―時空の使徒―
ティアは暗闇の中、目を覚ました。
全身に刺すような痛みが走り、体を起こそうとするも力が入らない。
……と、隣に誰かが倒れていくのに気づく。――シュウだ。シュウが倒れている。ティアは何とか体を起こし、倒れているシュウに呼びかける。
「シュウ! ねえってば! お願いだから目を開けてよ……」
ティアの目から涙が零れ落ちようとしたその時、シュウは気が付いた。
「……ティア……よかった……」
「シュウのバカ! もう……目が覚めないのかと思ったじゃない……」
「……ごめん。でもきみを助けるためだったんだ」
そう言われて、ティアは、自分が倒れた時の状況をようやく思い出した。自分は背中から短剣で突き刺され致命傷を負い、倒れた……。でも、背中や胸には傷のようなものはない。
「ねえシュウ……あいつらはどうしたの?」
「……僕が倒した」
ティアはその言葉を信じられなかった。丸腰のシュウが、戦闘に慣れていると思われるあの男達を倒すなんていくらなんでも無理な話だ。
「……助けたかったんだ」
「えっ?」
「僕はあの時きみを助けたいと強く思った。そしたら……自然と力が湧いてきて……。突然ポポが光に包まれて、剣になったんだ。その剣を手に、僕はあいつらと戦った。そして勝ったんだ。ティアの傷も、その時治したんだ。でも、正直言ってよく覚えてない。剣をどう振るったのか、どうやって奴らを倒したのか、あまり覚えいていなくて……頭がズキズキする。でも、きみを助けるために僕は奴らと戦った。それだけは分かる」
「シュウがあたしを……」
「うん。不思議と頭の中に浮かんだフレーズを口にしたら……。きっとこれが、魔法ってやつなのかもしれない……」
ティアにはまたしても信じられないようなことだ。魔法なんて、おとぎ話でしか聞いたことがない。シュウが魔法を扱えるなんて知らなかったし、ポポが剣になったというのも驚きだ。
「……それで、その剣はどこにいったの?」
ティアに言われてシュウも初めて気が付いた。あの時握っていた剣が……ない。一体どこへ消えてしまったのだ……
そんな中、一羽の小鳥がパタパタとシュウのところに飛んできた。それは、矢で射ぬかれ、ピクリとも動かなかったはずの……ポポだった。シュウもティアも目を丸くしていた。だって、目の前に飛んでくるポポには傷跡など何処にも無かったのだから。
「ポポちゃん、平気なの?」
《――ティアさん心配してくださってありがとうございます。私は大丈夫です》
「……ポポ。信じられないかもしれないけれど、きみは剣になって、僕とティアを助けてくれたんだよ」
《――あの、実は私、失われた記憶があの時、戻ったんです》
「……あの時って君が光に包まれたとき?」
《――はい。あの時私は、意識がだんだんと霞んでいく中で、シュウさんの強い思いを感じたんです。ティアさんを助けたい、というシュウさんの心の叫びが。それがきっかけなのかは分かりませんが……私は少し思い出しました。自分のことを》
「記憶が戻ったの?」
シュウが尋ねる。
《――まだ完全に思い出したわけではないのですが。私は――》
そこに、ティアが横やりを投げ込む。
「んも~とりあえず話はこの森を抜けてから!」
「え、でも……」
「あたしは早くここから出たいの! ポポちゃんのことは気になるけど、話しながら歩けばいいじゃない。今は森から出る方が先よ」
確かに……今の状態で、魔物に襲われたら自分も、ティアもまずいかもしれない。ここは、森からさっさと出たほうがよさそうだ。そう考えたシュウは、そそくさとこの場を去る。
森を抜ける道中、ポポが思い出したことについて語ってくれた。
《――私は、フェニックス。……『時空の使徒』と呼ばれる存在です》
「フェニックス? 時空の使徒?」
フェニックスと言えば……神話に出てくる伝説の鳥だ。不死鳥とも呼ばれていたはずだ。
