―魔王との決戦! 時空の狭間 ダークサイド―
白い光の向こう側はおどろおどろしい雰囲気に包まれている。見渡す限り空全体に黒い暗雲が立ち込めている。まるで、来訪者を拒んでいるかのようである。
《――着きました。ここは、時空の狭間と呼ばれている場所、ダークサイド》
よく見ると、ダークサイドは浮島のようになっている。島の中心からは輝きが放たれている。
「……あそこに『時』のオーブがあるのかしら?」
その時だ。突然、激しい稲光と共に島の中心に人影が現れた。
長身で肩から下ろした深緑色の髪は怪しくそして魅力的でもある。背には四枚の漆黒色をした翼がある。頭から生えた湾曲した二つの角は彼が人間ではないことを如実に示しているかのようだ。腰には黒い剣を携えている。
シュウは彼を一目見て驚きを隠すことが出来なかった。彼が放つ異様な威圧感のせいではない。彼は……シュウの友人である雁屋譲仁――ユッズにそっくりの顔立ちをしていたのである。
「ユッズ……?」
シュウの呼びかけに男はシュウをじろっと睨み付けて言った。
「……ユッズ? 何のことを言っているのかさっぱりだな」
血のように赤い瞳をきらりとさせてぞの男は口を開く。
「……貴様らがここに来たということは、シオンやアトラはすでに……。……伝説の剣を携えし少女よ、ここまでやって来たことは誉めてやろう。だが、これまでだ」
「あ……あなたは……魔王ゼルネス!」
「……いかにも。俺の名はゼルネス。貴様をここで滅する」
ブウンとゼルネスの手が輝きだす。そして、彼は腰をかがめ、その手を地面に押し付けた。
「くらえ! 【デラボルテージ】」
ゼルネスの手が地面に押し付けられた瞬間、ダークサイド全体が突如ぐらぐらとすさまじい振動が起こった。 そして、次の瞬間、ゼルネスの手を中心として巨大な爆風が発生した。爆風は、ダークサイド全体に広がっていく。
「これで……」
ゼルネスが息をつこうとした時、爆風を切り裂いてティアが姿を現す。
「このくらいであたし達は負けない!」
「……伝説の剣……ここまで力を取り戻しているとは。絶対にここで潰す」
すかさず、フロルは【
しかし、ゼルネスは右手でフロルを、左手でユーリを薙ぎ払ったかと思うと、シュウの背後に回り込みシュウを蹴り飛ばした。
「くっ……なんて身のこなしだ」
「魔物を総べる魔王というだけあるな」
「でも……ここで負けるわけにはいかない。そうでしょティア」
ティアはコクリとうなずいた。
「皆、行くわよ!」
「ほう……まだ負けを認めないというわけか……さすがに『ヘキサグラム』を倒しただけあるな」
ティア、シュウ、フロル、ユーリの四人は四方に分かれて、ゼルネスを取り囲んだ。
「俺の兄ちゃんはてめえのせいで…………。絶対許さねぇ」
フロルは渾身の力で【サウザンド・エッジ】を放つ。
「かゆいな」
ゼルネスにはかすり傷もつかない。
「私の仲間たちはあなたに殺されたようなもの……落とし前はつけさせてもらうわ」
ユーリは扇を手に持ち、高速で回転を始めた。
「くらいなさい! 【
高速で回転していたユーリは竜巻を発生させた。竜巻はゼルネスに一直線に向かっていく。
しかし、ゼルネスが黒剣を抜いて、虚空に振り下ろす。すると、空を割るような衝撃が発生し、ユーリが発生させた竜巻を切り裂いた。
「【
『ヘキサグラム』を軽く凌駕する強さにシュウは剣を落としそうになる。
「……青髪の少年に、エルフ。残念だが俺には身に覚えがない。勘違いじゃないのか?」
「ッ……ふざけるなァ! お前が部下のシルフィローゼに命令したんだろ!」
「シルフィローゼ……。そうかあいつが……。俺はそんな命令はしていない。あいつが独断でしたことだ。だが、部下の行き過ぎた行動を抑えることが出来なかったのは俺の責任でもある。今更だが、すまなかった……少年」
「お前が謝ったところで兄ちゃんは戻ってこないんだよ!」
フロルは声を大にして叫んだ。
「……なぜ? なぜ私たちの村を襲わせたの?」
