「わたし」


 わたしはひとつの種だった。

 与えられた水を吸い、殻を破り、ふたつの小さな芽を出した。

 芽はやがてみっつの葉をつけ、根を張り、茎を伸ばした。

 よっつめの週をめぐる頃、わたしはいつつのつぼみをつけた。


 わたしはどんどん大きくなる。

 さあさあと降り注ぐしずくがあるから。

 わたしはどんどん大きくなる。

 きらきらと零れる光があるから。


 いつしかむっつの花弁をもつ花が開き、空を仰いでいた。

 こんなに雨は降っているのに。

 こんなに光はあふれているのに。

 ななつめの花が咲かない。

 ああ、ああ、どうして。


 やっつめの葉が黄色に変わっても、それでもまだ花は開かない。

 あれからここのつの日を過ぎたのに、それでもまだ花は開かない。

 そうして茶色に染まり、全ての花をしぼませた頃。


 わたしは大きく壊れ――とおの種を転がせた。


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