第4話 年の功より神の功
「……」
私は今、頭を抱えているわ。
ええ、ええ――しょうがないじゃない。私には100年のブランクがあるのよ? 先生の言っていることの8わかるだけ、秀才と言っても過言ではないはずよ。
あぁ〜、ぬかったわ。翠泉たちと一緒にいる時は、どうしてこんな数字も解けないのかと馬鹿にしたものだけれど……なに、今の子たち、こんなに数字が並んでいて頭痛くならないのかしら。
「……アリス? どうかしたか?」
「お勉強むつかちい……」
「何だよアリス、おめぇ馬鹿の子かよ」
何故かしら……昴に言われるのは、とんでもなく屈辱だわ。
とりあえず殴っておきましょう
「何でだ!」
「うっさいわ。ここまで出来ないのか。と、私自身ショックを受けているのよ。放っておいてちょうだい」
プク〜っと頬を膨らませ、こちらをチラチラ見ている男子生徒に顔を向ける。ついでに涙目のオマケ付き――さぁ、どうかしら!
案の定、顔を赤らめた坊やが視線を黒板に戻したわね。
やっぱり私、可愛いのよ
「……健全な男子生徒の心を乱すのは、あまり褒められたことじゃないと思うぞ?」
「可愛いのは罪じゃないわ。藤乃も精一杯に愛想の良い笑顔を浮かべて、昴を見つめてあげなさい。イチコロよ」
「……ふむ、一発でコロっと死ぬのか――」
そういう物騒な方向に持っていかなければ、はなまる満点だったのだけれど……って、ちゃんと笑顔を作ろうとしているのね、頬がプルプル動き始め――。
「……ど、う?」
「ひぇ……!」
昴が悲鳴を上げるのも無理ないわね。
藤乃は確かに笑っているわ。ええ、それはもう、凄く良い笑顔よ――例えるなら、魔王が勇者に馬乗りして、何度も心臓に杭を打ち込んでいるかの如く。戦争中、ゼロ距離で敵の頭を何度も撃ち抜き笑う頭ハッピーな兵士。そんな感じのエトセトラ。
「……もう少し、例えようがあるんじゃないか?」
「いえ、素敵な笑顔だった……わ、よ?」
私は視線を逸らすことしか出来なかったわ。
「……まぁ、冗談はこれくらいにして。藤乃はあれね、笑顔を威嚇だと思っている節があるっぽいから、まずはそれを改めなさい。それとむやみやたらと口角を上げて歯をむき出しにしないことね」
「……難しい」
私からしたら、どうしてあんな笑顔になるのかの方が不思議なのだけれど。
翠泉の笑顔の方がまだ丸みがあったような気がしたのだけれど――いえ、そういえば、出会った頃は藤乃みたいだったわね。
「……あたしの傍にも小さい子どもがいれば笑顔を作れるようになるんだろうか?」
「誰が小さい子どもよ!」
それにあなたには桜乃がいるのだから、同じように可愛い私がいても一緒でしょう。
「桜乃は見た目ほど幼くないし、あたしの笑顔を好きだと言って甘やかすから一緒ではないだろう」
この子、私のことを見た目相応に幼いって言っていることに気が付いているのかしら?
「……見た目よりずっと幼いって言っているのだけど?」
「尚悪いわ!」
「……あ〜、お二人さん?」
っと、昴が苦笑いしているわね。
えっと、教壇の方を指差して――?
「先生がいい加減泣くぞ? それと、藤乃がアリスの顔を察し過ぎてて、会話が意味わからん」
あら。
「失礼しましたわ。何も先生の授業がつまらなくて、こうして会話に華を咲かせているわけではないのよ。ごめんなさいね」
「……」
無言の藤乃。
「あなたも謝りなさいよ」
「……あたしはアリスと違って、授業がつまらなくて雑談をしていた。どうしてあの教師は昨日の話ばかりするのか――」
「歴史の先生だからよ。正直は美徳だけれど、正直すぎる言葉は悪意でしかないわ」
しかし、今どきの先生はメンタルが脆いわね。これだけで涙目になるなんて。
「たかが先に生まれただけで偉くなったとはいえ、先生であることは間違いないのよ。あなたは教えられる立場でいるということをもっと自覚するべきね」
私、良いこと言ったわ――って、あら? 先生、どうして目頭を押さえて教室を出て行こうと……あ、あら?
「……アリスの止めはエグいな」
「え?」
「……お前ら」
昴が常識人ぶって呆れているわ! え?私、何か変なこと言ったかしら。
結局、先生は戻って来ず、授業を終えるチャイム――。
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