Dreamf-12 この手の届く所(B)
4
「じゃあね友里、また明後日」
「明後日って……。明日部活あるでしょ?」
「え……はあ?」
「え?」
里桜が友里のどの言葉に疑問符を出したのか、友里本人が理解できていなかった。
「な、何よ……」
「アンタ、今日一晩一緒にいるんでしょ? そのプレゼント渡す誰かさんと」
「うん、多分……」
夕方頃にようやく円に上げるプレゼントが決まった。
友里のもつ紙袋の中には最初に選んだ赤ジャケットに灰色の薄手のパーカー、黒に近い灰色のジーパンが入っていた。
「一晩一緒にいるくせに朝早くから部活なんて出来ないでしょうが」
「いや、でもさすがに二回連続休むのは……」
「そう言うのは会社勤め始まってからでいいのよ、気にすんのは」
「いや、私部長だし――」
「私は副部長だけどねー」
「そんな……さすがにもう悪いよ」
「いいのいいのっ。人の恋路邪魔するって方が気が重いのよ、私は」
「だから、恋愛じゃないって!」
「はいはいそうそう恋愛じゃないのね。分かった分かった」
「全然わかってないじゃん!」
「もうほんとに分かったから、はい」
里桜はとんと友里を軽く押す。
「っと……」
軽く押されたものでほんの一歩後ずさり、
「ちょっと、里桜」
「後は一人でやんなさいな」
と、里桜は駅の方に向かって歩いて行く。
背を向けながら友里に手を振り、
「キスぐらい奪いなさいよー!」
などと言いながら群衆の中に溶け込んでいく。
ほんの一瞬、里桜と友里がその中で目立つ。気まずくなって苦笑いを浮かべ――
やはり、手を振るのはやめておいた。
独り残され、腕時計を見る友里。
示す時刻は、午後九時半。
(あと一時間……)
確かに、後は一人でやるしかない。
ギリギリの時間まで里桜と一緒では気持ちの整理を付けることも出来ない。
一回深呼吸。
「よしっ」
と、気を入れ、
先に待ち合わせ場所に行っておこうと、友里もまた群衆の中へと溶けていった。
5
示す時刻は、午後一〇時前。
友里はもう待ち合わせば所についているだろうか。まだ来ていないにしても、先に待っておいても悪いことはない。
とりあえず用意を済ませる。
荷物は少ない方がいいのだろうか。
だがさすがに鞄を持たないと言うのは持たなさすぎなので、一応財布や携帯など、出かける上での必需品を入れておく。
「行くかな」
ボディバッグを肩に掛け、立ち上がり伸びをする。
何も緊張することもない。以前よくやっていたことだ。
端末から外出中の信号をブリッジへと送った後、円は自室から出た。
「あら、もう行くの? 天ヶ瀬君」
「あぁ……志吹隊長」
艦内にある入浴スペースの方から志吹が現れた。
風呂上りの為か少し蒸気が立ち、顔も少し惚け立っているようだ。
「はい、ちょっと早いけど」
「そう。じゃ、後で結果教えてよねー」
どうやら、志吹も円と友里はデートするという認識であるらしい。今更否定する気も無い円は手を振ってすれ違っていく志吹の背中を見送る――
「あの、志吹隊長」
「ん?」
その時になって、今浮かんだ疑問を口に出す。それは、SSCの皆がデートだと言うので、浮かんだものであった。
「幼馴染の女の子が、今更相手の男の子を好きになるなんて、あるんですか?」
「そうね…………」
そんな、ふと思いついた疑問に真面目な面目を浮かべ数秒考え込む志吹。そして考えて何かを思い出したのか、小さく溜め息を履いて口元に笑みを浮かべる。
「ある……かもしれないわね」
「何で?」
「女の子の恋愛って、その時一緒に居た時の事よりも、どれだけ一緒に居たかが大事なのよ」
「どれだけ一緒に?」
