第6話 清楚純情メイプルシロップ
「――佐城さん、そんなに引っ張らなくても付いて行くわよ。山田ちゃんが見つめる心配そうな瞳が痛いわ」
まるで、駄々をこねる子どもを引きずる母親のように私を校門付近まで連れてきた佐城さん――確か、佐城 楓さん、だったかしら?
それと、私たちの後ろをひょこひょことついて来た山田ちゃん。その彼女のオドオドした雰囲気と歩く度に覗く泣きそうな瞳がそそる――じゃなくて。心が痛くなるわ。
「こっちに来てから引きずられてばかりだから慣れたけれど、女の子の涙目はまだ堪えるわ」
「――っと、ごめん」
楓さん、素直に謝れる子なのね。尚更、藤乃に似ているわね。妖怪キャラ被りよ。
「桔梗、あんたも泣かないの。俺が誘拐なんてすると思っているの?」
ギリギリアウトな感じだけれど、第一印象は藤乃よりマシね。
それより、山田ちゃんは桔梗という名前なのね。素敵じゃない。
「え……っと、あぅ」
このいじらしい感じが堪らないわね。身長は私より少し大きいくらい、目が隠れるほど長い前髪が秘密感があって可愛いわ。
「楓……ちゃん、アリス、ちゃん、困って……ない?」
「ええ、私は大丈夫よ。ありがとう」
「ぴぃ!」
……驚かせてしまったかしら? 山田ちゃ――桔梗に返事した瞬間、奇声を上げられてしまったわ。
「わ――あ、えっと……あ、あの――」
「ゆっくりで良いわよ」
そう言いながら、私の手は桔梗の頭に伸びており、およそ締まりのない表情でなでなで――。
「……失礼かもしれないけれど、あんたから変態蛇と同じ匂いがする」
「とんでもなく失礼ね。私は昴とは違って罪は犯さないわ」
「俺が思うにあんたの場合、罪に見えないだけだと思うわよ」
誰も通報しないのならば、罪ではないわ。むしろ、私に撫でられたり、抱きつかれたりした人は幸運よ、感謝されても良いくらい。
「まぁ、桔梗は人見知りなだけだから、あまり気にしないでくれると助かるわ」
「ええ、気にしないわ。人見知りなだけってことは仲良くなれば良いってだけだもの」
「あぅ……わぅ」
桜乃とはまた違った可愛さね。もう少し小さければ、膝の上に乗せて、たくさん撫で回して、いっぱい頬ずりしながら一日中愛でていたいわ。
「えっと……アリス、ちゃん、よろしく――ね?」
もう一度なでなで――。
さて、そろそろ本題に移りましょうか。
楓さんは私とお話しがしたいと言っていたわね。十中八九イーケリアーのこと――と、言うより、魔法のことだと思うけれど、どうアドバイスするべきかしら?
「楓さん、このイカロスにおいての魔法は、ペットを育てている感じにすると良いわよ」
「……俺、まだ何も聞いていないわよ」
「でもお喋りしたいことはこれでしょう? サポートなんて志願するくらいだもの、これくらい察せるわ」
「……やっぱり、藤乃はズルいわ。あいつ自身、とんでもなく強いのに、まだ強くなろうとしてる」
楓さんと藤乃は付き合いが古いのかしら? 藤乃自身、どことなく親しそうに話していたし。
でも、強く……ね。翠泉はそういうこと言っていなかったけれど、ジュニアと子蛇がよく言っていたわね。
「あ、俺のことは楓で良いわよ。藤乃には何回言っても佐城のままだけれど」
「付き合いが長いのかしら?」
「あぁ、あっちはどう思ってるか知らないけれど、俺はずっと藤乃と同じ学校、同じクラスだったから」
つまり昴とも……いえ、あまり突かなくても良いことね。
「もう何戦してるか数えてもいないけれど、全敗なのは確実ね」
「悔しい?」
「当たり前のことを聞くのね。そりゃあそうよ――俺だって、弱いとは思っていない。けれど、藤乃にはどうしても届かないのよ」
桔梗の手を取り、歩み出す楓――どことなく哀愁が漂っているような、どこか遠くを見ているような。
「……なぁ、藤乃ってイーケリアーを楽しんでいると思う?」」
難しいことを聞くわね。あの子自身、お金のためだと言っていたし、どうなのかしら?
「さぁ? あの子、表情があまり動かないし、そういうことを話してくれたこともないわね」
「俺は楽しんでるわよ。けれど、あいつはそういう感じが見えないのよ。だから癪――」
ああ、この子……。
「俺は必死で隣に並ぼうとしてるのに、あいつはこっちを見向きもしないわ……」
桔梗がクスりと小さく笑っているわ。ええ、わかるわ――。
「あなた、藤乃が好きなのねぇ」
「はっ、ち、ちが――」
慌てふためき顔真っ赤。あらら、可愛いわね。
「楓、ちゃん、ほぼ、毎日藤乃、ちゃんの、こと話す、から」
「き、桔梗!」
「良いじゃないの。誰も昴みたいなんて言っていないんだし、憧れや好意っていうのは素敵なものよ」
不貞腐れる楓がずんずん先へ――いやぁ、若いわね。ええ、素晴らしいわ。
桔梗も楽しそうだし、この帰り道、しばらくは楓をいじっていきましょう。
魔法を与えるって言ったじゃん!もっと役立つことに使ってよね! 筆々 @koropenn
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