第8話

「先に動いていただいたお三方が上手くやってくれているようです。しばらくは持つでしょう」

「京子が動いてるなら大丈夫だろう。この街で『鏡の陣』を使うならあいつの手に負えない相手はそうそういない」

「動力源がこの街の脈ですからねぇ。ほぼ無尽蔵ですよ。さすがの神性種も破れないでしょう」

「まぁ、あれ以上に覚醒したら手に負えんだろうがな」

「まだ強くなるんですか」

「多分な」

 二人は滝田の車で怪物が転移した街の中心に向かっていた。安い中古のミニクーパーである。フロントガラス越しに見えるのは超常現象のオンパレードだった。何本もの水柱や巨大な建築物が飛び交い、そこから逃げるように車や人が流れ出てきていた。

「どうやら市民の避難はうまく言っているようですね。事前に根回ししておいて正解でしたよ。危険区域からはあらかたの人が居なくなったようです」

「そうか。ならあいつらも存分に戦えるな」

「そうなんですが、これは事後処理が大変ですよ。どうせメチャクチャになるんですから」

「事後処理が出来る程度で済めばいいがな」

 比馬は表情を歪める。

「私たちには比馬さんが居るじゃないですか。お願いしますよ」

「嫌な期待だ」

 一際大きな音が響いた。見ると神性種の体の一部が大きく砕けている。比馬の斬撃にも勝る傷跡だった。

「あ、あれはサムソンさんが体当たりしたみたいですね。相変わらずの馬鹿力だ」

「あの水柱は台吾か。あんな偏屈がよく協力したな」

「報酬を上乗せしたらようやく協力してくれましたよ。あんなのと戦える人間はこの街に何人も居ませんからね」

 比馬質の頭上を爆音を響かせ通り過ぎていくものがあった。戦闘機だった。

「軍もさすがに動いたみたいですね」

「この国でロストニューヨークのような事件を何が何でも起こしたくないんだろう」

 戦闘機からミサイルが放たれ、神性種に向かって飛んで行く。しかし、それも触手によって弾かれた。しかし、続いて別の戦闘機が飛んで来る。軍もかなり本気のようだった。

「それにしても、あの神性種また形が変わってますよ。体も大きくなってるような」

「間近に主が居るからだろう。あとはあの神内とかいう男の力もあるのかもしれん」

「何者なんですかあの男は」

「分からんな。ただあの男自体は普通の人間だった。特殊な雰囲気は何もない」

「さっぱり分かりませんねぇ。何から何まで規格外ですよこの事件は」

「まったくだ」

怪物に歩道橋が飛んで行く。触手で弾かれるがそこら中のビルの上の給水塔から水柱が吹き出しそのすきを突いて怪物に直撃した。怪物は吹き飛ばされビルに激突する。壁面を突き破り、ビルにめり込んだ。

「もうそろそろ偉い人達の許容範囲を超えましたかね。あれほど損害は最小限に抑えるよう言ったのに」

「あいつらにがそんな言葉素直に守るわけがないだろう」

 怪物が突っ込んだビルが波打ち、はじけ飛んだ。瓦礫の中から姿を現した怪物、それを中心に景色が歪む。しかし、それは内側からの歪みと鬩ぎ合い、そして飲み込まれた。

「まずいな。奴の力が『鏡の陣』を超え始めている」

「これはいよいよ急がないとまずいですね。お、調査班からの分析結果の報告です。神性種の力はサイコキネシス系らしいですよ。スタンダードですね。分かった所でどうにもなりませんけど」

 車は都市部と市街地を分ける川にさしかかった。車はそのまま大きな橋を渡る。橋から向こうは人影がまるでない。者が崩れ落ちる轟音がどんどん大きくなる。その時だった。

「止めろ」

 比馬が言った。

「は? まだ渡りきってませんよ」

「いいから止めろ」

 滝田は仕方なく車を停める。まだ橋の半分を少し過ぎた所だった。

「どうしたっていうんですか」

「あの神性種がこっちを見ている。恐らく射程範囲ギリギリだ」

「つったって、まだ2キロ近くありますよ」

「もうそこまで成長しているということなんだろう」

 比馬の目が紫色に光り、体を黒いもやが覆い始めた。比馬は車から降りた。滝田も外に出る。

「お前は引き返せ。連絡は電話でする」

「ちょっと、勝手に行かないでくださいよ。こっちにだって作戦ってものが・・・・」

 滝田を尻目に比馬は街の方へ吹っ飛んでいった。その比馬の居間まで居た所に、唐突に巨大な杭が突き刺さった。

「わぁああ」

 滝田が転げる。見ると、それは怪物から伸びた触手だった。そして触手はまた一瞬で怪物の元へと戻っていった。後には大穴の開いた橋の路面が残った。

「真面目に先には進めませんねこれは」

 滝田は車に乗り込み。ビル群を背に橋を引き返していった。

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