―竜の巣―
火山というだけあり、すさまじい熱気である。
ここは『セイントマウンテン』上空。グリフォンのロッドに乗ったシュウ、ティア、ユーリの三人は着陸できそうな場所をを探すも、周りは岩肌になっており、とても着陸できそうにない。
「うーん困ったわね……」
ユーリがつぶやく。
……と、ティアが何かを発見した。シュウが示された方向を見てみると、何やら穴が開いている。もしかしたら、中に続く洞窟のようになっているのかもしれない。
「ユーリさん、あの横穴に行くことはできますか?」
「行けないこともないと思うけど、さすがにロッドが入るのには小さすぎて無理ね……。シュウとティアが行ってきて。私は外で待機しているわ」
「せっかく付いて来てくれたのに、ごめんユーリ」
「ティアが気にすることないわ。気を付けてね。旅の途中で噂に聞いたんだけれど、この山には『ドラゴン』が住んでいるらしいから。ま、あくまで噂だけど」
ドラゴンだって? シュウもティアも伝説上の生き物だと思っていた『ドラゴン』が実在するのだろうか? だが……用心するに越したことはない。二人は、いったんユーリと別れ、火山の横穴へと入っていった。
「……無事に帰ってきてね」
ユーリはそっとつぶやいた。
横穴の中は熱気のせいなのか、非常に蒸し暑かった。
「ポポ、波動は感じる?」
《――この奥から確かに感じます。ただ……》
「ただ?」
《――いえ。何でもありません。先へ進みましょう》
シュウはポポの言動が少し気がかりだったが、歩みを進める。
『そこから先は我らの聖域。立ち去れ』
「な……何?」
奥の方から低い声が聞こえてきた。
途端、地響きが起こる。地鳴りは洞窟全体に響き渡る。そして気が付いた時には二人の前に立ちはだかるように、真紅の竜が立っていた。
大きな体。小さなビル暗いほどの大きさで、背中には見上げるような大きな翼が生えている。しかし、その大きな図体の龍は狭い横穴ではない。二人の先には狭い横穴と対照的に、広い空間があるようで、そこに赤い竜はいたのだ。その鱗はルビーのような赤。ドラゴン――それは伝説上の生き物。目の前の真紅の龍もそれに見合うだけの強烈な覇気を放っている。
碧眼でシュウとティアを見定め、赤い竜は語りだす。
『この先は竜の巣――ドラゴニックヘヴン。人間が来るべき場所ではない』
真紅の竜は二人を睨み付けるような目つきでそう言った。
「僕らはオーブを求めてここまでやって来ました。オーブを渡していただければ、僕たちはすぐにここから立ち去ります。オーブを渡していただけませんか」
真紅の竜はシュウをじろりと睨んだ。
『何故、人間がオーブの存在を知っている。オーブは我ら竜族の至宝。貴様らに渡すわけにはいかない』
シュウはポポを呼んだ。【
「……戦いたくはなかったが、無理やり通させてもらいます。ティア! 行くよ!」
「言われなくてもそのつもりよ!」
ティアも剣を抜き真紅の竜目がけて突進を仕掛ける。
シュウは【ヘルフレイム】を唱え、業火が真紅の竜を包む。
『くっ……何だこの力は』
だが、真紅の竜は炎を薙ぎ払い、【ヘルフレイム】に劣らないような業火を口から吐き出す。しかし、ティアがシュウの目の前に立ちふさがり、【アブソリュート・ゼロ】を放った。すると、吐き出された業火は一瞬にして氷塊となった。
『そ、その剣は! なぜ伝説の剣がここに……』
真紅の竜は最後に何かを言いかけて、氷塊となった。
「ふー。意外とあっさりだったわね。それにしても、ここ……熱い」
剣を鞘に納めたティアが不平を漏らした。
この先は竜の巣――ドラゴニックヘヴンだと言っていた。もしかしたら……この先にもたくさん『ドラゴン』がいて、襲ってくるかもしれない。そう考えたシュウは、ポポを剣に変えたまま、先に進んでいった。
火口が近づいているせいなのか、奥に進めば進むほど、強い熱気が二人に押し寄せる。熱気に耐えて先へ進んでいくと、周りが溶岩に囲まれており今までとは比べ物にならないような熱気が二人を襲う。
その時、大きな羽音と共に、真紅の竜たちが姿を現した。しかし、すさまじい熱気のせいでシュウもティアも今にも倒れそうな状態だ。シュウの目の前がだんだんと霞んでいく。真紅の竜たちは、二人目がけて一斉に炎を吐き出す。
突然シュウの胸のブローチが輝きだす。あの、ウィンリーブスの怪しい商人にもらったブローチだ。ブローチから放たれる光はシュウとティアを衣のように包み込み、炎をかき消した。それだけでなく、二人は先ほどまでのすさまじい熱気を全く感じず、むしろ爽やかな気分だった。
「こ……これは」
ブローチは強い輝きを放っている。真紅の竜たちはその輝きでめがくらんでいた。その隙をついてティアは【大地斬】を放つ。竜たちはなぎ倒され、ブクブクと泡立つ溶岩の中に落ちて行った。
「このブローチは一体……?」
光を放つブローチはウィンリーブスで譲ってもらったものだ。理由は分からないが、ブローチが光りだしたら、熱気をあまり感じなくなったのは事実だ。このブローチは一体……?
シュウが立ち止り思い悩んでいると、ティアが袖を引っ張り、歩き出す。
「な、何?」
「そのブローチの謎はあとよ。また竜たちが襲ってこないうちに早くオーブを手に入れて脱出しないと」
ティアにそう言われたシュウは、ブローチの謎をいったん頭の隅に置いて並んで歩き出す。
オーブはもうすぐそこにあると信じて。
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