Dreamf-11 強者の意味-皇への試練-(D)
11
スカイベースから飛び出し、円はカイトの気配を探るため辺りを見回す。
と、
「――――ッ!?」
突然上空から金色の彗星が無数に降り注ぐ。
間違いなくカイトが撃ち放ったものだ。
かわせば被害が地上に出るのは間違いない。
撃ち放たれた彗星一発一発が核兵器の数百倍の威力――ビーストを一撃で倒してしまう程の威力なのだ。
「ハァァァ――ッ!」
力を溜め込み――
「ゼァアアアッ!!」
昨日と同じように――
否それよりもさらに強力なシールドを大きく展開する。
防ぎきれなければ恐らく日本本州全体に壊滅的な被害が発生してしまう。
スピリットである自分には当たってもさしたる問題は無いが
防がざるを得ない。
大きく展開されたシールドに金色の彗星が当たるたびにはじけ飛び、
「うぐッ……!」
円のシールドのエネルギーが削られていく。
そうして、最後の彗星がシールドに弾かれる――
その際、円にめがけて光線が放たれた。
「グアッ――!」
シールドによって威力を大幅引き下げられても、円を撃ち落とすには十分であった。
空に身を打たれながら円の体は踊る。
(力って……)
――力を有効に使えない、それがお前の弱さか。
(強さって……)
――強き者が弱き者を支配するのがこの世界だ。
円、堕ちる
地に落とされる。
(本当にそんなものなのか……)
視界に映る遠のく空と、近づく地。
スピリットやビーストの放つ力、
戦うという事。
それらすべては確かに、カイトの言う通りであった。
人間はビーストには敵わない。
強者が弱者を蹂躙する。それは至極真っ当な事だ。それが受け入れられないなら、落ちればいい。
遥か上空から、強大な力を感じる。
おそらく最後の一撃を準備しているのだ。
ならば、それを受ければいい、このまま――
遠のく空に――
近づく地に手を伸ばす円。
その時、誰かが円の手を握った。
引きもせず押しもしない、唯握るのみのその手は幼く――
そして握られる自分の手も、幼い。
(この手は……)
思い出す。これは、かつて心が壊れた自分の手を握る彼女の手。
それは今の自分ならすぐに壊せる。ほんの少し力を出すだけで壊せるほどか弱い。
だからと、その手を潰せばいいのかと――
「違う……」
強き者が弱き者を支配する力を、否定する。
自分の手を握る手をそっと握り返す、
その時、自分の手を握る手が消え、伸ばす手の先には空がある――
カイトがいる。
「本当の強さは……弱い人たちを支配することじゃない。カイトは間違ってるぞ!!」
瞬間、もう一撃、
先ほどよりもさらに強力な光線が撃ち放たれ、
赤い光が、散った――
飛び散る赤い光は、尾を引いて地に落下した。
落ちたのはどこかの山中に廃棄された工場周辺の森林地帯。
「グッ――、ガハッ……!」
光線が自分の身を穿つ前にシールドを形成したため、ギリギリ直撃は避けられたものの
立ち上がり、円は周囲を見渡し、
空を見上げる。
雲一つない青空。
円の視力ならば、スカイベースさえ見えてしまいそうだ。
「――ッ!」
と、金色の光が一閃、工場に落ちた。
考えるよりも体が動き、その工場に向かって駆ける円。
――――――――
工場の中は薄暗く、よそ者を寄り付かせない雰囲気を醸す。
確かに、金色の光はここに落ちた。
「……ッ!?」
そのとき、向かう先にあった出入り口から、カイトが姿を現し円を見る。そしてほんの一瞬だけ含み笑いを浮かべた後、身を低くして構えを取る。
カイトの希望通り、円はストレンジモードとなった。
自分の強さこそが正しいと示すために。
円もゆっくりと構え――
「――ッ」
「――ッ!」
第二の火蓋が切られ、
互いの一撃、二撃、
拳撃、蹴撃が交錯する。
互いの攻撃を躱し、
受け流し、
一撃を受けられるたびに、爆裂音と共に、
ミシミシッと言う砕ける音、
ギギギッと言う軋む音が工場内に響く。
そして互いに決定的な一撃を加えんと――
「――ハッ!」
「ゼアッ!」
互いの拳が打ち合った。
その一撃の衝撃で、工場周辺が大きく揺れ、
いくつかの木々は薙ぎ払われ、
残っていた全ての割れ物が砕けた。
「グッ、――!」
「ッ――!」
打ち合った拳をしばらく押しつけ合った後、その反動で飛び退く両者。
「……ッ!
