第2話
荒野を駆ける一陣の風。
その風は、
もはや誰もが忘れかけている前時代の旧式自動二輪。無駄な贅肉を削ぎ落とし、ただ獲物を狩るためだけに生まれた黒獅子のごとき鋼の筋肉を纏う黒い
その黒獅子に乗り込んでいるのは一人の男。
白い髪を靡かせ、飛び行く景色を悠然と楽しんでいる。
不意に、ハンドルから左手を離し、眼鏡携帯端末の左フレームに触れる。
「なんだよ?」
男は、先ほどまでの雰囲気から一変して不機嫌そうに携帯端末の向こう側にいる人物に声をかける。
『現場にはどれぐらいで到着しますか?』
携帯端末の向こう側から年若い女性の不機嫌そうな声がそう尋ねた。
「そんなもん俺の位置情報と速度が分かってれば算出できるだろ?」
『それができないから聞いているんです!こんな気まぐれな速度の出し方で予定時間が計算できるわけないじゃないですか!都市規定速度は時速100kmです。都市規定に従ってください』
「うるせぇなぁ。んな、くそまじめにしてたら
男が不満気に声を上げる。
男が出していた速度は時速200km。時折背後の
携帯端末の向こう側の女性はその言葉に一瞬怒りを示して、言葉を失うがなおも叫んだ。
『いいから遵守してください!あと、目標地点の位置情報が更新しました』
「おい・・・先にそれを言えよ」
女性は男の言葉を無視して続ける。
『第五エデン都市最外縁南部グリッドEOS―34.12.34です。観測航空機の動体反応から野生化した
「いや・・・こんな無線通信じゃなくて
『貴方のような悪魔と
そう言って爽快な音ともに通信信号が途絶える。
男はそれに苛立ったのか、少し乱暴に携帯端末の操作をして、別の通信形式に切り替えた。光子神経が励起し、うなじの
―――アドカフリャ、獲物の位置が変わった。とりあえず位置情報を送る。
マイクロ秒単位での通信回線が開き、もはや0秒以下のやり取りが行われる。
―――お、さすがは攻性魔銃士様だ。都市観測機のデータなんか俺らじゃ、どんだけ空を崇めたって手に入らねぇからな。・・・了解した。きっちり後ろに付いて行くからご馳走を頼むぜ。
―――好きでしてるわけじゃねぇよ。
―――分かってるよ。その旧式の
―――まあ、なんでもいい。とりあえず先を越されないよう飛ばすぜ。
―――了解。
通信時間28マイクロ秒の高速通信が終わり男は荒野の先を見つめて更にアクセルを回して、黒獅子の心臓が燃え上がった。
時速280km。景色が視界を狭窄させて目まぐるしく変わる。
男は獰猛な顔つきに笑みを浮かべて、その向こうに潜む獲物を見据えていた。
「さあ、楽しませてくれよ。死ぬぐらいにな」
猛然とした風の抵抗を受けて、男の言葉は滴のように消える。
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