第9話 昔、昔、あるところに金色の鬼がいました。
「ちょっと待ってな。茶でも淹れてやるぜオイ」
「……いや、年寄りなら年寄りらしく、若い人に任せなさいよ」
「あん? なら嬢ちゃんは誰かにおんぶされて登校すんのかオイ?」
年を取ってるってわかっているなら、嬢ちゃんと呼ぶのは止めてくれないかしらね。まったく、お父さんと喋り方まで一緒にしちゃって、相当慕っていたものねぇ。
「なぁなぁ」
昴が耳元で聞いてくるけれど、くすぐったいから止めてほしいわ。
「なんで俺も呼ばれてんだ? 俺、別に関係ねぇだろ?」
「おぅおぅ坊主、
「……爺さんを小僧扱いすんのって理事長くらいだよなぁ。って、何もって、何を?」
「……あたしが話しても信じてくれなかったからな。睦良おじいちゃんがそれなら話さなくても良いだろう。話すだけ無駄って教えなかった」
「え? 何それ初耳――てぇ~と? あれか、うちのひい爺さん、アリスの関係者か?」
「ええ、子蛇って呼ばれて、今の貴方みたいに雪原にくっついていた人よ」
「おぅおぅ、蛇の兄さんはすげぇよな。嬢ちゃんのために一時期総理大臣になるとかっつってたからなオイ」
そこまで慕われていたのかと思うと嬉しいけれど、多分――。
「それを宣言した後、翠泉を一緒にって誘ってたんでしょ?」
「おぅおぅ、その通りだぜ。蛇の兄さんは翠泉が大好きだったからなオイ」
子蛇は兄さんで、翠泉は呼び捨てなのね。まぁ、金剛が誰よりも平等に見ていた相手だからかしらね。同じところに立てたっていうジュニアなりの自信の表れかもしれないわね。
「ほぅ、つまり俺が藤乃のパンツを盗むのは運命なんだな?」
「相変わらず、仁龍寺っつうのは色気のねぇ女を好くんだなオイ」
さっきから思っていたのだけれど、こいつ、よく理事長としてやっていけてるわね。
「昴、貴方よく理事長の前で窃盗を告白できるわね? それとジュニア、貴方は保護者がいるということを考えなさい」
「おぅおぅ、悪かったな」
湯気が立っているお茶を一気に飲み干しているジュニア――熱くないの? って、聞いたら気合だ。って返ってきそうね。
「……なぁアリス」
「何よ?」
「理事長とあたしのひいおじいちゃんってどんな関係だったんだ?」
「あ、それあたしも知りた~い。おじいちゃん、あれは人外って言うだけでそれ以外を教えてくれなかったも~ん」
「人外って、今の理事長見れば想像つかねぇ?」
「まぁ、昴の言うとおりね。まさにびっくり人間だったわ」
初めて会った時、あの男は金剛鬼なんて呼ばれていたわね。翠泉の噂を聞いて喧嘩しに来たのだったかな?
