3章 ― 王都 イルブリーゼ ―
―魔王と英雄―
見上げるように高いアーチ状の門をくぐると、そこには人々の活気に包まれた街があった。王都というだけあり、人口密度はウィンリーブスのそれとは段違いだ。
ここは、王都イルブリーゼ。街の向こう側にはそびえたつ城、イルブリーゼ城がある。
「やっと着いた~」
ティアが疲れきった表情で言った。
森であんなことにならなければ、もっと早く到着できたものを……。
僕らは疲れきった身体を休めるために、真っ先に宿屋へ向かった。僕は大金の入ったサイフを失くしてしまい無一文だったので、宿屋の代金は、仕方なくティアに払ってもらった。完全にヒモである自分に幻滅せざるを得ない。
いったん部屋に荷物を降ろして、ロビーに向かうと、ティアが待っていた。
「よし、とりあえず王都に着いたわけだけど……ポポ、力の波動はどう?」
《――近いです。ここから波動が放出されていると考えて間違いありません》
オーブと思われる、強い力の波動の源がここにあるらしいのは分かった。だが、宿屋に来るまでの道ですら人が二十人並んで歩けるような大通りであり、こんなに大きな街でどうやって探せばよいのやら……。
ティアはあごに人差し指を当てて言った。
「オーブってすんごい秘宝なんでしょ? だったらお城とかに厳重に保管されてるんじゃない?」
なるほど、確かにその可能性はある。ティアの持つ伝説の剣――ゼロの言うことが本当ならば、オーブは国宝級の代物だ。城に厳重に保管されているのが普通だ。
「僕もティアの意見に賛成。今日は一晩ゆっくり休んで、明日お城へ行ってみよう」
「分かったわ。じゃあまた明日」
僕は部屋に戻ってベッドに横になる。一分と経たないうちに僕は眠りに入っていた。
翌朝、ジャムパンと野菜サラダという簡単な朝食を食べ終えて、僕らは宿屋を出た。城へ向かって歩いていく。昼間ということもあって、通りは大変なにぎわいだ。城の前まで来て、甲冑に身を包む門番に呼び止められた。
「お前たち、旅人か? 見ない顔だな」
顔を見てこの王都に住む人間であるかわかるらしい。王都の住民の顔をすべて覚えるのは容易なことではない。この門番、地味ながらもすごい能力をもっているようだ。
「はい。この街には昨日訪れたばかりなのですが、大きな街ですね」
「そうだろう。何せ我らがイルブリーゼ王は、このランド大陸を総べるお方だからな」
「それで、あたし達、お城に入って見たくなって……駄目ですか?」
門番は少し笑って答えた。
「普通の国ではそうだろうな。城に部外者を入れるなど有り得ないことだ。だが、王様は民のことを非常に大事にしておられるお方。民との交流を図るべく、この城も昼間は開放しておるのだ。あそこを見てみろ」
門番が指すところを見ると、子供たちが走り回って遊んでいる。
「城によく遊びに来ている子供たちだ。お前らも入っていいぞ。ただし、忠告しておくが、よからぬことを考えるなよ」
城を開放しているなんて、すごい王様だなあと僕は感服する。
僕らは門番に軽く会釈して城の中に入った。城の中は赤い絨毯が敷かれており、天井にはシャンデリアがぶら下がっている。門番が言っていたように、王宮騎士以外にも、街の人たちや旅人もたくさんいた。城は三つの階層で出来ていて、一階はイルブリーゼ王国の発展の歴史などが展示されていて、図書館もあるため、さながら博物館のようになっていた。二階は騎士たちの部屋になっていて、訓練場や騎士の休息部屋だけでなく、調理場などもあった。街の人と世間話をしている騎士や、オバチャンに料理の相談を受けているシェフもいた。三階には王様がいる、謁見の間があるらしいが、さすがにそこまでは入れないらしい。
「ねえ、ティア、オーブ……どうやって探す?」
「……やっぱり、王様に聞くのが一番早いんじゃない?」
「でも、王様の居る謁見の間は入れないんだよ……」
すると、ティアは三階へと続く階段の前に立っている騎士に向かって言った。
「私たちどうしても王様に伝えてほしいことがあるんですけど、通してもらえませんか?」
「いや、駄目だ。ここを通すわけにはいかんのだ」
「じゃあ、あなたが王様に伝えてくれませんか。それならいいでしょう?」
「ふむ……わかった。それで何を伝えればよい?」
話のわかる騎士さんでよかった。
「ありがとうございます。ただ一言、オーブを知っていますか、とお伝えください」
騎士は王様に話を伝えに階段を上って行った。そしてすぐに、血相を変えたような顔で戻ってきた。
「お、お前たち! 王様がお呼びだ。ついてこい」
これは一体何事か? 僕とティアは顔を見合わせ、騎士について階段を上っていく。
王様の居る部屋というだけあって謁見の間は一階や二階とは違って、豪華絢爛という言葉がよく似合うようなところだった。金の装飾が施されている赤い大きな椅子に冠をつけた人が座っている。イルブリーゼ国王その人だ。髭をたっぷりとたくわえた顔、恰幅の良いその見た目からは、実に温和そうな印象を受ける。
