5章 ― 砂塵吹き荒れる古の地 ―
―野営―
イルブリーゼ王国はまだ、魔物に襲撃された際の影響が残っているものの、以前よりかは人々の活気が戻ってきていた。
シュウとティアは真っ先にイルブリーゼ城へと向かって歩いて行く。
城内に入るや、騎士が声をかけてきて、すぐに、王様のところへ連れて行かれた。
「おお、無事帰ったか」
王様はほっと息をついた。
「実はな……この城の地下から古文書が見つかったのじゃ。」
「古文書……ですか?」
「左様。古文書によると……オーブは七つ存在するらしい」
……ん? でも確か、ポポが感じた力の波動は六つ。どういうことだ?
王様の話は続く。
「オーブにはそれぞれ司る力が異なり、『風・地・水・火・光・闇・時』が存在する」
『風』はヘキサグラムに持っていかれたし、『水』は僕らが手にした。残りは五つか……
「その中でも『時』のオーブは時空の狭間を作る力をもっているそうだ」
「……もしかして、ポポが六つしか力の波動を感じることができなかったのも……」
「おそらくは、、時空の狭間の中に存在しているのじゃろう。だが、古文書にはこうも記されていた。『風・地・水・火・光・闇』の六つのオーブを集めることができたとき、青い鳥に導かれる……と」
「……つまり、六つのオーブを手に入れれば、時空の狭間に行けるかもしれない、と」
「古文書に書かれていたのはこれだけじゃ。魔王の企みを阻止するためにも……頼んだぞ」
王様の話を聞き終わったシュウとティアは城を出た。シュウはポポに、力の波動の出ている方向を尋ねる。
《――感じる波動は五つ。一番近いものですと、ここから東の方ですね。》
ティアに世界地図を貸してもらって、東の方を見てみると、イルブリーゼ王国の東方には、『インフィニティデザート』と呼ばれる広大な砂漠が広がっている。
「ポポ……どういうところか知ってる?」
《――いいえ。ですが、――死の砂漠とも呼ばれている地域だそうです》
その言葉を聞いて、ティアは少し身震いした。
イルブリーゼを出て東へ進む。気づけば辺りは夜になっていた。
「……今日はここで野宿かな」
シュウが提案すると、ティアは少し顔をしかめて
「はあ~……仕方ないか……」
シュウは〝冒険者セット〟からテントを取り出して、組み立て始めた。その間ティアは炊事の準備を始めていた。しかし、シュウはテントを組み立て終わったときある重要な事実に気づいたのだった。
テントが……一つしかないのである。
「……どうしようティア……」
「なに? もしかして壊れてた?」
「いや……テントが一つしかない」
ティアは一つしかないのは当たり前だと思ったが、少しして、焦ったような顔をした。
テントが一つしかないということは……二人は一緒のテントで寝なければならないということである。
すったもんだで、どっちがテントの外へ行くかで口論が始まった。
しかし、人間、腹が減っては戦もできないというもの。シュウの腹のラッパを合図に、二人はいったんテント問題を頭の隅に置き、食事をとることにする。
手持ちの食材で作れたのはカレーだった。香ばしい香りが食欲をそそる。腹を空かせていたシュウはそれこそ、飲むようにカレーを口に運んだ。
さて、食事を終えた二人には、テント問題が待っていた。ティアがある提案をする。
「じゃんけんで負けたほうが外で寝るっていうのは?」
しかし、シュウはその提案には乗らなかった。
「……いいよ。僕が外で寝る。ティアは中でゆっくり休んで。魔物が襲ってくるかもしれないし、見張りもかねて、僕は外で寝る」
「えっ……でもそれじゃあ、シュウが……」
「いいから! ポポがいるし大丈夫。 ティアはテントで寝て! それじゃあ……おやすみ」
ティアはシュウに強引に背中を押されテントの中に入っていった。
砂漠は昼と夜で寒暖の差が激しいらしいが、砂漠に近づいている影響が少なからずあるのだろう、外は思ったよりも寒かった。魔物の気配も特に感じることはなく、辺りは静寂に包まれていた。
そんな時、テントが開いて服を着替えたティアが出てきた。
「ティア……どうしたの?」
ティアはシュウを見つめて言った。
「そんなとこで寝てると風邪ひくわ。あんたも入りなさい」
「え? だってそれ一人用だし、女の子と一緒のテントで寝られるわけないだろ」
そんなシュウの言葉を聞かず、
「いいから早く入りなさい! この意地っ張り!」
ティアはシュウの袖を強引につかんで、テントの中に引きずり込んだ。
テントの中には二人分の毛布が置いてあった。
「少し狭くなるけど、それくらい我慢するわ。……変なことしないでよ!」
そう言ってティアはそそくさと毛布を羽織って横になった。
ポポがクスッと笑って、
《――シュウさん、見張りは私がしてますから今日はここで休んでください》
「……ありがとう」
シュウは毛布を羽織りティアの隣に横になった。テントの中は外とは違って暖かかった。
やがて、夜が明けて朝がやって来る。
テントの入り口から漏れる朝日によってシュウは目を覚ました。
昨日のお礼を言おうと、寝返りを打ってティアの方を見ると、彼女はまだすうすうと眠っていた。その天真爛漫な寝顔にシュウは少しドキッとする。毛布からはみ出していたすらりとした腕が寒そうに見えたので、毛布をかけてやる。ふと、ティアは笑顔を浮かべる。
どんな夢を見ているのだろうか? シュウはフッと少し笑ってテントを出る。
シュウが朝食の準備をしていると、まだ寝ぼけ眼のティアがテントから出てきた。
「おはよう」
ティアは欠伸をひとつして、おはようと言った。
そして、シュウをじっと見て
「……変なことしなかったでしょうね?」
シュウは呆れ顔でため息をついて
「そんなことしないよ。ほら、朝ご飯できたから早く食べよう」
「うん!」
一晩おいたカレーは絶品というにふさわしい味だった。ティアもその味に満足している様子である。
食事を終え、身支度を整えて、いよいよ『インフィニティデザート』へ向けて出発だ。
野宿の後片付けをすまし、僕たちは踏み出した。
――死の砂漠への一歩を。
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