Dreamf-10 皇の名を持つ金色の光(C)

       5




 中国国内のどこかにある町の公園。

 その日珍しく人が多かったのは五月十六日から始まる文化大革命を取り扱う講演会が行われていたからだ。長い年月の中で歴史の底に沈められそうになっていた出来事。今の中国を作り上た歴史の分岐点を解き明かすというコンセプトであったらしい。

 だが突然町中の警報が鳴り響いて軍や救援隊による避難指示がなされ、当然それら全ては中止となった。

 だが、人が多すぎた。

 人が多いということ自体はまま起きる事なので避難が上手くいかないという事も多い。

 それだけに、ビーストが出現するというこの事態の中では犠牲者が出やすい状況がそろいやすくなっているのだ。

 境域はもうすぐ発生する。

 発生してしまったら中にいる人間たちはその境域外には逃げられない。離れさせるしか手は無い。


――そして時が訪れる。


 上空に突如として表れる混沌の色をした銀河。

 光のウイルス、

 ファントムヘッダーと呼ばれるそれからは怪獣の咆哮が聞こえていた。

 この存在が現れたという事は、すでに境域が発生しているという事。

 まだ千人超程の人間の避難が終わっていない。しかも、現れた光を神秘でも目撃しようとその場で立ち止まってしまってしまい離れさせる事も出来ない。

 そんな事をしている間に――

 ファントムヘッダーの光の中心から光の柱が下りて、地上に落ちる――

 混沌の色をした光の粒子が散り、

 柱を砕いて中から二体の怪獣――ビーストが現れた。

 全身が灰色の軟体動物を思わせる体躯を持ち、長い首に青い目持つ。

 人間と獣を足した様な顔立ちは怪獣ビーストではなく魔物モンスターを思わせる。

 背面には体色と同じ色をしたリングがあり、背中と繋がっている。

 全身をみれば明らかにアンバランスな体作りなのがむしろこの世のものでは無い者であると実感させる。

 出現したビーストの赤ん坊の鳴き声にも似た咆哮が、地も空も震わせる。

 溢れ出る殺意と敵意。

 その時になってようやく事の深刻さを理解できた民衆は興奮や関心も失い恐怖によるパニックを起こし始めた。

 悲鳴を挙げて我さきと逃げようとする民衆に、ビーストが襲い追いかける。

 

 ――足ではなく、飛んで。


 背中のリングをまるで翼替わりの様にして広げ、

 地面と水平の体勢で飛ぶ。

 鷹や鷲と同じほどの飛行速度であり、逃げる民衆に追いつくのはたやすい。

きゃっ!」

 人混みの中一人の女性がこけた。

 無論、その一人がビーストの最初の獲物となる。

「啊ーーーーーーッ!!」

 迫るビーストに絶叫を上げるしかない。

 ビーストの口が開き、その中にエネルギーが集まる。

 上を通り去り際、撃ち放つ――

「――ッ

 ハアアッ!!」

 突然現れた銀色の光と赤色の光。

 光は空の中に波紋を描いて取り払われ、

 その中から現れた少年が鉄槌打ちでビーストを地面に叩き落とした。

「――ッ、ハアアァ……ッ」

 そしてその少年はビーストの首根を掴んで持ち上げ、

「ゼァアアッ!!」

 民衆たちが逃げる方向とは逆の方へ投げ飛ばした。

 地面に叩きつけられ、悲鳴を上げるビースト。

 大きな隙が生まれた。

 だが少年はビーストを攻撃することも無く、未だ倒れ込んでいる女性の方へと駆け、

「「没事吗大丈夫ですか?」

 身を支えさせて立ち上がらせた。

 下手ではあるが一応意味は通じたらしく、支えられて立ち上がった女性は戸惑いながらもうなずく。

 その様子に少年「よし」と呟いて頷き、

快逃早く逃げて!」

 と、背中を押す。

 そのまま女性は走り、逃げる民衆の中に入っていった。




       6




「よし……」

 慣れない中国語だったが通じてくれたようだ。

 先ほどの女性の背中を一瞥した後、円は自分が投げ飛ばしたビースト――モルメルクに意識を向ける。

 モードチェンジはもう出来ている。

 しっかりと、今度はストレンジモードになれた。

 先ほどの女性の介抱をしている時にモルメルクは体勢を立て直せたらしく、

 さらに自らの真の敵であるスピリットに今まで人間たちに殺意を向け――

 口内に溜めていた光弾を無数に撃ち放ってきた。

「――ッ」

 背後には民衆がいる。

 かわす訳にはいかなかった。

「ハッ!」

 円は両手を広げ、シールドを展開した。

 撃ち放たれた光弾全ては円の方に向けられている。

 故に、動かぬ的となれば後ろに流れることは無かった。

 全ての光弾は円が展開するシールドの前に散る。

 その内、いくら攻撃をしても無駄である事を悟ったモルメルクは攻撃を止め――

 生じた隙にシールドを解除、

「――ッ!

