―潜入―
ユーリによると盗賊団ブラックシルフィーのアジトは『セイントマウンテン』のさらに西に広がる『チッチ平原』にあるらしい。ロッドがすごいスピードで飛んでくれたおかげで、シュウが1回落ちそうになった代わりに、一時間ほどで到着した。
アジトにほど近い林の中に着陸した三人は、木陰からアジトの様子を窺う。大きなアジトはさながら一つの砦のようだ。入り口と思しき所には黒装束の見張りが二人立っている。だが、アジトは周囲を石造りの壁で囲まれているため、内部の様子はよく分からない。そこで、ポポに偵察をしてきてもらおうとシュウが提案したが、ティアが激しく反対した。
「ポポちゃんのこと知ってる奴が中にいるかもしれないでしょ? 危険だわ」
ティアの言うことは最もだ。またウィンリーブスの時のようになったら大変だし。
しかし、ポポが偵察に行けないとすると……どうしたものか。そんな時、ユーリがある提案をする。
「要するに敵に見つからないように潜入出来ればいいのよね……。なら……あの見張りを一瞬でやっつけるっていうのは?」
確かにそんなことが出来れば気づかれず侵入出来るかもしれないが……。そんな無茶苦茶なこと誰ができるのだろう? シュウはそう思った。
すると、ユーリはこちらに微笑むと木陰から飛び出した。……かと思えば消えていた。
気づいた時にはユーリは敵の背後に回っており、首にトンと一撃浴びせた。そして、見張りの黒装束はパタリと落ちた。ニコッというユーリの合図とともにシュウとティアも木陰を飛び出す。
「作戦通りね?」
「あんた……さっき何したのよ?」
「何って、向こうまで走って首をトンって」
笑って答えるユーリにシュウもティアも悪寒を感じた。
首の後ろには延髄という器官がある。延髄は人間の呼吸機能をつかさどっている、生命維持に非常に重要な器官で、そこに衝撃が加わると場合によっては死に至ることもある、というのをシュウは理科の授業で聞いたことがある。昔、どこかのプロレスラーが延髄切りという危険な得意技を持っていたらしい。プロレスラーの技に負けず劣らず、先ほどのユーリの身のこなしは華麗で鮮やかだった。
「さて、見つからない内に侵入するわよ。ちょっと楽しいわね」
「「楽しくない!!」」
アジトの中は、たいまつに火がついているだけで、薄暗い。だが、周りが見えるくらいの明るさはあった。
敵は盗賊団だ。何処かから急に不意打ちを仕掛けてくることも十分に考えられるため、慎重に進んでいこうとする。
……が、ユーリはそんな心配をしてないかのようにずんずん先に進んでいく。
その時だった。突然天井から黒装束が三人スタッと降りてきた。
しかし、先頭を歩いているユーリはそんな不意打ちにも全く動じず、どこから取り出したのか、フレイルであっという間に三人を一撃に伏した。私、結構強いのよ、というユーリの言葉を思い出すシュウとティア。だが、これほどの強さを持っていたなんて予想できるわけがない。二人は、彼女の呆れるような強さに驚くしかなかった。
三人は勢いそのままにアジトの中を進んでいく。途中、何度か不意打ちにあったが、ユーリがあっという間に倒してしまったので、特に騒ぎになるわけでもなかった。ずんずん進んでいくユーリにティアが質問する。
「ねえユーリ。今どこへ向かっているの?」
「私が探している人は盗賊団のかなり上の地位の人よ。そういう人はどこにいると思う?」
シュウは少し考えて答えた。
「上……ですか?」
しかし、ユーリの答えはそれとは違っていた。
「まあ、普通はそうでしょうね。でも……そう。普通すぎるのよ」
「どういうこと?」
「闇の盗賊団の幹部以上の人たちがそんな事考えないと思う? そんなわけない。だから、きっと彼らは逆に地下にいる。だからこのアジトの何処かにも地下に通じる場所があるはずよ。私はそれを探していたの」
何と言う奇想天外な発想なのだろうか。しかし、ユーリの考えは外れていなかった。何やら壁の一部分がへこんでいる部分があったのだ。そこは何と、布になっていて奥には下へと続く階段が続いていた。
「……すごい」
ユーリの推理にシュウは感嘆した。
「ただの女のカンよ」
三人は地下へと続く階段を下りて行った。地下はより薄暗くなっていた。
なぜかしら、シュウはふと懐かしさを感じていた。そして、先が暗くなっていてあまり見えないにもかかわらず、走り出していた。
「シュウ! ちょっと、どこへ行くの?」
ティアとユーリも後に続く。
なぜ急に走り出したかは自分でもわからない。しかし、シュウはそうしないわけにはいかなかった。目の前に見えてきた扉をガチャと開く。
――そこには、青い長髪の少年がいた。
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