4月8日(火)

 今日は昨日とは違う意味で胸が高鳴っていた。

 なぜなら、昨日の電車で会った彼女のことが未だに頭から離れないからだ。

 彼女がいるかもしれないと思うだけで、苦行だと思っていた朝の満員電車が一気に楽しみになってくる。



 僕は昨日と同じ場所で、7時30分発の八神行きの電車を待つ。きっと、朝の満員電車がここまで待ち遠しいと思う高校1年生はなかなかいないだろう。

 今日も定刻通りに八神行きの電車が到着した。

 扉が開くと、今日も彼女が僕の方に向いて乗っていた。昨日は彼女のことをじっと見ちゃったけれど、変な人には思われなかったみたいだ。


 今日は彼女の右隣に立った。


 右肩にバッグをかけているので、左手は全くのフリー。彼女と恋人同士なら、手を繋ぐとか色々するんだろうけど、今はまだそんなことはできるわけがない。してもいいなら一度はしてみたいけれども!


 今はまだ、彼女の隣にいれるだけで満足だった。なので、左手で近くの吊革を掴んだ。


 今日は彼女がどの駅で降りるのかを確かめないと。昨日は彼女のことをずっと考えていたので、気付いたらいなくなってしまっていた。

 制服を見ても、どこの高校なのか全然分からないんだよな。鳴瀬駅のホームにも同じ制服を着た女子が何人かいたけれど。ただ、この制服が一番似合っているのは間違いなく彼女だ。それだけは断言できる。彼女と並んでいたら、他の女子なんてきっと霞んでしまうだろう。


 それにしても、彼女の黒髪は艶やかだなぁ。きっと、触ったら柔らかくて気持ちいいんだろうなぁ。顔を埋めてみたい。


 まずいまずい、こんなことを考えていたら顔に出てしまう。ただでさえ、チラチラと彼女のことを見てしまっているのに。彼女に変だと思われたら、もう二度と会えなくなるかもしれない。あまり変なことを考えないようにしないと。

 でも、彼女の隣にいると、そんな理性よりも、彼女に向けた本能が勝ってしまいそうで。いつしか、彼女を使ってあらぬ事を考えてしまいそうだ。


『まもなく、鏡原かがみはら駅です。お出口は左側です』


 そんな車内アナウンスがかかると、彼女はゆっくりと反対側のドアの方に体を向けた。鏡原駅で降りるのかな。


 鏡原駅に到着し、扉が開くと彼女は電車から降りていった。


 彼女は鏡原駅の近くにある高校に通っているのか。あとで、どこの高校か調べてみようかな。

 鳴瀬駅から鏡原駅まではおよそ15分。つまり、彼女と一緒にいることができるのはこの15分間だけなのか。ただ、いつもそこに乗っているとは限らない。

 明日も彼女と会うことができるのだろうか。今から期待と不安を同時に抱えてしまう。彼女に恋をしているからそうなるのだろう。1人で車窓からの景色を眺めながら、そんなことを考えるのであった。

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