第10話 神様16歳!

 桜乃を拾い、車で自宅まで移動中――とても和やかな家族の団らん……ええ、そろそろ聞いても良いかしら? 晩御飯の話は今良いわ。どうせ全部食べられないのだし。


「ねぇ、私、明日から学校に通うの?」


「そうだよぉ。制服も豪樹おじいちゃんが用意してくれていたし」

 お母さんが車のトランクの方を指差したのだけれど、そういえば、車に乗り込む前、荷物を仕舞っていたわね。

「教科書類も筆記用具も何もかもあるよぉ」


「準備良すぎるでしょう……」


「……多分、アリスが戻ってくる時間を話していたから、理事長も準備していたんじゃないか?」


「ああ、なるほど」


 それならば納得出来るわね。でも、それならば明日でなくてもよくないかしら? 私、現在に来てからまだ2日しか経っていないわよ? 普通、もう少し時間を――と、考えるだけ無駄ね。もう決まったことだし、大人しく従うわ。


「クラスも俺と藤乃と一緒なんだよな? 良かったじゃねぇか、知らない奴ばっかりのところに放り込まれなくて」


「まぁ、そうね。唯でさえ16歳なんて認めていないのに、年下の子たちに質問攻めされたら困っちゃうわ」


「見た目は10歳くらいなのにねぇ」


「どこがよ?」


 まったく、見た目が可愛いというのはわかっているけれど、雰囲気がそれを大人っぽく見せているでしょうに。失礼しちゃうわ。

 って、あら? 桜乃が膨れているわね。どうしたのかしら?


「桜乃?」


「むぅ~、アリスお姉ちゃんと一緒に通いたかった」


 なにこの子可愛い。


「最初は桜乃ちゃんのクラスで良いかなぁ。なんて話をしていたんだけどぉ、仁龍寺のおじさんがぁ、それじゃああんまりだろう。って言ってぇ」


「昴、おじいさまを大事にしなさいよ?」


 あの市長、とっても素晴らしい人間ね。やはり、死後は英雄になれるように動こうかしら? 私の力を持ってすれば造作ないわ。

 というか、それを一番に否定しなくちゃいけないのはジュニアでしょうに。何年一緒にいたのよ。私が大人ってわかっていたはずよね。


「豪樹おじいちゃんはねぇ、アリスちゃんは子どもだから幼稚園からやり直させようぜぇってさぁ」


 よし、明日あの頭をはたいてやるわ。あのクソガキ、私の恐ろしさを再度教え込む必要があるようね。


「アリスお姉ちゃん、アリスお姉ちゃん、登校は一緒しようね?」


「ええ、そうしましょ」


 桜乃をなでなで――ここには桜乃しか味方はいないのね。お母さんは面白がっているし、藤乃はどこか向いているし、昴はニヤニヤとこっちを見ているし……私が神だということを理解しているのかしら?


「……アリス」


「なによ?」


「……アリスは神様っぽくない」


「貴女、翠泉と同じで私限定の読心術でも使えるのかしら?」


 翠泉にも度々言われた言葉を藤乃にまで言われてしまったわ。どこからどう見ても神でしょう? 一体、何をもってして私が神っぽくないと言えるのかしら。いえ、良いわ。どうせ翠泉と同じことを藤乃は言うんだわ。絶対そうよ。聞いてみましょう。


「例えばどこが?」


「……見た目と中身」


 思った通りだわ。そして、この後は――あ~、頭を撫でるのは止しなさい。翠泉と同じことをするなぁ。


「貴女、本当に翠泉と似ているわね。実は中身が翠泉だと言われても納得するわよ?」


「……そんなに? そういえば、さっき戦っている時に言っていたが、ひいおじいちゃんもあたしと同じ魔法を使っていたのか?」


「いえ、同じではないわ。翠泉の場合は銀色を設置して爆発させる魔法だったし」


「なにそのトラップ。エグイな」


 そうね。翠泉は殴り飛ばした相手の進行方向に銀色を設置して、爆発させて、爆風で戻ってきた相手をさらに殴り飛ばして――を繰り返ししていたものね。


「……というか、ひいおじいちゃんに渡した魔法って一つじゃないんだな?」


「ん? ああ、少し違うわ。う~ん、どう説明したものかしら……」


 100年前、私はある神との戦いで傷つき、100年間の眠りにつかなくてはならなくなった。

 それに巻き込まれたのが翠泉たち。

 普通の喧嘩しかしてこなかった翠泉たちが魔法を使える者に太刀打ちできるわけもなく、私が一種の神使として、力の一部を使えるようにしたのが始まりなのだけれど……。


「私が翠泉に渡した加護は、私が眠っちゃう直前に渡したものなの。それ以前……そうね、今でいう壁の役目を私が担って、翠泉たちにはイカロスをやってもらっていたのよ。もっとも、それはスポーツじゃなくて、面倒な神々の戦いだったのだけれど」


「なんでお前、神と戦ってたんだよ」


「知らないわよ。いきなり因縁つけられて、挙句の果てには世界を滅ぼすとか言い出した大馬鹿だったし」


「なんだそりゃ? けど、世界が滅んでねぇってことは勝ったのか?」


「勝ったか負けたかで言ったら負けたわ。もう戦えるだけの魔力はない、翠泉や金剛、子蛇も傷つき、私には何も残っていなかったわ。けれど、ただではやられないって思って、何とか封じ込めたんだけれど、私も体を癒すために眠らなくちゃならなくなってね」


 今思い出すだけでもムカつく神だったわね。一体、何が目的だったのかしら?


「その時に、一緒に戦ってくれた礼ってことで、翠泉に加護を渡したのよ。これは魔法じゃなくて、私という概念の一部――つまり、私の血肉を与えたっていう感じよ」


「……つまり、アリスちゃんの何割かは本当のことだったのか」


「ええ、不本意ながら。もっと大々的に私のことを宣伝してくれても良かったのに」


「いや、十分すぎるほど大々的だろう。この街でアリスちゃんを知らない奴はいないぜ?」


「私はおかまじゃないわ!」


 まったく、こんな可愛い私をあんな化け物みたいなビジュアルにするなんて、本当どうかしているわ。カステラを食べた罰にしてはひど過ぎはしないかしら?


「――ったく。って、あら?」


 私はふと、信号を渡る青年に目が行ってしまった。

 どうしてかしら? 別に気になることなんてないのに、あの青年から目が離せない。

「……アリス?」


「え? ああ、いえ――ッ!」


 笑った?

 あの青年、私と藤乃を見て笑ったような……藤乃の知り合い? けれど、私の視線を追った藤乃も首を傾げているし、何よりどうしてピンポイントで私と藤乃を見るのかしら? 私は知らない。藤乃も知らない――少し不気味……いえ、以前もこんなことが――。


「アリスお姉ちゃん、今日一緒にお風呂に――みゅ?」


「え? あ、ごめんなさい。お風呂?」


「うん、一緒にお風呂入ろうって」


「桜乃ちゃん、俺が背中流してやるよ」


「本当?」


「ああ――あぁぁぁぁ痛い痛い! 藤乃、後ろからももを抓るのは止め――」


 昴の大声でハッとなる。

 って、あら? いなくなっているわね。

 一瞬、視線を外しただけなのだけれど、さっきの青年の姿はどこにもない。少しキョロキョロしてみるけれど、車が動き出して探すことが出来なくなったわ。

 なんだったのかしら?

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