Dreamf-12 この手の届く所(A)
1
「これでいいんじゃない? 友里」
「ん? んん……」
里桜が店内から持ち出してきたのは赤のショート丈のジャケット。
「でもこれから暑くなるし……。買ってもすぐ着ないんじゃ」
「そう? 案外そうでもないんじゃない?」
「……?」
首を傾げる友里。
確かに円は人とは少し違う。恐らくスピリットだからか寒さ暑さに対して強い耐性を持っているのだろう。
半年前では円は上のパーカーを脱いでも平気な顔をしていた。夏だからジャケットを着たら暑い、という事もおそらく無い。
が、そもそも里桜に円の事は話していない。そんな事情など分からないはずだ。
「まぁ、夏場にあんまり着るとは思えないけど……ほら、秋とかさ」
「んん」
確かに、秋になれば着るだろう。
なんとなく、友里は想像してみる。
赤色のジャケットに、円の事なので黒色のシャツを下に重ね着し、少し色調が暗めな青いジーパンを履くだろうか。
否、もしくは黒色のシャツではなく灰色。灰色の薄手のパーカーを着るのだろうか。
いろんな円の姿を考えている内に選べなくなり――
「どうしよ、里桜……」
「いや、選び過ぎだって」
「二十種類全部買うなんて出来ない!」
「高校生のお買い物じゃないわよ、それ。頭の中でリカちゃんしてたの?」
「どれがいいかなぁ」
「んん――」
さすがに選択肢が多すぎて里桜も迷いを見せる。
知らない人が着るという事なので尚の事慎重になってしまっているのだろうか。
服を組み合わせながら試行錯誤させてみる。
2
そんなころの仁舞区内の大型ビジョン。
『つい先ほど、太平洋上の日本領海内にある無人島で起きた大衝撃について政府が会見を行い、地下に溜まっていた天然ガスが爆発した事によって引き起こされたものだと明らかにしました』
アナウンサーがニュース原稿の読み上げ、
から、映像が切り替わり、
大衝撃によって破壊され、原型が完全に変わった島の空撮映像が映された。
『今日午後二時半時ごろ、突如発生した大衝撃が原因で日本領海内の島が破壊されたことを受け、日本政府の島津官房長官が会見にて次の様に述べました』
そしてまた映像が切り替わり、記者会見の映像が映る。
『本日一四時半ごろ発生した大衝撃は専門学者たちの見解により、地下にある天然ガスが爆発し、それがきっかけで断層が大きくずれた地震によるものであるとされ、現在も尚明確な原因を突き止めるため調査中であります。万が一の場合もございますので、被害の遭った周辺での漁はお控えください――』
しばらくの記者会見の映像。
そして映像がニュース局に戻る。
『なお、今回の大衝撃、及び地震による本州側への津波の被害は起きないとされており――
3
――太平洋側沿岸付近の住民たちへの避難警報は解除される見通しです』
ニュースで流れた事。
こんなにも早くカバーストーリーが作り上げられるとは。もはやこう言ったことが起きることがまるで予想されていたのかと思ってしまう程の早さだ。
知りたいことは知れたので、代理オペレーターに「もうええ」と吉宗が口にするとニュース映像が切られた。
「さすがに今回のカバーストーリーには無理があるかと……」
そんな響の言う言葉に、吉宗は唸る。
「まだIAの方も準備できとらんねや。しばらくの間の時間稼ぎ。政府や専門家が言ったことにしといたら大概の民衆は信じるや思うたんやろ、上のもんは」
「確かにそうでしょうが……。あまり隠し事が過ぎると人々の信頼を失う」
「人の信頼を得る代わりに、円らを人間の敵にするんはおかしな話やろ」
「…………」
一〇〇〇人救ったとしても一人でも死んだらその死んだという結果に固執するのが人間。そんな人間が、島一つをスピリットが消したという事実を知ったらどうなるか。「知る権利」だと謳い恩を忘れるのが人間なのだ。
「今の俺等が、スピリットを敵に回すっちゅうのは最悪な選択や。この星の中で、人間だけが取り残されるんやからな。今の俺等がこの戦いの中で一番弱いっちゅうことを、認めなあかん」
最後に「スピリットだけは、敵にしたらあかんねや」と口にして、
響との会話はここまでだ。
何故なら、
「おお、円。まだ行ってへんかったんか?」
「……? ええ、約束は一〇時半ですから」
「そうか。ホンマにオールナイト行ってくんねんな」
「何か?」
「いやな、若い男と女で一晩中イチャイチャと――」
「いやいやいや……。友里に至ってそんな事が」
「やけど、生涯長い付き合いなんやろ?」
「まぁ……幼馴染ですから?」
「せやろ。あるかもしれへんで?」
「…………」
答えに困ったかのように頭を掻く円。
吉宗はそんな円の胸をコツンと叩き、
「ん?」
「そん時は、男見せえや。大事にすることとヘタレることは別やさかいな。女に恥かかせるんだけは、絶対すんなよ?」
その吉宗の言葉に、円は何度も頷き考え込むように思案顔を浮かべる。
「今夜ぐらいは、いつもの事忘れて行って来い」
「……。
はい」
円は柔らかい笑顔を浮かべて答えた。
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