 セァアッ!」

 円は跳び、

 モルメルクの顔面に跳び膝蹴りを撃ち込んだ。

 新しく体勢を作る間も与えられず、モルメルクは痛い一撃を受けよろめく。

「デアアッ!」

 地に足を着いたそのすかさず、

 円はよろめくモルメルクの腹部に正拳を突き刺し、

 さらに体勢を崩したところに、

「ハアッ!」

 モルメルクの顎下にアッパーカットを撃ち込んだ。

 思いっきり突き上げられたモルメルクは後方に吹っ飛ばされ地に全身を強くたたきつける。

 赤ん坊や幼児を思わせる甲高い鳴き声で悲鳴を上げるものなのでより一層不快感が増した。

 モルメルクはよろめきながらも立ち上がって体勢を整えようとする――

「ハアアァァ……ッ」

 だが、完全に立ち直らせる事はさせない。

 円は両手を広げてエネルギーを溜め、

 ストレンジブレイズウェーブの態勢に入った。

 ファントムヘッダーは尚上空で怪しく光を放っている。あまり長居させていると、ファントムヘッダーが何をするか分からない。その前に、決着を付ける。

 エネルギーを溜め、

「――ッ!」

 両手をつきだして太陽を生み出す。

 そして両手の位置を反対にすると、太陽が確かな形を形成する。

 後は、撃つだけ――

 瞬間、モルメルクはその円の必殺の一撃をどうにかして止めようとでも思ったのか、光弾を撃ち放ってきた。

 むろん、体勢を整えられているわけも無いので円からは逸れる、

「なッ!?」

 だが、それだけで円が必殺技を取りやめる理由になった。

 すぐさま溜め込んだエネルギーを散らせ、

 円は光弾の方へと自ら跳び込んでいった。

「ぐあッ!」

 被弾し、バチンッと火花が散る

 体全身に衝撃が伝わる。

 だが撃ち放たれた光弾は一発ではない。

 まだ数発残っている。

「くそっ――!」

 一発受けて立ち止まっている暇など無いのだ。

 すぐさま次の光弾へと跳び込み、

「デアッ!」

 それを片手で受け止め――

 次の光弾は完全に背中を向けてしまっているため間に合わない。

「ハッ!」

 受け止めた光弾を自分のエネルギーに変換し、

 モルメルクの光弾に目がけて投げた。

 二つの光弾が激突――

 小さな爆発を起こして対消滅を起こす。

 一応、モルメルクが撃ってきた光弾全ては捌けた。

 が、故に本当に、円の戦況が不利になる。

 モルメルクにもどうやら円の動きを大きく制限する方法が分かったようだ。

 要は、人間を攻撃すればいいという事を。

 モルメルクは背中に光を纏わせる。

 それはまさしくオスのクジャクが大きく羽根を広げる様相に似ていた。

 光を纏うリングは次第に発光を増す。

 そして、放射される。

「――ッ!」

 どう見ても人間が浴びてはいけない光だ。

 スピリットがまともに浴びても危ない。

 ――が、庇わないわけにもいかなかった。

 放射された光の方に跳び込み、

「ハァァ……ッ

 ゼァァアアッ!!」

 力を溜め込み、

 体を大きく広げる。と、円を中心として赤色の光が展開され、靄が空の中に現れる。

 モルメルクの放つ光はその靄に遮られ、民衆には届かない。

 いつしか、モルメルクの背中のリングに纏われていた光は消え、

 同時、放射されていた光も消えた。

「くはッ……!」

 どうにか、民衆は守れた。

 が、光に身を焼かれ続けたせいか、体力を根こそぎ削り取られた。

 思わず膝を付いてしまい、

 生じた隙――

 モルメルクのリングから脹脛ふくらはぎ程の太さの腕が何本も伸びて来た。

「――ッ!」

 目前に来たところをとっさにはじく円。

 だが、そのほかの腕は円の方にはこない。

「しまッ――!」

 その腕を止めようと、円が伸ばした手は届かない。

 腕一本に人が一人。

 捕まった人間の悲鳴が上がり、

 空高く掴み上げられ、

 円とモルメルクの間の地面に叩きつけられた。

 衝撃による痛みと、伴う激痛に悲鳴を上げる被害者たち。

 ワザと殺さなかったのだ。ワザと、腕や足に重傷を負わせる程度にしたのだ。

 人間を盾にするために。

「クッ――!!」

 憤る円。

 思わず拳握り歯ぎしりを噛む。

 だが手出しが出来ない。

 跳び込んで攻撃を加えるのは容易だ。だが、反撃の意志を見せられない。

 今なお激痛に悲鳴をあげ、

 悶えている人間のの体を掴んでいる腕がある。

 一人ならすぐに助けられる。

 結果、その他全員が殺される。

 ビーストにとって人間の体など握りつぶすに容易いのだ。

 手を出せば殺すぞ。と、

 モルメルクは嬉々と笑うように鳴き声を上げ――

「――ッ!?」

 さらに一本の腕を伸ばして動けない円の首を掴んできた。