「ええ……。『どんな思い出』じゃなくて、『どれほどの思い出』を共有できたか。一緒に居る時間が長ければ長い程、女の子って言うのはそういう男の子が気になってくるもの。もう三年ほとんど会ってないのにそれでも一緒に居たいなんて言うんだったら、それはもう恋なんて時期はとっくに過ぎてる」
「と言うと?」
その円の問いに志吹は鼻で笑い、円の方に見返り、
「それ、私口にしたくないわよ? 良い言葉だけど、恥ずかしいし。それは、あなたが朴念仁でもない限り会えばわかるわよ」
「じゃあ、何で分かるんですか? 友里と、会ったことも無いのに、あなたは――」
「私も、多分彼女と同じだから、かな?」
「……?」
「まぁ、天ヶ瀬君みたいに幼馴染って訳でもないけど。いつも一緒に居たおかげで、ね?」
「いつの間にか気になるようになってた?」
「そう言う事」
「志吹隊長もそういう事あるんですね」
「なーに? もしかして私が男に興味ない女だと思った? 私だって人の子なのよ」
「まぁ、否定はしない……」
「全く失礼しちゃうわね。
ほら、早く行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
円は小さく笑みを浮かべて答え、甲板へと向かって行く。
何となく、志吹の気になる男と言うのを聞こうかと思ったが時間も時間なうえまた呼び止めるのも志吹にも悪いと思ったのでその思いだけは寸でのところで踏み留めた。
そもそも、今聞く必要も無い。
甲板に出るとそんな疑問も消え、
「――ッ」
ほんの少しの助走からまたいつもの様に空を飛んだ。
向かうは仁舞バルト――
だが、さすがに空から直接降りるのは良くない。ただでさえ光の戦士だと言われている矢先そんな事をすればまた注目の的になりかねない。なるべく人気の少ないところに降りてそこから電車なり徒歩なりで向かえば良い。
そして降り立ったのは新宿駅西口側にあるビルの裏手階段付近。
ここならば、夜の時間は人通りが極端に少なくなる。
今日もその例外ではない。
円が地上に降りるにはちょうど都合が良かった。
「ふぅ……」
スカイベースから飛び立ってほんの数分。
円は人気のない中、その中でもさらに閑散としている場所に降り立つ。
ここからならば仁舞バルトまでは一五分足らずで着く。
そんなに慌てる必要も無い。任務以外で地上に降りる事も無かったのでしばらく落ち着いて地上を見て回る機会も無かった故、円は気持ちのんびりとした感じで仁舞バルトへと歩き向かった――。
「――ッ!」
そんな時、悪意が身をかすめる。
「ビースト……?」
円が感じ取った物。
それは確かにビーストのそれであった。
だがその気配はすぐに消える。
「……?」
気のせいだったのかと、最近戦いばかりで神経が立っていたのだろうか。ふと感じ取った事にさえビーストのせいだと考えてしまう辺り、重症だ。
切り替えが出来ていない。
「はぁ……」
そんな自分に呆れ、ため息を吐く円。
だが――
(なんだ、この嫌な予感は……)
待ち合わせ場所へと向かう円の足は少しずつ速くなり――
6
スカイベース艦内に警報が鳴る。
今度はビースト出現を感知したためだ。
「今度はどこや」
コマンドルームからブリッジに駆け付けて来た吉宗がオペレーターに問う。
「コマンダー! もうあなたは休んでください」
「そないな事もいえんやろ、響。お前さんも出るんやろ」
「そんなつもりは無いですよ、今回は。あなたは今日襲われてるんですから」
「おお、そうか。まあええわ。今回もいつも通りでええ」
「しかし――」
「実依、出現地点はどこや」
響との会話を途切り、吉宗は非常勤のオペレーターである
「仁舞区新宿三丁目です」
「新宿三丁目言うたら、映画館ある辺りやないか?」
「予想境域範囲内の中央です」
「響……」
と、今度は響の方に振り向き、