ハッ!」
地に着いた足をさらにバネにして円はカイトに向かって跳び、
跳躍の速度をそのままパワーに変え、正拳を撃った。
「クッ……!」
カイトはその正拳を両手で受ける――刹那、
「……ッ!!」
もう片方の手で、フックを放つ。
拳は確実に側頭部を穿ち、
「グッ!」
カイトはよろめいて数歩ほど後ずさる――――その大きな隙を見逃さない。
「――ッ
オリャアッ!!」
右足にエネルギーをチャージ、
そして一歩の助走で跳び、ストレンジブラストを撃ち放った。
「――ッ、
ハッ!」
同時、カイトは金色の光を右足に纏わせ、回し蹴りを繰り出す。
(なッ――!?)
明らかに、チャージ時間が足りていないはずなのに威力は円のストレンジブラストと同じ。
だが止まれない。
技がぶつかりあう――
再び、衝撃が周囲を巻き込む。
さらに広範囲の森を薙ぎ払い、被害が広がる。
「グッ――!」
「チッ……」
技は対消滅。
両者は衝撃に吹っ飛ばされ、
円は地に足を着いた後跪き、
カイトはよろめき後ずさるのみ――
「……ッ!」
「クッ――!」
円、大きな隙が生まれる。
「――ッ!?」
カイトがいない。
と、刹那――
「ハァッ!!」
「――ッ!」
今度は先ほどとは逆で、カイトの
金色の光が纏われたその一撃は、パワーもおそらくストレンジブラスト以上――
「クッ、ウッ――!!」
両腕に赤い光を鎧の様に纏わせて防御態勢を取り且つ、シールドを展開する。
カイトの蹴撃は、シールドで一瞬阻まれ威力が減衰するも容易く砕き、
円の構えた両腕に炸裂する。
「グッ――――ッァァアアアッ――!!」
その激烈な一撃を直撃していたら、どうなっていただろうか。
ガードしていてもその衝撃に、体が砕け散るような痛みを伴った。
両腕もろとも消し飛ぶ。
これ以上は受けられない。
「ウァッ――」
被弾部が爆裂し、円は弾き飛ばされた――
もちろん、それは円が行ったこと。
ガードしきれないのでカイトの蹴撃にエネルギーをぶつけて自身から弾き飛ばされたのだ。ダメージは受けるが両腕を失うよりかはいい。
だが、そのダメージに伴って――
「ハッ!」
生じた隙を見逃さず、
カイトは跳びかかり、チョッピングブローを撃つ。
「くッ――」
立ち上がる暇も与えられない。
跳びかかってくるカイトの脇下を潜り抜けるように攻撃をかわす――
「デアッ!」
「うぐッ――」
が、立ち上がろうとしたところで、背中に後ろ蹴りを受けたため体勢を大きく崩される。
これでは追撃に受けの態勢を取れない。
前のめりに倒れた円にストンプをしてきたカイト――
円は身を転がしてギリギリでかわし、
カイトを何とか視界に捉え――
その時、カイトがサッカーボールキックで追撃しようとしてきていた。
「――ッ!」
カイトの軸足を蹴り払い、体勢を崩す。
それでも尚、怯むだけで完全に地に伏せる事が無いカイト。
だが円が立ち上がり構える暇は生まれた。
「ハッ……」
円は立ち上がり再び構え、
そしてカイトは――
「ッ……ハァッ!」
片手に金色の光を纏わせて振る。
と、纏われた金色の光が放出され、振るわれたカイトの手に集まり、武器となる。
槍とも斧とも取れる形状を持つ
カイトの膝から下程の大きさもある斧頭には血のような赤い筋が幾重も走りS字の刃そのものは黒く染められ、肘から手首までの長さもある槍の穂先は縁取られるように金色の光を纏っていた。
その重量のある斧槍を軽々と回した後、構え、
三度、相対する両者。
だが先ほどよりも見合う間は少なく、
「――、ハッ」
カイトが足を強く踏み一歩で間合いを詰め、