 人質にされた人間に気を取られてしまって完全に反応に遅れた。

 否、間に合っても弾けない。

「グアッ……!」

 本能的に、自分の首を掴むその手を外そうとする。と、

 人間一人、

 円や友里と同い年程の少女がより一層大きな悲鳴を上げ、

 ミシリッといやな音を立てる。

「――ッ!?」

 抵抗すらも許されない。

 あらゆる反撃や反抗は即ち、人の死。

 自分の首を絞める腕を掴んでいた自分の手を離し、

「クッ――あっ……!」

 今まさに握りつぶされそうになっている少女の方に伸ばす。

 この伸ばす手を届かせたいと、

 願えば――思えば、より一層に遠くなっていく。

 いつしか円の体にエネルギー限界を示す光の波紋が走る。

 このままでいると、間違いなく円は消失する。

 そしてその先にあるのは人間全ての虐殺。

 一人か多数か。

「クッソ……!」

 手が届かなければ助けられない。

 天秤にかける。

 そして、伸ばした手を引き寄せる――


 ――刹那、


 金色の光が一閃、

 空から降り落ちてモルメルクを薙いだ。

 モルメルクは悲鳴と共に吹っ飛ばされ、

 円と人質を掴む全ての腕も離される。

「くっ……」

 思わず跪いた円は首をさすり、光が落ちたところを見る。

 金色の光は地面に落ちた後螺旋を描いて空に浮かび、強い光を放つ。

「この光は――」

 そして金色の光は取り払われ、

 カイザーが姿を現す。

「カイト……」

 二人の視線が合う。

 気を失ってしまいそうになるほどの威圧、

 身を竦ませる視線。

 今、円は全てを感じ取っている、肌に突き刺さるほどに。

 跪いたまま、立ち上がることも出来ない。

 そんな円の様子をみて、カイトは小さく鼻笑いをする。

 ――

 ファントムヘッダーが動く。

 今まで自らが直接攻撃を加える事が無かったファントムヘッダーがカイトに目がけて光線を放ったのだ。

 明らかにカイトの死角からの攻撃。

「――ッ!? カイト!!」

 円が危険を知らせようと彼の名を叫ぶ。

 だが、カイトは振り向きもしない。

 被弾する直前、カイトは光線に傍目に片手を伸ばすだけ。

 その手は光線に晒される。

 だが、ファントムヘッダーの放った光線はあろうことかその片手で止められた。

 シールドも何も出さない。

 素手で止められたのだ。

「フン……」

 そしてその光線を止めるだけに留まらず、

 自分のエネルギーに変換して溜め込む。

「――ッ!」

 十分に溜め込んだエネルギーを撃つカイト。

 放たれた金色の光弾はファントムヘッダーの光線を消滅させながら――

 そして、ファントムヘッダーを穿った。

 光からはあらゆるビーストの悲鳴が聞こえ、ファントムヘッダーは揺らめく。

 もはやファントムヘッダーと言う後ろ盾も無くし、

 人質も解放され全ての計画を瓦解されたモルメルクは怒るように鳴き声を上げ、

 全てを狂わせたカイトの方へと走る。

「ハッ!」

 そのモルメルクに跳び回し蹴りをして地面にたたき伏せるカイト。

 地面で悶えるモルメルクの首を掴んで、

「――ッ」

 立ち上がらせて持ち上げ、

「セアッ!」

 投げ飛ばす。

 モルメルクはすぐ近くの建物に身を叩きつけられ、

 建物のコンクリートには大きなヒビと穴が開く。

 あまりの衝撃に地面に伏せたモルメルクは立ち上がる事も出来ずに、

 そして反撃すらも出来ずにいた。

「話にならないな」

 それは誰に対してのか。

 モルメルクに対してか、

 それともそのモルメルクに対して苦戦していた円に対してか。

 カイトは最後の止めを刺すため、

 額の前に両腕をクロスさせエネルギーを溜める。

 クロスさせた両腕を下ろすと、両手を結ぶ金色の雷光が発生した。

「ハアァ……――」

 そして両腕の位置関係を地面と垂直にする。

 と、両手を結ぶ雷光はいつしか空に螺旋を描く光となって、中心に光の球体を作った。

「なっ――!」

 そのエネルギーの大きさを見た円――

 ようやく立ち上がることが出来た。

 明らかに、ビースト一体を倒すには大きすぎるエネルギーだ。

 カイトは手の螺旋を描く光の中心にある球体に触れ、両手の位置を反転させ――

「ハッ!」

 球体をモルメルクにめがけて撃った。

 モルメルクに直撃するまでは、

 刹那よりも速い。

 悲鳴すらも上げられない。

 何故なら、カイトが撃ち放った技は、


 ――境域内の物、全てを焼き尽くすほどものであったからだ。


to be continued...

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