「王様、連れてまいりました」
「御苦労、先ほどの話はお前たちであったか。ちと、話したいことがある。皆のもの下がるがよい」
「しかし、王様。こやつらが王様に危害を加えるとも限りませんので」
「だまれ! 下がれというとるのじゃ」
王様に一括され謁見の間にいた王宮騎士たちは皆去っていき、王様と僕とティアの三人だけが残った。
「ふう、騒がせてしまってすまんな」
「いえ、お気になさらず。王様、話というのは?」
王様はティアを見つめて、そして言った。
「そなた……その剣は、伝説の剣――ゼロであろう」
「……いかにも。しかし、何故王様はそのことを……?」
「お告げじゃよ」
「お告げ?」
「そう。緋色の髪の少女が伝説の剣を携え、この城にやって来るというお告げじゃ」
つまり、王様はティアがここに来る事を予期していたのだ。
「伝説の剣を携えた者が、オーブを探し求めるということは……ついに、復活してしまったか…………古の魔王が」
「王様は魔王を御存じなのですか?」
王様はハッハと笑って僕に言った。
「少年よ、いかにわしと言えど悠久の時を生きることは出来んよ」
「では……何故知っておってられるのですか?」
「このイルブリーゼ王国は長い歴史のある国。それこそ悠久の歴史じゃ。つまり王は、この国の歴史を一身に背負わなければならない。そのため、王位を継ぐ際に先代の王から歴史の真実が代々伝承されておるのじゃ。もちろん、伝説の勇者と魔王の戦いもな……」
「……つまり王様は、この剣やオーブのことも全て御存じということですか?」
「まあ、わしが見たわけではないし、全て伝承だからな……間違っていることもあるかもしれぬ」
「それでも、教えていただけませんか?」
王様はオホンと咳払いをして話し始めた。王様に話によると、こうだ。
魔王と名乗る存在が世界を征服するために、各地に魔物を召喚し、世界が闇に包まれていた。
民衆は怯え世界はこのまま魔王の手に落ちると思われた時、一人の若者が剣を携え魔王と戦った。
神より賜りし七色に輝く剣を手にした若者は魔王と互角の戦いを繰り広げた。
長きにわたる戦いの末に、若者は魔王を打ち倒す。
しかし、戦いの衝撃は世界全体に大きな傷跡を残し、海は荒れ狂い、風は嵐を巻き起こし、火山の噴火は止まず、大地の力は失われつつあった。
若者は自らの命と引き換えに剣の力を七つに分けた。そして、七色の剣は崩れ去った。
それらは七色剣の力を宿し、オーブと呼ばれた。
世界中に散らばっていったオーブの力によって世界はへ混沌から救われた。
世界を救うためとはいえ自らの命を犠牲にした若者を神は哀れに思い、若者の魂を剣へと変えた。
剣の名は――ゼロ。
しかし、剣は、強すぎる力を宿していたため、神は剣を人が決して触れぬように封印した。
これが王様から語られた、イルブリーゼ王家に伝わる伝説らしい。
「少女よ。名はなんという?」
「ティアといいます」
「そうかティアよ。お主その伝説の剣……どこで手に入れたのじゃ?」
ティアは顔を俯かせて言った。
「これは……両親から託されたんです」
「ふむ……それは妙じゃ……。伝説では剣は人が触れぬように封印したといわれておる」
「でも……本当なんです!」
「いや。お主の目を見れば嘘をついてないことはわかる。それゆえ妙なのじゃ……」
「あたしがまだ小さい頃、街に突然、魔物達が軍を率いてやって来たんです。両親は、この剣を持って遠くへ逃げろと言いました。そして、剣を抜いてはいけない、とも」
「しかし……剣を抜いてしまった……と」
「はい。追手から逃げきれず、とうとう剣を抜いてしまいました。そして気が付いたら敵を倒していたんです。あたしは剣なんて握ったこともなかったのに」
「そうか……。しかし、ゼロは強大な力を宿す剣じゃ。常人では扱うことは不可能じゃ。ティアには、何か特別な力があるのかもしれんな」
「……特別な……力」
ティアは自分の手のひらを見つめてそうつぶやいた。
「さて、オーブじゃが……この国には〈風〉のオーブが保管されておる」
「本当ですか? それはどこに?」
やはりポポの感じた力の波動はオーブから発せられるものだったのだ。
「一つ教えてもらいたい。どうしてこの国にオーブがあると思ったんじゃ」
僕はポポのことを素直に打ち明けた
「この小鳥が感じた力の波動を追ってここまで来たんです」
「鳥が? ……なるほどのぉ。……〈風〉のオーブは城の地下に祭られておる」
「地下? どうやっていけばいいんですか?」
「王家のものしか知らぬ抜け道を通るのじゃ。まだ聞きたいことはたくさんあるが、今はオーブのもとへ急ぐのじゃ。健闘を祈っておるぞ」
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