Dreamf-12 この手の届く所

 日没まであと一時間。

 円がブリッジから飛び出してからヴァルティカムリフト、スカイベースの制御復旧までそう長い時間がかかることは無かった。

 だが復旧するまでの間、担当区域内で何が起こっているのかは当然分からない。

 なので、太平洋上の島一つの原型が変るほどの大惨事など分かっているはずも無い。

 被害はおそらく過去最悪。

 惨状だけを見れば、核爆弾でも落とされたのかと勘違いしてしまう程の被害のそれは、間違いなくカイトと円スピリット同士の戦いによって発生した被害であった。円本人は島内にある山が消し飛ぶほどの被害事態は把握していたが、島その物の被害など分かってはいなかった。

(これほどの力を……)

 響は今初めて恐れと言う物を覚えた気がした。

 自分たちがその手に持った――

 自然すらも破壊してしまうその驚異的な力に。

 もしかしたら、自分たちはとんでもない物に手を出してしまったのではないのかと、

 恐れた。

「たまげたな、これは……」

「コマンダー……?」

 いつの間にブリッジに来ていたのだろうか。

 響の背後から被害の遭った島を映すメインモニターを眺めていた。

「体はもう?」

「ああ。さっき精密検査受けて来たからな。問題はないようや」

「そうですか……」

「にしても、これは円とカイザーがやった。っちゅうことでええんやな?」

「ええ、間違いなく」

「スピリット同士で戦うんやったら国同士で戦争してる方がなんぼかマシやな」

「幸いな事に被害があった島は無人島。しかし、万が一島民がすむ島だったら……」

「やが、あそこで円が止めなこの艦は落ちて、東アジア全体に甚大な被害が出る所やった。どっちにしても天秤は動かんかった」

「しかし、これはあまりにも酷すぎる。スピリットなら、分かり合えると――」

「そんなもんは、所詮俺等人間の押しつけや。円がたまたま分かり合えるタチやっただけっちゅう話やろ」

 確かに、吉宗の言う通り。

 分かり合えるのならば、とっくの昔に桐谷恵里衣をSSCに引き入れることも出来たであろう。だが、長い交流があるにも関わらず、恵里衣からの信頼や信用は得られていない。

「それでも、いつも通りでええんや。アイツはボタン一つで全部吹っ飛ばす兵器やないんやからな。力の使い方は、円が一番分かっとる筈や」

 この、吉宗の円に対する全幅の信頼は何を根拠に抱いているのか。

 ほんの一瞬、吉宗は響から視線を外し出入口を見やった後、鼻笑いを一つついた。




        *     *     *     *     *




 知らなかった。

 恵里衣にスカイベースの甲板まで連れて行ってもらう時にはもう意識などどこかへと消えていた。

 目が覚めたら自室のベッドの上。

 カイトの戦いから何が起きたのか、当然知る由も無い。

 ぶつけあった最後の一撃による被害が、島全体に及んでいたことなど。

 自分の手を見やり――

 この手が島を破壊したのだと、言い聞かせる。

 人の身人の心が手にするには、この力はあまりにも大きすぎる。だが、手にして手放す事も出来ない。兵器の様に解体することも出来ないのだ。

(力の……使い方……)

 解体できないならばうまく付き合わなければならない。


 ――力を有効に使えない、それがお前の弱さか。


 使うなら、カイトのようには使いたくなかった。

 円は拳を握り、

 カイトの幻影を今、断ち切った。

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