7章 ― 切り裂く影 ―
―盗賊団 ブラックシルフィー―
外に出るころには二人を包む光は消えており、ブローチも光っていなかった。
横穴の外では、ロッドに乗ったユーリが待っていた。
「良かった~無事だったのね」
「まあ、なんとかね」
心配してくれるユーリに、ティアは悪い気はしない。
「さて、これからどうやってオーブを探そうか? 頼りにしていたポポは波動が感じられなくなったらしいし……」
《――すみません……》
「ポポちゃんは謝らなくていいわ。でも……困ったわね」
そんな時、ユーリがある提案をした。
「二人とも。良ければちょっと私の用事に付き合ってくれない?」
すると、ティアはプンプン怒って言った。
「あんたねえ! 今は早くオーブを集めないといけないのよ。分かってる?」
ユーリはやれやれという面持ちで
「分かってるわよ。でもね……私が〈闇〉のオーブの在り処を知っているとしたら……?」
「ちょっと待ってください。何でユーリさんが〈闇〉のオーブの事を知ってるんですか?」
シュウの質問にユーリはうふふと笑って返答する。含み笑いとはこういう笑い方のことを言うんだろうか……。
「ヒ・ミ・ツ ♡」
「あんたねえ~」
いよいよ本気で怒り出しそうなティアを抑えるように、
「ジョークよ、ユーリジョーク」
「いいから早く教えなさいよ」
「盗賊団ブラックシルフィーって知ってる?」
盗賊団ブラックシルフィー。ウィンリーブスの街で襲撃に会い、トポルの森でも、襲ってきた黒装束の集団の組織である。しかし、シュウもティアも組織の詳しいことまでは知らなかった。各地で暗躍する大盗賊ギルド。分かっているのはそのくらいだ。
その言葉を聞いたときシュウはフロルのことを思い出していた。ティアによると、フロルはおそらく盗賊団の幹部らしい。しかし、少しの間ともに旅をしたシュウにはどうしても彼のことが悪人には思えなかった。あの笑顔が、優しい言動が偽りだなんて信じられない。何かきっと理由があるはずだ……シュウはそう思っていた。
ユーリは話を続ける。
「旅の途中で聞いたんだけれど、あの盗賊団……裏にとてつもないバックがいるって噂なのよ」
「……もしかしてそれが魔王ってことですか?」
「それは分からないけど、噂はそれだけじゃないの。黒い光を放った凶悪な団員が各地で悪さをして回っている、というものよ。私はオーブの影響を受けてそうなってしまったと思うわ」
オーブに触れることで、人が変わったように悪さをするなんて、シュウもティアも信じられなかった。二人はすでに三度、オーブに触れているからだ。しかし、シュウもティアも特に体に変化は現れていない。だが、オーブの力を得て強くはなった。それは、二人とも実感していた。だからこそシュウはより不思議に思った。オーブとは一体何なのだろうか……と。
だが、そんな考えとは裏腹に、シュウはユーリの提案に乗り気であった。もう一度、フロルに会って、そして話をしてみたい。その思いがシュウを動かした。
「……分かりました。付き合いますよユーリさんの用事」
そう答えるシュウを見てティアは驚いた。
「シュウ! 今はそんなことしてる場合じゃないでしょ?」
「じゃ、ティアは途中で降ろして行きましょう。私とシュウは急ぎますから。バイバ~イ」
ユーリにそう言われてしまったティアはやむなく、
「……分かったわよ。あたしも行くわよ!」
不満気味ではあるが、納得した。
「それで、あんたの用事っていうのは何なのよ」
ユーリは人差し指を頬に当てて考えているような仕草をして答えた。
「……人探しかな」
「人探し? 何であんたが?」
ユーリはティアの質問にフフッと笑って答える。
「まあ、色々あるのよ。色々ね……。よし。そうと決まればアジトに乗り込むわよ~」
まただ。ユーリは含み笑いをすることが多い。
「えっ? いきなり行くんですか? 準備とか……」
「男の子がそんな心配しないの。さ、しっかり掴まってね。飛ばすわよ~」
マイペースなユーリにため息をつくシュウを余所に、ユーリはグリフォンのロッドに最速命令を下した。ロッドは、ひと声大きく叫ぶと、振り落とされるのではないかという程のスピードで風を切り裂き飛んでいく。
フロルに会う。会って必ず確かめるんだ。
思いはシュウの中で強くなっていく。
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