第3話「囮勇者のモンスター討伐3」

木がクッションになったが顔面から着地したため、鼻血が止まらない。

「ブヒブヒー!」

ブヒーモス、それは以前勇者になる前に戦ったことがあった。

その時は子供で足が遅かった為逃げ出すことが出来た。

だが、今の俺は痙攣で身体が全く動かない。

ズシリとした豚のような足を動かして俺の方へと近づいてくる。

ブヒーモスの武器といえば太く、鋭い湾曲した爪だろう。

いくら死なないとはいえ、痛みを受けるのは辛すぎる。

あんな爪にひっかかれたら致命傷が残るぞ。

でも名前とは裏腹に、ブヒーモスには可愛いところだってある。

たぷんたぷんなお腹に、目が丸い所だ。

身体中に生えた剛毛と口周りについた涎さえ見なければ全然可愛らしい。

体調は木一本ぐらいだから3メートルって所だな。

ブヒーモスはベロで口周りを舐めながらゲフゲフと豚っ鼻で俺の匂いを嗅いでくる。

近くに来ると、豚小屋そっくりの吐き気のする匂いが俺を襲う。

エロ、キュール、早く来てくれよ……。

このまま明日になるまでここに放置とかだったら死ぬよりも辛い。

てかいっそこの匂いをずっと擤んでいるなら死んだほうがマシなのかもそれない

俺は鼻をつまもうとするも身体が動かない為ブヒーモスと目を合わせないように地面を見ている。

「ブヒブヒ!」

俺は身体全身に悪寒がした。

ブヒーモスは大きな生暖かい雑巾のような舌で俺を舐めまわしている。

髪から何から全てがベトベトなのがわかる。

助けてくれ。

これはもう生き地獄以外の何でもないよ。

俺が最強ならこんな化け物一発で倒してやるのに、真逆なせいで何もできない。

待てよ。

エロとキュールは俺を囮にさせて、襲撃しようとしているのか?

いや、もしそうなら一緒に三人で行っても変わらないよな。

敵は俺しか攻撃してこないんだし。

「ブーヒ!ブーヒ!」

そう言うとブヒーモスは俺を舐めまわすのを止め、生い茂った木の中へと入っていった。

ふう。

安心したのもつかの間ですぐにブヒーモスのお嫁さんとも思える第二の獣が現れた。

顔や体格はブヒーモスと変わらないものの頭には、フラワーコスモスという花で作られた簪がつけられている。

ブヒーモスのメスといった所であろうか。

もしかして…俺。

こいつら野獣どものお食事になるのか?

さっき俺を舐めていたのは、毒味!?

鼻の簪をつけたブヒーモスは地面を揺らしながら走ってくる。

その際口から出た涎が辺りに充満していた。

絶対食べようとしてるだろ。

さすがに獣とかに食べられたことなんてない。

もし攻撃無効化が、出来たとしたらこいつらの胃の中で生活を?

童話の赤ずきん見たいだな。

そんな気持ちの悪い匂いやら感触がする所にだけは入りたくない。

メスのベヒーモスが大きな口を開き、俺を咥えた。

口の中もくっさ!

真っ暗なこの中で、この臭いがしているのは本当に地獄だ。

ザラザラとした舌で俺の顔を舐める。

その際舌についたベヒーモスの粘液が俺の口へと入った。

その味は、嘔吐をした後、口の中に広がる嫌な風味のようであった。

吐きそうになりながらも、必死に俺は踏ん張った。

早く来てくれ……。

まじでこのまま胃の中に入って助けを待つのはごめんだ。

だから……頼む。

そう思った瞬間にそれは起きた。

俺はブヒーモスの唾をまといながら、吐き出される。

暗闇からの突然の明かりに焦点が合わない。

「すまないエスタロス。討伐先の所まで飛ばすつもりはなかった」

「ライト様、無事でよかったです。」

二人は鼻声で俺に背を向けながら話す。

焦点が合い、目が見えるようになるとそこにはエルメロとキュールの姿があった。

「やっと来てくれたか……。助かった!キュール薬草を!」

身体を動かすために救助を求める。

キュールは鼻を押さえながらポーチに入った薬草を取り出す。

「どうぞ」

薬草をちぎって細かくした後優しく俺の口の中へと入れてくれた。

今回は噛まずに飲み込む。

痙攣が止まり、身体が自由に動くようになったため俺は立ち上がった。

一匹のメスベヒーモスは気絶した様子で頭のうえにヒヨコが何匹も飛んでいる。

オスは、自分の嫁が倒されたことに怒ったのか。

腰を低くして突進をしてきた。

「ブヒブヒー!!」

こいつは許せない。

俺をこんな屈辱的な目に会わせやがって。

絶対倒してやる。

自分で倒すことができないなら囮になって仲間に倒して貰えばいい。

それだけだ。

「エロ!キュール!俺が囮になるからあいつをフルボッコにしてくれ!」

「了解だ!」

「わかりました!」

ブヒーモスの突撃を真正面から俺は受け止める。

その衝撃に耐えられなくなり、何メートルか先まで吹き飛ばされてしまう。

「いたたっ」

頭を押さえながらエルメロとキュールのいる方を見るとベヒーモスは豚の丸焼きのようなポーズをして倒れこんでいた。

おそらくキュールの火炎魔法であのようにした後エルメロが縄で手足を縛りつけたのだろう。

俺はすぐに立ち上がり二人のいる方へと向かう。

「すまない。助かった」

エルメロとキュールは二人とも不快な顔でこちらを見てくる。

「いえいえ…それより…」

「ん?どうした?」

「エスタロス、お主から異臭が……」

この時まですっかりその異臭を忘れていた。

人間の鼻とはそれに慣れてしまえば何とも思わなくなるものである。

いやあ恐ろしい。

「ごめん!帰ってすぐに風呂入るから!」

「それでは……一旦家に帰ってから、集会所にクリアしたと言いに行きましょうか」

俺はキュールの肩を掴んで転移魔法で帰ろうとした。

今回はちゃんと肩を触っています。

キュールはパシッと俺の手を弾く。

そしてもう一度何もなかったかのように俺は手を乗せた。

パシッ。

「エスタロス。申し訳ないが、これで戻ってくれ」

「え?」

エルメロの大槌で俺は空高くへと飛ばされる。

本日三度目の空中飛行である。

そして全身に激痛が襲う。

「いたいっ!いたすぎる!!」

俺の上を通りかかった鳥の群れの糞が落ちてきて、体の無数にあたる。

こんな悲惨な勇者なんているのだろうか。

そう思いながら、王国の城壁にぶつかって戻ってきたのであった。

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