「悪いがホンマに現場行って指揮とってくれや。円の為や思うて」
「……。
了解」
その吉宗の言葉は潔く聞き入れ、うなずく響。
「今出られるチームはいるか」
「はい、確認し――」
『ゴールド、すぐ出れます』
実依がすぐに出撃するチームを確認しようとした矢先、チーム・ゴールド隊長、志吹の声がスピーカーから聞こえ、ブリッジ内に響く。
「おし、なら頼んだ!」
『了解!』
志吹との通信が切れ、響に向けて頷き、響も了解と頷き返す。
「チーム・ゴールド、スタンバイ。EXキャリー発艦準備」
「了解」
実依は響の指示を今度はチーム・ゴールド、収納ハッチにそのまま伝達する。
そうして響は吉宗の方に向くことも無く、EXキャリー収納ハッチへと去っていった
7
「深夜出勤なんて、何で行くなんて言ったんですか隊長」
「文句言わないの。出れるの私たちだけだったんだから」
「分かってますよ」
そんな、志吹と狙撃手である
一応、チーム・ゴールドはシャワーを浴びたばかり。その後でいきなり体を動かして汗を掻くとはなんとも面倒なものであった。
もちろん、これが初めてという訳ではないのでこんな会話も何度も繰り返されている。
「しかし、こんな時にエイトが動けなくなるなんて……」
「…………」
「あ……すいません……」
ふと、口にしたその言葉で志吹の雰囲気が一瞬変わったためか、小緑はすぐさま謝る。
「お前たち、任務だぞ」
響のその一言で、EXキャリー内の空気がピシッとしまる。
「ねえ皆、じゃあこういうのはどうかしら」
「へ?」
志吹が口を開き、
「深夜出動じゃなくて、私たちの後輩の男の子のデートの邪魔をする輩にお灸を添えてやるの。とびっきり熱いのをね」
「あ、それいいですね」
吐き出されたその言葉には、チーム・ゴールド三人全員がうなずいた。その理由なら、納得できるということだ。
「ったく……」
女と言う生き物はつくづく分からないと響は溜め息を吐く。
EXキャリーがスカイベースの甲板上に射出口が開き、放出されたリニアカタパルトへとセットされ、
『リニアボルテージ上昇、発進できます』
「EXキャリー、チーム・ゴールド出撃する」
響の出撃の合図と共にEXキャリーはリニアカタパルトを走り、数秒で亜音速へと到達する。射出され、ヴァルティカムリフトによる飛行に入ると今度は数十秒で音速を超え、空を飛んだ。
8
「ん?」
着信が来た。
着信メロディから、円の携帯からだと分かる。
携帯の画面に映る「天ヶ瀬円」という表示を見て、通話をつなげる。
「もしもし、円?」
『友里! 今どこだ!』
「え、今どこって……」
『映画館にはいないよな!』
「へ?」
突然、映画館に居ないかなどと聞かれ、
「いや……えと……」
正直に答えるなら、もう着いてる。
ロビーの中にいる。
と考える。もしかしてもう着いているのかと、待たせているのではないのかと心配しているのだろうか。だが、電話越しの声からはそんな感じには聞こえない。心配するよりも危機感溢れるような感じである。円が危機感を覚える事と言えばビーストが現れる事だろうが、その時に感じる世界が反転するような感覚は無い。
と言う事は、ビーストとは違うのだろう。
故、友里は前者の考えに至り、
「まだ、だけど……?」
『そうか』
友里が答えると電話の向こうの円は安堵したようであった。
『いいか友里、絶対にあのあたりに近づくな! その
ブツッと通話が切れる。
電池切れか、と、画面を見るが電池はまだある。圏外になったのだ。
「――ッ!?」
瞬間、
世界が反転し、
数秒後、映画館――イーストシティビルが黒色に食われた。
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