―Friendship is forever―

 「……フロル」

 青髪の少年は、シュウを見た。放たれる殺気は氷のように冷たい。

 少年は表情一つ変えずに言った。

 「……シュウ、何故お前がここに……?」

 シュウは声を大にして言う。

 「フロル! わけを話してくれ。君が理由なくこんなことをするなんて僕には思えない」

 フロルは短く息を吐き、

 「……どうして……お前は俺の前に現れる?」

 スラリと金属のこすれる音。腰の鞘から一対の短剣を取り出したフロルは、シュウに攻撃を仕掛ける。

シュウはポポを【夢幻変化トランスメイト】させて、フロルの攻撃をはじき返す。

 「へえ、お前……少しはやるようになったようだな」

 そこに、ようやくティアとユーリが追い付いてきた。しかし、ティアが扉の奥に行こうとしても、見えない力に押し返され部屋の中に入れない。

 「なんで入れないの?」

 ユーリも試してみたが、扉の奥へは行けず、

 「……これは結界方陣。あの少年が……? いやまさか……シュウが張ったの?」

 シュウも、ティアとユーリに気づく。

 「ごめんティア、ユーリさん。これは……これは僕の戦いなんだ」

 「シュウのバカ! 早くこれを解きなさいよ!」

 ティアの叫びもむなしくシュウは結界を解こうとはしなかった。

 「ティア。今はあの二人を見守るしかないわ」

 ユーリがそっとつぶやく。

 ティアとユーリは固唾をのんで二人の必死の攻防を見守るしかなかった。

 フロルはシュウにつぶやいた。

 「シュウ、いい根性してるじゃねえか。なら……ここがお前を楽にしてやるぜ!」

 【氷旋刃ひょうせんじん】とつぶやき、フロルは短剣を回しだす。部屋の中に発生した冷気を纏った風がシュウを切り裂こうとする。しかし、それに対抗するようにシュウは【ホワイトフレイム】を唱えた。白炎は剣に纏わりついて、冷気を切り裂いていく。

 だが、それにもフロルは余裕の笑みを口元に浮かべる。顔の上半分はバンダナで覆われており、その表情を窺い知ることはできない。

 「ほう……この技を破るとはな……」

 「フロル! 僕は君と戦いたいわけじゃない。話がしたいだけなんだ!」

 フロルは少し俯き気味に言った。

 「……うるせえ。お前に話すことは何もねえ……」

 【サウザンド・エッジ】フロルがつぶやくと、途端、彼はシュウの目の前から消えた。そして、すぐ次の瞬間ふっとシュウの背後に現れる。その一瞬のうちに無数の斬撃がシュウを襲っていた。それこそ千に匹敵するほどの斬撃を受け、シュウは血を吐き出し、その場に倒れた。

 床に飛散した血を見てティアが叫ぶ。

 「シュウ!」

 フロルはティアに向かって言った。

 「残念だったな……こいつはもう……」

 その時、シュウは震える足で立ち上がる。

 「まだだ……」

 「チッ……いいかげんにしやがれ!」

 フロルは再び【サウザンド・エッジ】を放つ。しかし、シュウが【サイコキネシス】を唱えると、フロルは壁の方に吹っ飛ばされた。

 「てめえ……何が目的だ?」

 シュウはフロルに一言つぶやく。

 「僕たちは……友達だろ!」

 その言葉が凍てついたフロルの心にも確かに届いた。だって、彼も本心では同じことを思っていたのだから。 フロルの目からは一筋の涙が流れる。

 「友達だと……バカ野郎が……。お前に俺の何が分かるっていうんだァ!」

 再び立ち上がったフロルは、渾身の力で【サウザンド・エッジ】を放った。

 「うおおお!」

 シュウも全力でフロルに向かっていく。刹那――二人の剣は激突した。そして、シュウもフロルもエネルギーが切れたように、どさりと倒れた。だが、フロルは何も痛みを感じなかった。それだけでなく、なんだか清々しくさえあった。

 二人はしばらくの間沈黙していたが、やがて、シュウが口を開いた。

 「……フロル。教えてくれないか……何でこんなことをしているのか……」

 フロルは虚空を見上げそして話し出す。

 「……俺は盗賊なんてやりたくなかったんだ、あの時までは……」




 ――あの日も普通の日だったっけ……。

 俺は山へ狩りに出かけていた。村で何が起きているかを知らぬまま、無邪気にイノシシを追いかけまわしてたよ。

 俺の両親は俺が幼いころに逝っちまってな、兄と二人暮らしだった。兄ちゃんはすごい人でさ、頭も良くて、何でも出来る人で、性格も穏やか……自慢の兄だった。

 狩りを終えて、村に戻ると、村は一変していた。凄惨な光景だった。殺された村人がそこらに転がっていて、家は焼き討ちにあったように黒く、煙が上がり、燃えカスが辺りに残っていた。いつも、一緒に遊んでいた友達も皆、皆、無残に殺されていたよ。体がバラバラに惨殺されている死体もあった。こみあげてくる様々な感情で何度も、何度も吐いた。それでも俺は村から出なかった。兄が生きていると信じていたからだ。

