地に降る影の消えた日

春には青い衣を

その身にまと

暖かな風に吹かれていた


夏の日差しを遮り

頭上高く天覆う

傘となった


秋深く

夕暮れの光に照らされて

淡い朱色に染められた


冬が来る度に衣を

知らぬ間に

新しい命を作り上げた


幾年季節は巡り

いつの間にか

当たり前のように

傍にいた存在

いつも視界の何処かに映り

やがて意識は薄れ

それでも

そこに在れば

安心感を抱いていた


その姿に、

気づいたのは何時だろう

気づいてしまったのは何時だろう


ある日ある時の帰り道

目に入った空間に

在るはずのそれが

失われていた


風にそよぐ衣もなければ

地表に降る陰もなく

朱く染まることも

ちっぽけな命も

もう何もかもが失くなっていた


それは無惨な姿で

目の前に現れた

小さな、

あまりにも小さな背丈となって


確認しようと傍に寄り

かがんだ拍子に触れたもの

小さな小さな

名残モノ


弱々しくもあり

見落としそうな程小さな

それは確かに

紛れもない

かの命であった


息を吐き

立ち上がる

広くなった空を見上げて

もう一度

あの木漏れ日を思い出す


もう戻らない

りんとしてそびえ立っていた

あの一本の姿を


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