2020年、夏
扉から漏れ出る冷気。快適なリビングのソファーで寝転がりながら、うたた寝をしている父。
おや、と思う。
つけっぱなしのテレビの向こうで、一点を争う高校球児たちがいた。
夏の風物詩、高校球児たちの戦い。例年、一校だけしかいない優勝校。今年は地方で開催された数だけ優勝がいる。この夏だけの特別な仕様だ。
当初は結果を見るだけだった。時間が合えばちらちらとテレビを見て、ラジオをつけて。なんとなく毎年追うようになったのは、野球好きの両親や兄の影響だろう。昔はアニメを見たいがために大泣きしたこともあったか。
他の球技よりもルールはわかる。どういう場面か、なんとなくわかる。贔屓のチームを応援したくなる。球種は相変わらずわからないが、今ではすっかり「こちら側」だ。
一点を追う球児たち。吹奏楽の演奏はなく、うだるような炎天下を吹き飛ばすような声援もないが、拍手ひとつだけの応援に万感の思いが込められているように感じた。
九回裏、土壇場の同点。延長十一回、内野安打で出塁。送りバントに成功し、一死二塁。申告敬遠で一死一、二塁。そしてレフトへの長打でサヨナラ勝ち。
上がった歓声に、父が目を覚ました。
甲子園球場とは違う音。けれども同じように鳴り響くサイレン。夏の訪れを感じるとともに、来年こそは彼らの戦いが見られることを願ってやまない。
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