「ゼァッ!」
斬撃が振り下ろされる。
金色の斬閃は確実に円の身を縦に割ろう――
「クッ――」
そんな一撃を受けられるわけもなく、躱す。
斧が振り下ろされる暴風に一瞬体勢を崩され駆けるが、カイトが体勢を整える暇が与えるはずもなく、
躱された先にさらに斜め上へと振り上げるように斬撃を加える。
致命傷になる‟かもしれない”と言うその時点で、一撃だと受けるわけにも行かない。
円の首を叩き切るであろうその斬撃――
それもかわす。
と、金色の斬閃が跳び、
工場の壁を砕き、
建物が崩れる――
「クッ――」
建物は瓦礫となり、
砂埃が互いの視界を塞ぐ。
そんな中でさえ、カイトの殺気は円へと襲い来る。
建物が崩れる程度で戦いが中断することなど、ありえなかった。
塞がれた視界の中、
肌を突き刺す殺気と、
振るわれる斬撃の音がいつも以上に捉えられる。
斬閃が空に描かれるよりも先に、
刺閃が空を穿つよりも先に、
円はカイトの攻撃を先読みしながら、身躱す。
恵里衣が刀を振る様と同様に振るわれる一撃二撃三撃――
全てを受けることなく躱し続ける。
隙は円を仕留めに来る必殺の瞬間。
放たれるのは――
「グァッ――」
振るわれる一撃の暴風で体勢を崩し、
後ずさって瓦礫の山際に追い込まれる円。
「――ッ!」
そんな円に間合いを詰めにかかるカイト。
必殺を振るうのは、円に隙が生じた瞬間。
躱すことが出来ず、受けるしか出来なくなった瞬間。
斧頭に走る赤い筋が脈打つように金色の光を発し、
「ハアァッ!」
必殺の一撃――
その一撃を受ければ、スピリットと言えど即死。
だからこそ力が溜め込まれる分、その一撃は大振りになる。
糸口はここにあった。
「ッ――」
躱さない。
一歩踏み出し、斧槍を持つ方の手首をつかむ。
「……ッ!?」
「ハッ!」
そのままもう片方の手でカイトの武器を弾き飛ばし、
カイトの身に正拳を穿った。
破壊する赤い光が散り、
「グ、が、ァッ――ッ!」
ここにきてようやく強力な一撃を直撃させることが出来た。
呻き、拳の衝撃に後ずさり、光に身を砕かれそうになったカイトは、
尚、膝を付かない。
「チッ――」
すぐ立ち上がり、
今度は額の前で両腕をクロスさせてエネルギーを溜め、
「ハッ――」
その両腕を下ろして金色の雷光を両手の間に発生させ、
位置関係を地面と垂直にし、
そして雷光は螺旋となり、中心に球体を作る。
間違いなく、必殺技を放つ気だ。
ならば、この戦いは後一撃で決まる。
「ハァアアッ――、
――――ッ!」
両腕を広げてエネルギーを溜めて突き出し、両手の位置を逆にして小さな太陽を生み出す。
両者――
「ハッ!」
「ゼアアァッ!」
撃ち放つ光線と光球が衝突する。
刹那、強大な衝撃は空間をゆがめた。
それは炎も光も無い、音しかない爆発。だが風でもない。
発生した衝撃波は周囲の森全てを薙ぎ、滝や川を吹き飛ばし、岩をも塵にした。
突然の衝撃に生き物たちもその衝撃に身を砕け散らかせた。
自然の音など、無い。
在る音は、破壊の音と爆ぜる音のみ。
自然も生き物も全てを消し飛ばし、あろうことか周囲全ての山をも消した一撃の衝突。
だがその衝撃もついに止まった。
「あッ……ぐ、ぅ……ッ」
ほんの一瞬、気を失っていた。
衝撃に自分自身が吹っ飛ばされ仰向けに倒れていた円。
体を走る光の波紋が現れた時聞こえる心音のような音。
波紋は走っているがそれが聞こえない。つまり、エネルギー切れ。だがこうして意識が戻ってこられたという事はまだ消失する程では無いようだ。