「エルフか……。話してやろう。エルフの知識力・戦闘力は人間たちとは一線を画す。だからこそ、私たちの計画に参戦してもらおうと思っていたが、エルフたちは無関心だった。味方にならないのならば、障害となりそうな大きな力はつぶすに越したことはない。大義のために少数の犠牲は仕方ないのだ」
「だからって……私があなたを許せるわけないじゃない!」
ユーリはいつになく感情を表に出す。
「話は終わりだ。カタストロフィを起こすわけにはいかんのでな。消えてもらうぞ」
「そうはさせない!」
ユーリは扇を手にゼルネスに突撃した。
「……邪魔だ」
ゼルネスは【虚空斬衝剣】を放つ。
「ッ……」
ユーリはその場にどさりと倒れてしまった。
「ユーリ!」
倒れたユーリを目にし、ティアは叫ぶ。
「てめえ、クソ野郎!」
フロルはゼルネスに特攻を仕掛けた。
「…………」
ゼルネスはフロルを一瞥し、無言で【虚空斬衝剣】を放った。
「くそっ……たれ…………」
フロルの必死の特攻空しく、彼はゼルネスの【虚空斬衝剣】の前に散った。
「フロル!」
立っているのはシュウとティアそしてゼルネスのみである。
唐突にシュウが口を開いた。
「どうして、こんな酷いことが出来るの? ……ユッズは……ユッズはこんなことは絶対しない! 僕は友達だ。だからこそ分かった。お前はユッズの皮をかぶった偽物だ!」
「抜かせ! 貴様の言ってることはさっぱり意味が分からん」
「……黙れ。よくもフロルとユーリを……。僕はお前を許さないぞ魔王ゼルネス! うおおお!」
シュウの心を黒いものが満たしていく。心の闇はやがて体全体に行き渡る。そして、シュウは不敵に笑い始めた。剣となったポポが語りかけても返事をしない。やがて、シュウの全身は漆黒のオーラに纏われた。
ゼルネスはシュウの変わり様に愕然とする。
「貴様……一体何者だ……?」
「「シュウ?」」
地面に倒れ、うなだれているフロルとユーリもシュウを見て言葉を漏らした。
突然、前方にダッシュし、距離を詰めたシュウはゼルネスに剣を突き立てる。
「……速いな…………だが!」
ゼルネスは翼を羽ばたかせ、飛び上がる。そして、上空から【虚空斬衝剣】を放った。
しかし、ゼルネスの黒剣から発生した衝撃波がシュウを切り裂くと思われたその時、シュウが纏っている漆黒のオーラが巨大な衝撃波をかき消した。
「なん……だと……?」
シュウはゼルネスに右手を向けた。「イレ――」と言いかけて、彼の頬に鋭い痛みが走った。
ティアがシュウの頬にビンタをお見舞いしていたのである。
「シュウ……約束は? あの時の約束もう忘れたの?」
ティアは不安だった。またあの時のようにシュウが暴走してしまうのではないかと。
しかし、彼女の不安は杞憂であった。
シュウはティアをじっと見つめ、ニカッと笑ってみせた。
「…………忘れるわけがないよ。僕は大丈夫。もう迷わない……そう決めたじゃないか」
その笑顔にティアの不安は吹き飛んだ。シュウは大丈夫。もう暴走したりしない。
シュウは剣の柄を両手で持ち勢いよく地面に突き刺した。
「それに……僕は言ったはずだよ。君を助けるってね」
途端、シュウが纏っていた漆黒のオーラは剣先に集中し始めた。それと同時に、風も吹き始める。
「いくぞ! ポポ!」
《――はい!》
そして、シュウは叫んだ。
「彼らを再び立ち上がらせたまえ! 【リザレクション】」
すると、ダークサイド全体を覆ってしまうような光が発生する。その光を前にし、ゼルネスもティアも動くことが出来ない。
「こ……この光は……」
ゼルネスは言葉を漏らした。
巨大な光はやがて消えていく。
「お……俺は……」
「わ……私……」
光が消え去った時には、驚くことにユーリとフロルが元気な様子で立っていた。
そして、疲れ切った様子で地面に膝をついているシュウがいた。
「はあ……はあ……」
「シュウ!」
ティアが駆け寄る。
「……ティア。あいつ、ゼルネスを倒すためには、伝説の剣――ゼロを完全にしないと駄目だ。……僕たちが時間を稼ぐ。その隙に君は『時』のオーブのところへ急ぐんだ」
