6章 ― 聖なる山 混じり合う二つの炎 ―
―再会―
イルブリーゼに到着するころにはシュウもティアもすっかり疲労困憊していた。砂漠から戻ってくるのに思ったよりもずいぶん時間がかかり、辺りはすっかり夕闇に包まれている。
二人は、すっかり顔なじみとなってしまった宿屋のおばさんに挨拶をして、受付を済ませる。
さて、と宿屋のラウンジで腰を落ち着けたシュウは、次のオーブへ向かうために、ポポに力の波動を探ってもらう。すると、ポポが驚いた様子でこう言った。
《――大変です! 波動が三つ消えています!》
「な…何だって!」
「波動が消えた……どういうこと?」
シュウもティアも顔を見合わせ驚く。
《――分かりません。ですが、一つだけ感じる波動はここからずっと西の方角です》
「……三つ波動が消えてしまった理由は分からないけど、今はとりあえずその一つを探しに行こう」
翌朝、目を覚ましたシュウとティアは地図を確認する。
イルブリーゼのはるか東、そこには『セイントマウンテン』という山があるらしい。付近に村や町などはないらしい。
地図をしまい、シュウとティアは『セイントマウンテン』に向け、王都を出発した。街を出るとき、ティアは背中に誰かの視線を感じたような気がした。が、特に気にするそぶりもなくシュウについていく。
――男はその双眸で街を出ていくティアをじっと見つめていた。
「ふふふ……ジンを倒すとはな……なかなかやるじゃないか」
口ひげを蓄えた男はつぶやく。
「くっくっく……まさに、計画通り。オーブが我らの手に集まるのも近い……。ゾクゾクするな……ふっハッハッハ!」
青い髪の少年は、立ち上がり、不敵に笑う男を見て吐き気がするような思いを感じていた。
平原を過ぎ去り広い鬱蒼とした森の中に入り、森を飛んでいる虫にティアが恐怖しつつ、二人は東に歩き続けた。
歩きながら、ティアはふと思ったことを口に出した。
「そういえば……シュウはこっちに来る前はどうしてたの?」
ティアはこっちの世界――レイゼンベルグに来る前の彼を知らない。
「……僕はここに飛ばされる前は、普通の高校生だったんだ」
『高校生』という言葉をティアは聞いたことがない。それは一体どういう職業なのか?
「『高校生』っていうのは、学校に通って、勉強して、友達と話したりして……」
「えっ! じゃあ、シュウって学者だったの?」
「うーん……学者とはちょっと違うような……。でも、一応勉強してるし、そういう意味では一応学者なのかな……?」
「ふーん。それで、友達とはどういう話をしてたの?」
「話って言ってもくだらないことだよ。昨日の夜何してた……とか。先生のパンツがTバックらしい……とか」
笑いながら話をしているシュウを見て、ティアは、シュウはやっぱり元の世界に帰りたい、いや帰るべきではないか――と、そう思った。しかし、その思いを口には出すことはなかった。
ふと、ティアは前方に何者かの気配を感じ、剣を構える。
警告するような口調でティアが告げる。
「そこにいるのは誰?」
木陰から出てきたのは、紫色の長髪を一本に縛って下ろし、金のロザリオをつけている女性が立っていた。
「ユ、ユーリじゃない!」
「フフッ。ティア、驚かせてごめんね」
ユーリはレスタ村で、傷ついたシュウを看病してくれた人である。旅のシスターらしく、またすぐに旅に出かけたらしいのだが、今シュウの目の前にいるのは間違いなく、そのユーリだった。
「あんた、どうしてこんなところに?」
「ん? ちょっと用があって、空を飛んでいたら、あなたたちを見つけてね。声をかけてみようと思ったの」
空を飛んでいたという彼女の言葉を聞いて、シュウもティアも驚きを隠すことが出来ない。
……そんなこと可能なのだろうか?
「おいで」
ユーリが呼ぶと、大きな動物が姿を現した。四足歩行で、鷹のような翼をもち、ライオンのような下半身をしている。体色は全体的に白っぽい色をしている。
「ユーリ……その動物は?」
インパクトのある見た目に驚いたティアが質問する。
「この子はグリフォンのロッド。私の友達よ」
ユーリは、かわいいでしょ、と笑っているが、シュウにはとてもかわいくは見えなかった。むしろ、少し怖かったほどだ。だって……顔がイカツイんだもの……。
「この子に乗って空を飛んでいたのよ。ティアとシュウは何してたの?」
ユーリは、二人からオーブを集めるために、今から『セイントマウンテン』に向かわなければならないことを聞いた。
「『セイントマウンテン』ねえ……。……よし。私も一緒に連れてってくれない?」
突拍子もないことを言い出したユーリに二人は困ったような表情を見せる。
「はあ? あんたねえ……本当に分かってんの? また敵に襲われるかもしれないのよ」
「ふふん。舐めてもらっちゃあ困るわ。少なくとも丸腰のシュウよりは強いと思うけど」
さりげなくすごくバカにされてしまったシュウは弁解するように
「いやいや、僕も前とは違うんですよ」
「何が違うっていうのよ?」
シュウはあれこれ説明するのがめんどくさくなったので、
「まあ、剣が使えるようになったんですよ」
とだけ言う。
ユーリはこれはたまげた、という様子。ユーリにはシュウが剣を扱えるような筋肉を有しているなど到底思えなかったからだ。
「もう、シュウ! 早く行かないとまた日が暮れるわよ!」
ティアはそそくさと行こうとする。しかし、ユーリがそれを止めた。
ニヒルな笑みを浮かべ、ティアに言う。
「待った。あなた達、どうやってあの山を登るつもり?」
「普通にがんばって登るけど?」
ユーリはため息を一つつく。
「あの山は普通の山じゃないのよ。火山なの。しかも周りを岩山に囲まれているから、普通に登っていくのは不可能よ。根性論が通用するのはお話の中だけよ」
「じゃあ、どうすればいいのよ?」
にっと笑ったユーリは
「だから私も付いていくって言ったでしょ。ロッドに乗ればすぐに行けるわ」
シュウは考えていた。ユーリさんは危険な場所だとわかっているのに、どうして僕たちと一緒に行こうとするんだろう? 何か別の目的でもあるのだろうか……?
思い切って、ユーリに直接聞いてみることにした。
「ユーリさんはどうして、そこまでしてくれるんですか?」
少しの沈黙の後、ティアの方を見てユーリは答えた。
「……友達を助けるのは当たり前のことじゃない」
その言葉にシュウとティアは顔を見合わせ、にっと笑う。
かくして、シュウとティアは『セイントマウンテン』へと飛び立った。
新たな仲間ユーリと共に。
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