「……あたしは聞いたことあるわよフェニックス。フェニックスは、永遠の時を生きると伝えられている伝説の鳥。でも、こんなに小っちゃいなんて思わなかったわ」
《――小っちゃい言わないでください! 私は時空の使徒としてはまだ未熟で、それで修行もかねて、世界を見て回ってこいと、あのお方に言われたんです》
「あのお方? そもそも、時空の使徒ってなんなの?」
《――時空の使徒とは、あのお方、『次元神』さまにお仕えする者のことです》
「…………もしかして、その『次元神』って白髪であご髭が異様に長いお爺さんじゃない?」
シュウは、あのなんだかよく分からない真っ白な空間で出会った、哀しそうな瞳の老人を思い出していた。
《――なんで知ってるんですか? シュウさんお会いになったことがあるんですか?》
ポポの話を聞くと合点がいく。やはり、あれは夢ではなく、あの爺さんが……。
「ま……まあね。僕をこの世界に飛ばしたのはたぶん……その爺さんだし」
「シ、シュウあんた……やっぱただ者じゃないわね……」
ポポが話を続ける。
《――それはさておき、私はあの日、尋常ならざる力の波動を感じたのです》
「もしかして……オーブ?」
《――力の波動の発信元に急ぐ私は不運にも、山賊たちの罠にかかることになるのですが、今にして思うと……あの力の波動はシュウさんから放出されていたものだと思います》
「僕から? 僕にそんな力はな……」
《――いえ、あるんです。だからこそ、私は先ほど、シュウさんの剣になったのです》
「それってどういうこと?」
《――フェニックスは、主君の力の象徴する鳥でもあるのです。記憶をなくしていた私にとって、主君はシュウさんでした。そして、剣になった私を使ってシュウさんは圧倒的な強さで敵を倒しました。これは、シュウさんの潜在的な力の影響だと思います》
「でも、僕、あの時はただ必死だったから……」
そう。ただ我武者羅だっただけだ。
《――もしかしたら、その強い心の動きでシュウさんは覚醒したのかもしれませんね》
「覚醒? 僕は僕だよ」
自分は普段と変わらない至って普通の高校生のはずだ。少しはこの世界にも慣れてきたけど。
《――シュウさんはまだ、自覚していないだけです。自分が〝魔法剣士〟になったことを》
聞きなれない言葉にシュウは首をひねる。
「〝魔法剣士〟? だって魔法はポポが使ってたんじゃ……?」
《――記憶を取り戻すまでは私も自分が魔法を使えるのだと思ってました。でも違うんですそもそもこの世界に魔法なんてものは存在しない。そうですよねティアさん》
ティアは僕をじっと見つめてからこう吐き捨てた。
「ええ。おとぎ話とかでは聞いたことはあるけど」
《――私はシュウさんの内に秘められた力――念とでもしましょう――を媒介していただけに過ぎないんです。実際、私は火球を出したりできませんでした》
「僕が……魔法を……使える……。もしそれが本当だとしたら……僕はきみを助けることができる!」
「ふん! あんたなんか当てにしないわよ!」
「なんだよ~。少しくらい手助けになるだろ~?」
ティアは余計なお世話! と言って、歩き始めた。
「あたしはあなたがいるだけで十分助けに……」
ティアが何かモゴモゴ言ってるように見えた。
そんなティアを見て、ポポはにっこり笑っていつものように僕の肩に乗った。
森を抜けるころには、もうすでに夜が明けていた。風は穏やかで、太陽が美しく地上を照らしだしている。僕は今、ティアとポポがいることが嬉しかった。こうしてまた、皆で笑顔で、隣に膨れ顔もいるけど、一緒にいれるのが嬉しい。
……あいつは、フロルは今何してるんだろう? 同じ月を眺めているのかなあ……。
王都『イルブリーゼ』はもうすぐそこに迫っている。
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