4月15日(火)
昨日、彼女と手が触れたこともあって、彼女のことを思い出すと今まで以上に鼓動が早くなっていた。微かに触れたときに感じた確かな温もりに、僕の心は鷲掴みされたのだ。
日に日に増していく彼女への好意。それは、これ以上膨らむと押さえきれなくなるくらいになっていた。
すぐに告白をするべきなのか。
それとも、何か一つでもステップを踏むべきなのか。
そんなことに悩んでいると、今日も7時30分発の八神行きの電車が定刻通りにやってきた。
扉が開くと、今日も彼女はこちらの方を向いて立っていた。とても安心する。
今日は彼女の右隣に立った。
彼女の側にいられることはとても嬉しいけれど、黙って立っているだけではダメなんじゃないかと思い立つ。
緊張するけれど、まずは話しかけてみるか。彼女との距離を縮めるためにもそれが確実だろう。あと、純粋に彼女と話をしてみたい。
一度、深呼吸をしてから、彼女のことを見る。
「……いつも、ここに乗ってますね」
どうやって話しかければいいのか分からず、とりあえず彼女がいつもここに乗っているのでそんな風に話しかけてみた。
いきなり話しかけられたからか、彼女は驚いている様子だった。でも、すぐに僕に微笑みかけてくれる。
「この場所が好きなんです。真ん中の方が降りる駅の階段には近いんですけど、混んでいるのであまり乗る気にならなくて」
大抵の駅は、ホームの真ん中に階段やエスカレータがあるからな。駆け込み乗車する人もいるし、僕もあまり好きじゃない。
「あなたもいつもここから乗りますよね。鳴瀬駅に到着するときに窓からあなたが見えると、今日もいるって毎日思います」
「……そ、そうなんですか」
凄く嬉しいな。扉が開くと僕の方を見ていないから、僕のことなんてそんなに気にしていないと思っていた。まさか、鳴瀬駅に到着するときに僕のことを見てくれていたなんて。
「やっぱり、私と同じで混むのが嫌で?」
「そうですね。あとは僕、終点の八神駅で降りるんですけど、先頭車両だと階段のすぐ近くで降りることができるので」
「終点まで行くんですか。偉いなぁ」
彼女はそう言うと僕に向かって微笑む。か、可愛いな。僕を見るときの上目遣いがとても可愛いんだ。
「私は鏡原駅までなので乗っている時間は短いですけど、八神駅までだと結構乗っているんじゃないですか?」
「だいたい30分ぐらいですね。帰りは何てことないんですけど、行きはやっぱり長く感じちゃいます」
「満員電車ですもんね。私は
上津田って鳴瀬の隣じゃないか。だから、彼女はいつも扉の近くに立っているんだな。
『まもなく、鏡原。鏡原。お出口は左側です』
彼女と話していたら、あっという間に時間が過ぎてしまったようで。鏡原駅に間もなく到着することを告げるアナウンスが流れた。
「誰かと話すっていいですよね。楽しいし、あっという間に到着しました」
「……そうですね」
彼女から楽しいという言葉が聞けて、僕はとても嬉しい。勇気を出して話しかけてみて良かった。お互いに敬語で話しているけれど、15分前よりも、彼女との距離を結構縮められた気がした。
僕と彼女の乗る電車は減速していき、鏡原駅に到着する。
「じゃあ、私はここで。終点まで頑張ってくださいね」
彼女のはきはきとした様子はとても新鮮に見えた。
「あと、5駅頑張ります。僕も話せて楽しかったです」
「私と同じで良かった。それじゃ、また明日」
彼女は小さく手を振ると、電車から降りていった。
また明日っていうことは文字通り、また明日ここで彼女と会って話せるんだ。
去り際に言った彼女の何気ない一言が、僕の心を元気づけてくれた。楽しみが一つできたのだから。
その後、八神駅までずっと混んでいたけれど、全然苦にならなかった。彼女と話せたことの余韻が浸っていたからかもしれない。
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