Dreamf-10 皇の名を持つ金色の光

「まさかね……」

 鈴果は思わず苦笑いをしてしまう。

 建物の屋上から円たちの戦いを観察していた鈴果。手を貸してやっても良かったがどうも貸さない方が後々のためになるようだ。

「本物が出るなんてだれが考えるんだ、まったく」

 とクスクスと、笑みをこぼす鈴果。

 先ほどの実体化したファントムヘッダーとの戦いで、円が青い光を出し始めた。思っている以上に早い覚醒か、

 それとも、

「ま、彼が出てくれたのなら僕も力を使わずに済みそうだ」

 と、鈴果は指をフィンガースナップを打つ形にし、

「鈴果、そこで何やってるの」

「――ッ! 恵里衣、久しぶりじゃないか」

 見つからないように気配遮断は行ったつもりだが、恵里衣の強力な感知能力の前ではほとんど効果は無かったらしい。

「円の事をえらく付け狙ってるようじゃない」

 恵里衣の視線がある方向に向かう。

 その先、カイトが円たちを見詰めていた。何もしない上、動くことも無い。当然の事だった。

 そんなカイトの姿を見て、恵里衣は「やっぱり」と小さくつぶやく。

「あんなものまで出して、えらくご執心じゃない」

「ふふ……上手いだろ?」

 鈴果が指を鳴らす。

 と、恵里衣の視線の先にいたカイトが突然空の中に溶けるように消えた。

 つまり、幻だ。

「目の前に突然スピリットが現れれば、動揺するだろ? ましてや今の円なら、君以外のスピリットを見たことが無いはずだ」

「今の……?」

 疑問符を与えてしまったようだ。小さく溜め息を吐き、クスリと笑いを浮かべる鈴果。

 これは、誰にも明かさない。誰に明かしても受け入れがたい。

「あなた――」

「僕が、円の何を知っているかって?」

「……ッ!?」

 だが、自分がそれを知っている少ない者の内の一人にいる事が、悲しくて、滑稽で、嬉しかった。

「君よりは知っているさ。もう、ずっと前からね、僕は彼を見て来たんだよ。彼の始まりの日から、ね」

「始まりの日……?」

「最も……始まりのきっかけを知っているのは、むしろ」

「――ッ」

 ――

 恵里衣は炎刀ウリエルの刀刃を、

 鈴果は幻銃アルタイルの銃口を――

「君が知ってるだろ、恵里衣」

 首に刃を当てられながらも不敵な笑みを浮かべる鈴果と、

 鼻先に銃口を向けられながらも紅い瞳を向けて敵意を見せる恵里衣。

「その口、どうやって黙らせようかしら?」

「さあ? 黙らせてみるかい? 僕を」

「いいわね、アンタのアルタイルと私のウリエル……。どっちが速いか勝負する?」

 互いの視線がぶつかり、ピリピリとした、肌すらも突き刺してしまいそうな空気が漂う。

 お互いどちらかが、一言を漏らすだけで銃撃と斬撃が交わってしまう。

 一戦交えるか、もしくは――

 緊張は時間と共に次第に弛緩していく。

 張り詰めた空気は雨粒の落ちる分だけ、弛緩していく。

「ふん……」

 恵里衣は溜め息交じりに鼻笑いをもらして刀を下げ、

 それを期に鈴果もトリガーに掛ける指を離す。

「まあ、何を知ってようが、秘密主義者のアンタがわざわざ円に教える事もないわよね」

「良く知ってるじゃないか」

 銃口を恵里衣から外し、鼻で笑う鈴果。

 数少ない者が知る世界の真実を含め、誰も知りえない事実。むろん、鈴果自身が進んで教える気はない。そう言った物は口で言うよりも自分で辿り着いてもらわなければならない。今知って心を動かされても、何も出来ない。現に、自分がそうなのだから。

 力を付けてから、真実を知る方が良いのだ。

「女は秘密を着飾ってこそ、美しくなる。君のようにね」

「……ッ!」

 歯ぎしりを噛み、動揺の表情を浮かべる恵里衣。

 やはり、その事を未だに引きづっているようだ。

 そこが恵里衣の甘いところであり、鈴果にとっては恵里衣のかわいいところでもあるように思えた。

「さて、僕はもうそろそろどこかへ消えるよ」

 鈴果は恵里衣の横をすれ違い、その様に、

「恵里衣も、直にこの辺も騒がしくなるだろうから離れたほうが良いよ。光の戦士君を見たいがために人が来るかもしれないしね?」

 と告げ、ひらひらと手を振って歩みを進めその場から消えた。

「円……」

 地上で本物のカイトがいた場所をいつまでも呆然と見つめている円を見下ろし、恵里衣は彼の名を口にする。

 恵里衣も分かっている。いつか向き合わなければならない、自分の犯した過去の罪と。

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