「くッ……」
立ち上がろうにも力が入らない。
「エネルギー切れとはな」
「……ッ!?」
立ち上がれない円に歩み寄るカイト。
「カイ……ト……ッ!」
「やはり、スピリットとして弱すぎる、天ヶ瀬。力も、心も……」
そして間近に迫り、カイトは円の顔を見下ろした。
「くだらない最期だな」
「――――ッ!?」
カイトは再びその手に武器を出現させ、穂先を円に向け、
「苦しまずに還れ」
穿つ――
「――ッ!?」
刹那、
赤い剣閃が飛び、
カイトの武器を弾き飛ばす。
「何しに来た、恵里衣……」
「お痛はそこまでにしておくことね、カイト」
剣閃が飛んできた方から、
「介入にはいいタイミングだな……。つけてたのか」
「いえ? でも、あんだけド派手に暴れまわってれば気づく物よ」
「むしろよくこの程度で済んだと言えるだろ」
「山を何個も消しといてよく言うわね」
カイトと円の間に刀身を割り込ませた恵里衣。
「お前も、飽く迄敵になるか……」
「…………」
恵里衣は赤い瞳をカイトの目へ真っ直ぐと向け、頑として外さない。
その沈黙と表情が答えであった。
「フン……。気が削がれた」
カイトは円と恵里衣に背を向ける。
「敵なら、お前もいつか消してやる、恵里衣……」
「……」
「天ヶ瀬、恵里衣に感謝しろ。しばらくはヒーローごっこでもしているんだな」
カイトはその場から歩き去る。
「カイ……トッ……!」
そんな円の呼びかけにも応じない。
一瞥もこちらに向けないまま――
ほんの一瞬、辺り周囲に金色の光が満ち、カイトの姿は光の中に消えて行った。
「味方になった覚えなんかないわよ、アンタと……」
それは、円に対してかカイトに対してか。
だが、恵里衣はそんな言葉を吐いた後ウリエルを消滅させて円に肩を貸す形で立ち上がらせた。
「――ッ、恵里衣ちゃん……」
「今回は、相手が悪かったのよ、アンタ……。言ったでしょ、カイトは強いって。よく生きてるものよ」
それは気休めにかけた言葉なのだろう。
だが、周囲を見回すとそんな言葉すらも円の心に届かない。
「完敗だ……」
「え……?」
周囲全て、
何もないその場所を見回す。
ここまで力を出しても、円はカイトをエネルギー限界に追い込む事さえ出来なかった。
二体の敵がチームワークで攻撃してきた、
突然新たな力が発現し使いこなせない、
人質を取られた、
などと言った不確定要素が絡む敗北要因。
だがカイトととの戦いは純粋な力での戦い。だがそれですら、円の力はカイトに届かなかった。完全な実力差。
結果が周囲の惨状だ。
昨日と何も変わっていない。
「何がみんなの笑顔を守るだ……。こんなので、何かが守れるか……ッ!」
「あっ――」
ズルッと円の体が恵里衣から離れ地面に手を着く。
「円……」
「何で僕はスピリットになったんだ……。なんで、カイトがスピリットに……なれたんだ……ッ。教えてくれよ、恵里衣ちゃん……」
「……」
そんな事、誰だって分からない。
だが自分で出す答えを、今信じられない。
誰かに答えを出してほしかった。だが、恵里衣は口を紡ぎ答えを口に出さない。否、出せないようであった。恵里衣も分からないのだ。
「何でだ……。こんなことするためか……。これじゃ、ビーストよりも最悪だ……ッ」
円は地に着く手で拳を握り、天を仰ぐ。
「僕たちは何で現れた……」
そして何度も同じ問いを繰り返す。
「何なんだッ!!!」
To Be continued...
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