Dreamf-11 強者の意味-皇への試練-

「……ゆり――、ゆり……友里!」

「ん、んんぅ……」

 身を激しく揺さぶられ、名を呼ばれ、

 眠りに淀む意識が引き戻されていく。

「ん……? 里桜の声がする……」

「起・き・ろ」

 言葉に合わせてぴちぴちと頬を叩かれ、友里は瞼を開く。

「里桜……? なんでいるの?」

「何でって……誘ったの友里でしょ」

「ん、そっか……。今日一七日だった……」

「友里? ボケてる?」

「寝ぼけてる」

「今日は辞めとく?」

 昨日の事もあるので気にかけてくれているということなのだろう。甘えたい気にはなるが、友里は首を横に振り、身を起こす。

「てか、なんで制服?」

「帰ったらそのまま寝た」

「はあ……。たく、鍵もかけないで何してるのさ。朝ごはん作っておくから、お風呂入って着替えなさいよ」

「……うん、ありがと」

 寝ぼけ顔になりながらも友里は里桜に笑顔を向けて頷いてベッドから降りた。

 独り暮らしなので風呂上りはいつもバスタオルを巻いてリビングまで出るのだが、さすがに人前とあっては出来ない。とりあえず下着と部屋着だけは持っていく。

 今日は円と会うのだ。

 願掛けにでも、下着は少し値が張ったパステルピンクのものでも着ていくことにした。

「あ、友里?」

「ん?」

 持ってきた荷物をガサゴソと探る里桜。

 渡す物があるのならば後にして欲しいと、言おうと――

「今日これ着ようよ」

「――ッ!?!?」

 言葉を失う、

 同時、一気に目が覚めた。

 取り出したのは下着――ほぼ紐だった。

「勝負下着ー!」

「着ないわよ!!」

 何故持っていて、

 何故持ってきたのか。

 聞くまでもなく、拒否した。

「そう……せっかくいい勝負下着だと思ったのに……」

「落ち込んでもダメ!」

 友里は「たくっ……」とため息を吐いて、タンスから下着一式と部屋着一式を取り出して風呂場へと向かう。

「テレビ使ってもいい?」

「いいよー」

 さすがに一人にするのでは、里桜も暇になるだろうと、友里は携帯に入っているテレビのリモコン機能で電源を付けてやる。

 土曜朝のバラエティ番組ではニュースが放送されており、ニュース欄の一番下の項目についての報道がなされていた。

『続いては、今もっとも世間に騒がれている「怪獣災害」。その真に迫ります』

 キャスターのその言葉に、友里の脳裏によぎる、自分が遭遇した三体のビースト。

 テレビ画面では特撮やアニメなどの映像を背景に、

『怪獣。それは本来私たちの知っている特撮ドラマやアニメのなかでしか存在しないものだった。しかし――』

 と言うナレーターの声がとぎれ、画面が切り替わる。

 それはおそらく視聴者からの提供映像。

 手ぶれや喧騒で映りこそ悪いが、それは間違いなく一昨日の仁舞中央通りでの出来事であった。

 そして映像の中で一瞬だけ映り込むビーストの姿。

「…………」

 風呂場に向かう足が止まりテレビ画面を見つめる友里。

 カメラがビーストの姿をとらえられなくなったとき、咆哮が轟く。

 そのとき、鮮明に思い出される。

 足がすくみ、動くことが出来ない。

「友里?」

「……」

 人間の放つ悪意や殺意など、ビーストに比べればどうということはない。

 それを受け、恐怖が刻まれ、ふとしたことで思い出される。

 あの時円がこなければ、と、

 円がいなかったら、と、

「友里っ」

「――ッ!」

 ガクッと身を揺さぶられ意識が引き戻される。

 里桜が友里の顔をのぞき込んでいた。

「ほんとに大丈夫?」

「うん……。うん……」

「行くんなら、早くお風呂入って用意しなよ?」

「うん、分かった」

 そうして、里桜がテレビを消してくれたおかげで友里の恐怖は次第に奥底へと潜まり、身の竦みも解けていく。

(しっかりしないと……。円に会うのに)

 胸に手を当て、気を取り直す。

 今まで溜まっていた三年分の円の誕生日。

 彼は常に命がけの場にいる。せっかく円も時間をくれるのだせめて、精いっぱい祝ってやらないといけない。

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