「金剛鬼――ジュニアのお父さんはね、翠泉と喧嘩をしに来たのよ。それで、最初の言葉が『俺はパパだ! うちの小僧に弱えところはみせらんねぇ! 最強なんて言われてそれでおまんま食ってんだ! てめぇが強えっつうなら! 俺以下だって理解しろよオラぁ!』だったかしらね?」
そこらの富豪に雇われる喧嘩師を職業にしていたわね。だから、強いって噂の立った翠泉が気に食わなかったのだと今にして思うわ。
「おぅおぅ、覚えてるぜ。親父に連れられて何事かと思ったら、俺の雄姿をよく見ておけ。つって、翠泉と1日中殴り合ってたからな」
ああ、うん。本当に24時間喧嘩していたのよね――翠泉と金剛は殴り合ってるから良かったけれど、私たちは暇だったから、すぐ傍でバーベキューをやったわね。
「え? なに、お前のひい爺さん、化け物?」
「……あたしも初めて聞いた」
「2人ともボロボロで、結局最後は……うん、決着つかなかったのよね」
「う~ん? 2人とも倒れちゃったのぉ?」
「おぅおぅ、それは違うぜオイ」
そうそう、これが翠泉が人外って思った一つ目だと思うけれど、その後がねぇ。
「その闘い、巷でも噂になっていたのよ。それで、翠泉を恨んでる連中が武器やら車やら持って、弱ったところを狙って来てねぇ――」
「親父が全部倒したんだぜオイ」
「……銃で10発近く撃たれていたはずだけれど、走ってきた車を素手で止めたり、バットで頭を打たれても逆にバット曲げちゃったり――その時にそいつらに言ったのが『おぅおぅ、嬉しいねぇ……わざわざ俺と喧嘩しに来てくれたんかオイ――全員墓場に埋めてやるから、かかってこいやオラぁ!』ってね」
「そんで、宣言通りに全員を頭から土に埋めた親父はその場に倒れて、病院に搬送――それから、翠泉とつるむようになったんだぜオイ」
あの時、私は人間から神になった外国の神を思い出したわ。生まれた年が違っていたら間違いなく戦神になれたわね。
「え? それ人間っすか? と、いうか、藤乃のひい爺さん、そんな化け物と1日中殴り合っていたのかよ」
「……これは誇るべきなのか、よくわからない」
「お爺ちゃん、凄いのねぇ」
「まぁまぁ。というか昴、子蛇だって蛇の名前の通り、よく相手の死角に潜り込んで足とかお腹にナイフ刺したり、骨を瞬時に外したりしてたわよ?」
「……俺は人の子です。きっと捨て子だった。うん、そうに決まってる――て~か、うちのひい爺さん、元国会議員だったはずなんだけどなぁ」
「大丈夫よ。それは私も驚いたけれど、ジュニアが理事長なんてやってる時点で諦めたわ」
「おぅおぅ、この学校は親父が作ったんだぜオイ」
「世も末じゃないの……」
何でこの街の権力者はそんなヤバい人たちを選んだのかしらね――って、私が言えたことではないわね。
さて、そろそろ本題に入らないと。
私はこの学校に編入するのよね? あれ、でも免許貰ったような……ちょっと中身確認――って、免許は16からなのね。
あら? 私の年齢、16歳なんだけれど……若すぎでしょう。
「で? ここに呼ばれたわけだけれど、編入するために私はなにをするのよ」
「おぅ、忘れていたぜオイ。おぅ、こいつに名前書けな」
「ええ――雪原で良いのよね?」
姓に関して不満はないけれど、少し恥ずかしいわね――っと、書き終わったわ。
「はい。次は?」
「おぅ、もう帰って良いぜ?」
「は?」
いやいや、ここまで呼んでおいて名前を書くだけって何なのよ。
「それだけなら藤乃に紙渡して終了でしょう!」
「おぅおぅ、喚くな喚くな。良いじゃねぇかオイ、この年になるとつるんでた奴がめっきり減っちまってな。ちと話し相手が欲しかったんだぜオイ」
そりゃあまぁ、110年も生きていたら友人はみんな死んでいるわよね。それなら、わざわざ生き永らえなくても良いでしょうに。まったく、この一族は本当に困ったものね。
「……ったく。まぁ、せっかく、この学校に通うんだし、茶飲み仲間くらいにはなってあげるわ」
「おぅおぅ、助かるぜオイ」
幼さの残る笑顔――ああ、あんな顔だったわね。金剛も、ジュニアも――。
「さて、俺もそろそろ仕事に戻るかねオイ」
「真面目にやりなさいよ」
「おぅ、そんじゃあ、明日な」
「はいはい――ん?」
すでに扉を開けてから背後から聞こえた声――え? 明日? 今日、編入届けだしたのよね? う~ん?
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