シュウの一言にユーリもフロルもコクリと頷いた。
「でも……」
「僕は大丈夫だから。頼むティア!」
「……分かった。死んだら承知しないから!」
ゼルネスはティアの前に立ちはだかる。
「俺はそんなことを許すわけにはいかない!」
ゼルネスは右手で目の前に六角形を描き出す。すると六角形の頂点はそれぞれ赤・緑・青・黄・白・黒の光を帯び始めた。
「これで、終わりにしてくれる! 【エメトボルテックス】」
ゼルネスが叫んだ途端、六角形の頂点からそれぞれ光線が放たれた。六つの光線は互いに凝集して一つの大きな光線となって、一直線にティアに向かう。
しかし、シュウはすかさず【イレイズ】と唱えた。
剣先から放たれた漆黒の波動が光線と交わった時、大きな爆発が起こる。爆風は周囲に広がっていく。
ティアはその隙にオーブの輝きを目指して走り出した。
「させぬ!」
爆風のせいで一歩先も見えない状況だがゼルネスはティアの前に現れる。黒剣を振りかざして【虚空斬衝剣】を放とうとした時、
「あなたの相手はこっちよ!」
ユーリの【鳳仙花】によって発生した竜巻が爆風を切り裂いてゼルネスに襲いかかる。
「邪魔をするなァ!」
ゼルネスの黒剣によって竜巻は失せてしまう。
だが、竜巻が消えたとほぼ同時に上空から無数の矢が降り注いだ。その一つ一つが白炎を帯びている。
「くらいやがれ! シュウとの合体奥義――【フレイムアロー・ザ・ビリオン】」
激しく打ちつける雨のごとく無数の矢がゼルネスに襲いかかる。ゼルネスは矢の雨のせいでその場から逃れられない。
「今だ! ティア!」
ティアはオーブに向かって走り出した。そして、ついに『時』のオーブに彼女の手が触れた。
まばゆい光がダークサイド全体に広がっていく。そして、ティアの首に掛けられているネックレスの球が七つになった。
ネックレスはまばゆいばかりに輝いている。それに呼応するかのようにティアの持っている伝説の剣――ゼロも輝きを放っている。
ティアはゼルネスを前に、輝く剣を構えた。
「……愚か者め。貴様は俺がここで止める!」
ゼルネスは雄叫びをダークサイド全体にとどろかせた。両手をティアの方に向けると、二つの六角形を描き出した。やがて二つの六角形は互いに重なり合った。
「剣よ砕け散るがいい! 【エメトボルテックス・デュアル】」
彼が叫んだと同時に、六角形から虹色の光線が放たれた。
しかし、ティアに恐怖や不安はなかった。剣から放たれる光がそういった感情を吹き飛ばしていく。
「皆のためにも、あたしは負けられない! 【ブレイズタイム】」
ティアはすさまじい速さでゼルネスに斬りかかっていく。その速さはまるで、彼女だけ異なる時間の速さにいるかのようだ。ティアは目で視認出来ないほどの速度でゼルネスを切り裂き続ける。まさに、縦横無尽に。そして、最後の一撃が、ゼルネスが放った光線ごと彼を一閃した。次の瞬間には無数の斬撃を浴びせられたゼルネスはがくりと倒れた。
「やった……」
「ゼルネスを……倒したのか……」
「私たちが……本当に……」
「これで……世界も平和に……」
四人はそれぞれの思いを口に出し、スイッチが切れたようにがくりと倒れた。
フフッとフロルが笑う。
「どうしたの、フロル?」
シュウがフロルに尋ねる。
「これでやっと終わったんだなって……そう思ってさ」
「本当にそうね」
ユーリも笑みを浮かべた。
四人がほっと息をつこうとしたその時、ティアが身に着けていたネックレスがぶちりとちぎれ落ちた。
ちぎれたネックレスから七つの球がティアが持つ剣に向かって飛んでいく。球は剣にぶつかると、はじけて消えた。
すると次の瞬間、爆発が起こり、ティアが吹き飛ばされた。剣は強い光と共にボロボロと崩れ始めた。
ブラックホールのように純粋などこまでも黒い輝きを放ちながら――
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