……あ、あのね。悠介」


 亜実は少しもじもじしている。彼女らしくないな。


「どうしたんだよ、亜実らしくない」

「い、いや……その。勉強を教えてほしいなと思って」

「勉強か……」


 高校受験の時には予備校の自習室で結構教えていたのに、どうしてこんなに遠慮がちに言うんだろう。


「やっぱり、ダメかな。悠介は彼女いるもんね……」

「……あれ、亜実は知っていたのか?」


 僕、まだ恋人がいることを誰にも話していないんだけど。

 でも、亜実は最寄り駅が隣の畑町駅で、潮浜線を使っている。朝の電車で僕と栞が一緒にいるところを見たことがあるのかもしれない。彼女がいる僕を呼び止めてはまずいと感じているのか。


「僕に教えてほしい?」

「うん、悠介の教え方って分かりやすいから。それに教えてほしいことが、明後日に提出しなきゃいけない数学の宿題で……」

「ああ、あれか。そういえば、亜実は数学は苦手な方だったな」


 亜実は文系科目は得意だけど、理系科目の方は頑張っても平均点ぐらいだからなぁ。高校の数学も、苦手な人にとってはそろそろ難しく感じてくる内容だと思う。


「じゃあ、一緒にやるか」


 僕もやってなかったし。この際だから一緒にやって終わらせてしまう。

 僕の答えが意外だったのか亜実は驚き、申し訳なさそうな表情を見せる。


「でも、いいの? 彼女さんと一緒に帰るんじゃないの?」

「そうする予定だったけど、目の前に困っている人がいるんだからほっとけないよ。大丈夫だよ、今からこのことを言うから。亜実は僕の席でも、自分の席でもいいから準備しておいて」

「……うん、ありがとう」


 亜実は嬉しそうに笑った。

 一旦、僕は廊下に出て栞に電話をかける。


『悠介君、どうしたの?』

「栞、ごめん。今から学校で友達に勉強を教えることになって。今日は一緒に帰れそうにないんだ」


 僕がそう言うと、栞はため息交じりにそっかぁ、と呟いて、


『ちょっと残念。でも、それは大切なことだよ。勉強を教えてあげて』

「ああ、分かった」

『その代わり、明日、私とデートしてくれるかな? 私、今日はずっとそのことばかり考えてて。悠介君と一緒に行きたいところがあるの』

「もちろんいいよ。楽しみだ」


 明日、栞とデートをすることになったからか、今から心が弾んでしまう。


『ねえ、悠介君』

「うん?」

『友達って男の子なの? もしかして、女の子?』


 声だけだけど、栞の不安げな様子が伝わってくる。僕も栞と同じ立場だったら、勉強を教える相手が異性だったらどうしようかと不安になる。だからといって、嘘をついてしまってはいけないと思う。


「女の子だよ。でも、その子はクラスメイト。だから、安心して。彼女には数学を教えるだけだからさ」

『そうなんだね、分かった。先生するのを頑張ってね。じゃあ、私は家に帰るね』

「一緒に帰れなくなってごめんね。あと、明日のデート、楽しみにしているよ」

『……うん。私も楽しみ。じゃあ、また明日ね』

「ああ、また明日」


 栞の方から通話を切った。

 最後まで残念そうな感じだった。今朝、今日も一緒に帰る話になったのに、それを破ってしまったから。

 でも、明日……栞とデートをすることになったんだ。先週の金曜日以上に、明日は栞との時間を一緒に楽しもう。今のことで栞に抱かせてしまった不安をなくせるくらいに。

 そのためにも、まずは亜実と一緒に数学の宿題を終わらせることにしよう。

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