私は本屋の店員です3



みなさんはキーワードから物語を考えたことがありますか?

たとえば「剣」「無双」「魔王」という三つのキーワードから

「剣を振り回して無双していたらいつの間にか魔王になっていた件」

みたいな。

というかもうありそうですね。

というかなさそうなタイトルを考えるのが逆に大変なんじゃないか。

という感じで、今度は短編でも三つのキーワードから書いてみようかと思います。


ちなみに上記のタイトルの最後は剣と件をかけて……







とまあ、こんばんは。濱太郎です。

今日は本屋の店員です。いつでも本屋の店員ですが。







ある日の土曜日。

やはり、土日は客足も多く。それに伴ってやることも多くなるわけですが。

そんな忙しい中、一本の電話入りました。


まあ、電話対応の仕事をこなしていた経験もある私は

実に手慣れた口調で電話口のお客さんを迎えました(どや


「あの、欲しいゲームソフトがあるんですけど」


その一言から商品検索に関しての問い合わせだと私は予測した。

まあ、誰でも予測できますが。すぐにでも検索できるように

子機を片手にゲーム関連の棚に移動しておきます。

万全の態勢です。後はお客さんから欲しいゲームソフトのタイトルを

聞いてしまえばこっちのもんです。


「えっと、銃を撃ったり、車を運転できたりするゲームなんですけど」


おっと、予想外。

だが、ここは電話対応の百戦錬磨濱太郎(言いたいだけです

こんなことでは動揺しない。

恐らくお客さんはゲームのタイトルを忘れてしまって

わからないだけなのだろう。

実際、探す方からすればタイトルがわからないのは困るが

一応確認する。


「あーわからないです。そういうやつが欲しいなって思ってて」


ん、ちょっと違うな。

ってことは元々どのソフトが

欲しいって決めてきたわけじゃないのか!


なんだよそれ!


新しいタイプの問い合わせに少々冷や汗が垂れる。

だが、浅い知識を駆使して果敢に対応する。

恐らく彼が言っているの最近流行りのオープンワールドな

ガンアクション、車も乗れる……グランドセフトオートぐらいしか思い浮かばなかった。


「ああ、なんか聞いたことあるような」


よし、なかなかの好印象。

というか営業じゃないんだから、良い所で切り上げなければ。

こうしてゲーム棚の前で会話している間にも

忙しなく他の店員さんは動き回っているというのに!

もちろん、電話対応もお客さんに対しての大事な対応です。


「そのゲームって難しいんですか?」


まさかの質問に言葉を失った。

ムズカシイ? そんなのシラナイヨ!

友達の家で少しばかりやらせてもらったことはあるが

慣れない操作感に難しく感じた。

だが、それはあくまで私の個人論になるだけであって

お客さんに対しての受け答えとしてはベターではない。

プレイする人によって違いがあると思いますのでわかりかねます

と、そんなの知らねえよのやんわりヴァージョンでなんとか躱します。


「ふーん、そうですか。ちなみにそれってどんな物語なんですか?」



うーむまさかそう来たか。

どんな物語って、あんたどこまで説明させる気ですか?

つーかタイトル名言ってんだから、ネットつかうなりなんなりして

少しは自分で調べんかい!


と、心の中で叫んでいる間、私は不覚にも言葉が詰まってしまった。

えー、そうですね。とか言ってとにかく時間稼ぎをしていた。

すると、追い打ちの一言が。


「……あ、そうだ。ソフトの後ろにあらすじみたいの書いてますよね。それ読み上げてもらっていいですか?」







ホワイ?






ここで?




他のお客さんがひしめきあう(ちょっと誇張

店内で朗読しろと?

もうすでにこの時点で、細かい所を質問されたりと

15分は対応している。

そんな中でさらに朗読しろと?


「……あの、聞いてます?」


いけない。いつの間にか黙りこんでしまっていたようだ。

よし、言う。読み上げてやろうじゃないか!

こんな事で百戦錬磨のこの私が屈服すると思ったら大間違いだあああああ!





「えーっと……アメリカを舞台にした銃を使ったり、車に乗ったりすることが出来るゲームですね!」


言えなかった。ちょっと恥ずかしかった。なんか簡潔に言ってしまった。


「……はあ、そうですか。でも、なんか難しそうだから買うのはやめときます」


そう一言残してから、ツーツーツー、と寂しげな音が受話器から聞こえてくるだけだった。












この世界には色々な人がいる。

それを知れただけでその日はまたひとつ、成長できたのではと思います。




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