第3話


 第五エデン都市『ジャパン』。

 広大なアフリカ大陸の大地溝帯グレート・リフト・バレーに囲まれた東京都の三倍の面積に当たる元ビクトリア湖を城塞都市に変えて、都市国家ジャパンは建造されている。人口総人数1000万人の半閉鎖型自給自足都市。

 そのジャパンの探知防衛圏内にあたるマラウィ湖へと男は旧式大型自動二輪を走らせていた。広大なアフリカの大地は今や全世界で見られるように死の大地と化している。草木も生えない広大な荒野と真っ直ぐに伸びた超電磁土瀝青がただそこには広がっているだけだ。

 いや、正確に言うと―――。


「あれがそうか」

 男は、唸る発動機エンジン音と切りすさぶ風を受けながらそう呟いた。

 男の眼鏡携帯端末が見つめる先、道路から少し逸れた場所には黒い影のような小さな粒が何かを囲んでいるように見えた。

 男はすぐさま、携帯端末から魔核ダイレクト通信に切り替えて後方から付いてくる者達に報告する。


―――見つけたぜ。まずは俺が切り込む。ご馳走パーティーはそれからだ。

―――こちらも蟻獅子ミルメコレオの群れをレーダーで見つけたぜ。カインがやられたら尻まくって逃げるしかねぇ。ここまで来たんだからご馳走パーティー抜きは止めてくれよ。


 自律生物兵器キメラの一種の蟻獅子。獅子のような上半身と蟻の下半身を組み合わせたおとぎ話の怪物だった。獅子の膂力と凶暴性を持ち、蟻の集団性を持たせたモンスター。蟻獅子ミルメコレオの恐ろしさは、力ではない。群として特化した集団性にある。蟻のようにフェロモンで互いの意思疎通をし、動物としては高度な知性をもつ。それに顔は獅子だが全身を覆う蟻の甲殻があるために9mm弾では豆鉄砲の威力にしかならなかった。


―――たっぷり食わしてやるから、そこでいい子にしとけよ、アドカフリャ。

―――了解だ。俺まで喰うなよ、狼さん。


 男――カインは、そう言って通信を切ると、すかさずハンドルを切って超電磁土瀝青の道路から逸れ、土と石の地面にタイヤを滑らせる。巻き上がった砂埃が一瞬にして吹き荒れ、大量の石と砂が中を舞った。突然のオフロードに黒獅子がむずがるように暴れる。カインはそれを巧みに宥めて、目標地点へと一直線に進む。

 速度は急激に落ちる。舗装された道路では最高速度時速300km以上を叩き出すモンスターマシンだが、オフロードでは時速100kmを越えると途端に操作性が異常に悪くなる。しかも、砂地に小石が混じるような劣悪な環境だと砂地でタイヤが滑り、小石でハンドルが暴れる。そんな最悪な状況でもカインは、鼻歌でも歌うようにハンドルを片手で持ちながらアクセルを吹かし、右手で背中の得物を握った。


 カインは得物を引き抜き、狙いもつけずに笑う。

 

―――銃声。

 突如荒野に響き渡った音でそれらが一斉に振り返った。

 一匹の蟻獅子ミルメコレオの固い鱗に火花がはじけ飛ぶ。

カインは、銃弾が防がれた事に一切躊躇わず、がしゃりと改造し整備した骨董品レバー・アクション式の散弾銃ウィンチェスターM1887を左手でクルリと回して、廃莢と装填を完了させた。

 カインのその姿を捉えた15体にも及ぶ蟻獅子ミルメコレオは、口の牙をギリギリと鳴らし合って威嚇する。だが、カインは止まらない。大型自動二輪の速度を緩めずにその群れへと猛然と走り続ける。もう既に獅子の顔がすぐ側―――。


 石と砂を巻き上げて金属がひしゃげる大きな音が鳴り響いた。

 カインが急制動を掛けて、大型自動二輪が姿勢制御できずに吹き飛んだのだ。吹き飛び、転がりながらその筐体が蟻獅子ミルメコレオの群れへ土石流のように突っ込んだ。状況に付いていけない蟻獅子ミルメコレオ達はその筐体にぶつかり数体が吹き飛んでいく。


 上を見上げれば、そこにカインが飛んでいた。

 いつの間にか抜きはなった両手剣バスターソードレバー・アクション式の散弾銃ウィンチェスターM1887を握り、群れの上空で凶悪な笑みを浮かべる。


「じゃ、派手にいこうか」


―――荒野に銃声と作られた獣達の叫びが響き渡った。

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