 俺は必死に兄を探した。生きていてくれと、ただただそう願いながら。そして、やがて、俺は呆然と空を見上げ立ち尽くしている兄を見つけた。

 兄の両手は血でまみれ、着ている衣服は飛散した血で真っ赤に染まっていた。

 目の前の状況がどういうことか俺には理解できなかった。

 兄は俺を見つけると、近づいてきて言った。

 「やあ……フロル。どうだい俺はすごいだろう?」

 俺には兄が何を言っているのか分からない。

 「力が……力があふれてくるんだよォ!」

 その時、俺は少しだけ状況が理解できた。おそらく、兄が村を壊滅させたのだということを。俺の友達も隣の家のおばさんも皆、皆、目の前の兄に殺されたのだ、ということを。

 「兄ちゃん! どうして……どうしてこんなことを……」

 しかし、俺の言葉に耳も傾けず、兄は襲いかかってくる。兄が俺を殺そうとするその瞬間、急に兄は足を止め、俺の耳にささやいた。

 「……フロル……逃げろ。俺は……俺は……」

 紛れもない優しかった兄の意志を感じた。瞳からは涙が溢れていた。いつもの穏やかな兄そのもの。

 兄の目から涙の雫が零れ落ちる寸前、一筋の閃光が貫いた。思わず俺は目をつぶる。

 そして、目を開けると、目の前には黒いマントを羽織った一匹の猫が立っていた。猫は俺を見やり、

 「君の兄さんの魂は私が預からせてもらいました。今の彼は闇の力によって動く人間兵器……とでも言っておきましょう」

 「何故兄さんを……」

 「お兄さんを元に戻してほしければ、私たちに協力しなさい」

 俺は兄を見捨てるわけにもいかず、猫についていった。それが、盗賊団ブラックシルフィ―だったんだ。




 フロルはシュウに知っている全てを伝えた。なぜ話す気になったのか、自分でもよく分からない。シュウが友達だと、言ってくれたからだろうか……。

 「それで……君は……」

 コクリとうなずくフロル。

 「君のお兄さんはどうなったの?」

 「団長の側近になっている。俺も何度か団長に不意打ちをかけようとしたが、奴は強い。俺には協力する以外兄さんを守る方法がなかったんだ」

 シュウはフロルを見やりそして言った。

 「僕も協力する。一緒にお兄さんを救い出そうよ」

 立ち上がったシュウはフロルに手を差し伸べた。不思議と嫌な感じはしない。むしろとても晴れ晴れとした気持ちで心地よい。

 「チッ……おせっかいな野郎だぜ……」

 悪態をつきながらも、フロルはシュウの手を取り立ち上がる。

 シュウが剣をポポに戻すと同時に、部屋を守っていた結果方陣が消え去る。

 結界が消え去るや否や、ティアが猛然と走ってきてシュウにグーパンチを一撃おみまいした。

 「このバカ!」

 まあまあ、とフロルがなだめるも、数秒後に彼もぶっとばされた。

 「「いってぇ~」」

 シュウとフロルが痛がるのを見てティアはうるんだ瞳で言った。

 「死んだらどうするのよ! 死んじゃったら、こうして手を取り合って笑いあうこともできないじゃない!」

 ユーリはそんな3人をみて穏やかな微笑を浮かべる。

 「シュウ、そこのあなたもこれを」

 ユーリがシュウとフロルに手渡したのは薬草だった。

 「傷にしみる~」

 「シュウ! 男がこれ位で騒ぐんじゃねぇ! ……いってぇ!」

 「情けないわね……」

 ティアは二人を見てあきれ顔だ。

 「さて、そろそろ行くわよ。君と私の目的は同じみたいだしね」

 「お姉さん……あんたが団長に?」

 「うふふ、そうよ。ちなみに私の名前はユーリよ」

 こうして、四人はフロルの案内で団長室を目指すことになった。

 その理由は四人それぞれ。フロルは連れ去られた兄を救い出すために。ユーリは彼女なりの目的があって。ティアはシュウを一人で行かせないため。そして、シュウは――フロルと共に、腐った組織を壊滅するために。


 ウィンリーブスの街で決別したシュウとフロル。彼らはこの地で再び出会い、剣を交えた。胸に抱えていた気持ちを吐き出しぶつけ合った二人。戦いの後はお互い自然と笑みがこぼれた。

 ぶつかり合わない友情なんてありえない。それと同時に修復できない友情もありえない。

 喧嘩した後は、どんなにいがみ合っていた二人でもいつかは仲直りできる。それには人それぞれ時間がかかるかもしれないけど、分かり合えないってことは絶対にない。どつきあい、笑いあう。それが〝友達〟っていうものなんだから。


 ――〝友達〟はいつまでもずっと〝友達〟なんだ。

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