―白と黒―
奥には、ドーム状の広間があった。光を放っているオーブがそこにはあった。
広間の周囲には炎が広がっており、ブローチの光がなかったら、とても進んでいくことなど出来なかっただろう。
「これが、〈火〉のオーブ……」
ティアがオーブに触れると、広間は光で包み込まれ、ティアのネックレスには赤い球が増えて3つになった。
「また『ドラゴン』がやって来ないうちに早くここを抜けよう」
しかし、シュウとティアの行く手に立ちふさがるようにそいつは飛んできた。
見た目は先ほど戦った真紅の竜達と同じ『ドラゴン』である。しかし、体色は全体的に金色であるだけでなく、鼻先には大きな角が生え、全身が震えてしまうような覇気を放っており、先ほどの竜達とは一線を画すものであるということをシュウは感じ取った。
突然そいつは、鼓膜が破れるのではないかと思ってしまうほどの雄叫びをあげた。
あまりの音量に二人とも両手で耳をふさぐ。
『貴様か……伝説の剣を持つ者とは。仲間たちの無念、晴らしてくれる』
雄叫びと共に金色の竜は輝く炎を吐き出す。
反応したティアが【アブソリュート・ゼロ】を繰り出す。だが、金色の炎の勢いは弱まるどころか強くなっている!
シュウはとっさにティアに横っ飛びして、間一髪、金色に輝く炎はシュウの袖を焼いただけで済んだ。
「くっ……貴様『ヘキサグラム』か?」
《――先ほど感じた殺気はあなたですね》
『いかにも。我は魔王軍大幹部『ヘキサグラム』――《
「【アブソリュート・ゼロ】が通じないなんて……」
先ほどドラゴンたちを一瞬のうちに凍らせた奥義も、ライノスには通じない。
ティアを一瞥したライノスは言った。
『我の炎――【セインフレア】はいかなる物理的干渉を受けん。ゆえに、貴様の冷気を纏った斬撃などは吸収するのみよ! ここが……貴様らの墓場だァ!』
再び【セインフレア】が二人目がけて、ライノスの口から吐き出された。シュウとティアは何とかかわすことが出来たものの、目の前にはその動きを呼んでいたライノスが見るからに凶悪そうなツメをかざし、待ち構えていた。ライノスはそのツメでシュウを切り裂く。
間一髪、ティアの剣がそれを防いだ。
『少しは出来るようだな……面白い』
「ティアもしかしてキミも……」
ティアはコクリとうなずいた。
オーブの光に包まれたときシュウは自分の中に新たな力が宿るのをなぜかしら感じていた。どうなるかは分からないが、この現状を打破するためには、やってみるしかない。
シュウは頭に浮かぶフレーズをよどみなく声に出す。【ホワイトフレイム】と唱えると、シュウの手から白く輝く炎が飛び出す。暖かく優しい炎。
『むおっ!』
白炎はライノスを焼き尽くすかと思われたが、ライノスは金色の炎【セインフレイム】を吐き出し、白炎を消し飛ばした。
『これは……オーブの力か? だが、ぬるい。この程度の炎で我の鱗は破れぬわ!』
ライノスの鱗は少し焦げた跡がついているだけだ。
「これならどう?」
ティアが【クロノフレイム】と叫ぶと、彼女の手から渦巻く黒炎が飛び出す。黒炎はライノスに一直線。
『こざかしい!』
ライノスは尾を振り回してティアを吹っ飛ばした。吹っ飛ばされたティアをシュウが受け止めた。
『笑止! 我の炎の前に消え去るがいい!』
ライノスは再び【セインフレア】を放った。
シュウとティアはそれぞれ剣先から白炎と黒炎を出して対抗するも、金色の炎は止まらない。二人は横っ飛びして炎をかわす。
決死の覚悟で放った炎も目の前に立ちふさがるライノスには通用しない。
しかし、シュウもティアも希望を捨ててはいなかった。一つ一つでは防がれてしまう攻撃も、同時に行えば通用するかもしれない。
シュウとティアは互いを見やり、うなずく。
そして、ライノス目がけ、同時に炎を放った。
白炎と黒炎が混じり合い、ライノスの【セインフレア】と激突する。
「「くらえ! 【カオスフレイム】」」
白と黒が混じり合って灰色となった炎は、金色に輝く炎を消し飛ばし、ライノスに直撃した。
『こんな……こんな力がァ!』
灰色の炎は金色の竜を包み込み、炎が消え去るころには、竜もいなくなっていた。
「やった……のか?」
「ふう。シュウとぴったりタイミングが合って良かった。ありがとう」
「ねえ……ティア思ったんだけど、オーブって何なんだろう?」
ティアはシュウを不思議そうに見つめている。
「……急にどうしたの?」
ティアの言葉に、シュウは、
「いや、ごめん。忘れてくれ。外でユーリさんが待ってる。早く行こう」
「もう、なんなのよ~」
竜の巣――ドラゴニックヘヴン。
自分たちがここに来なければ、ドラゴンたちは今も穏やかに暮らせていたのに……。
シュウはなんだか少し、苦い思いをかみしめていた。
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