Dreamf-9 幻の皇(D)

       5




 実体ファントムヘッダーは円を迎撃しようとするも、銃弾に阻まれその体勢に入れない。

 円が実体ファントムヘッダーの間近に迫った頃に引き金から指を離して、チーム・エイトは各自散開し、

「ハアッ!!」

 円は全体重を乗せた掌底を実体ファントムヘッダーの深いところへと打ち込んだ。

 大きく突き飛ばされ、今までは取り込まれていた銀色の光が、今度は散った。

 円はさらに追撃する。

「ダアッ――!

 ゼェアッ!」

 右、左と連続で掌底を打ち込んでさらに突き飛ばす。

 銀色の光が散り、確実に実体ファントムヘッダーの体力は削られている。

 だが、体勢が崩せない。

 二撃目で大きく突き飛ばされた拍子に片手にエネルギーを溜め込む実体ファントムヘッダー。

「させると思うか!」

 だが、その瞬間周囲四方から弾丸の雨にその身が穿たれる。

 実体ファントムヘッダーは無防備となっている所に弾幕を受けたもので、またもや体勢を崩して、隙を作る。

「オリャアッ!!」

 チーム・エイトが生み出した隙を無駄にはしない。

 銀色の光を片足に纏わせ、上段蹴りで大きく実体ファントムヘッダーを大きく吹っ飛ばす。

 光が散り、ついに地に倒れ込む。

 そして――

「円、今だ!!」

 立ち上がれない。

 本木の言う通り大きな隙を生み出せた、今が好機。

「ハアアッ――

 セァアッ!!」

 いつもの一連の動きで右手を突き上げた。

「えッ……!?」

 その時に気づいた。

 触れたのは、コロナリングを模した赤い光ではないと――

 触れたのは、水面を模した青い光のリングに囲われ、その波紋であると。

「何故ッ――!?」

 戸惑っている隙、実体ファントムヘッダーは体勢を立て直してしまい、身が銃弾に穿たれる中、円の方に襲い来る。

「マドカ!」

 ケイスの自分の名前を叫ぶ声に戸惑っていた心が正常に戻る。

 「何故こうなったのか」ではなく、「とにかくやらなければならない」と、思考を切り替える。

 突き上げた右手を下ろし、そのまま青い光を身に纏う。

 その時にはすでに、実体ファントムヘッダーは目前に居た。

 かわし切れない。

 その腕を刀剣に変え、突き刺そうとしてきた。

 夢と同じ事が起きる。

 それだけは、あってはならない――と、

「――ッ!」

 円は実体ファントムヘッダーの脇の下へと転がりこんだ。

 ストレンジモードでも、ましてやテンダーモードでも間に合う事は無かった。

 だがこの新たな形態、それが可能となるようだ。

 完全に攻撃を回避しきる円。

 その自分の物とは思えない動きに一瞬戸惑う。

 だがその隙に実体ファントムヘッダーは振り向き追撃する、

「……ッ!?

 ――ッ」

 実体ファントムヘッダーの攻撃のモーションに入った頃に追撃に気付いた円。

 刃は既に目前の時に飛びのく。

 斬られる――その間際、

 実体ファントムヘッダーの斬撃の被弾よりも、

 一つテンポの遅れた円の回避のほうが速かった。

(今までよりも体が使いやすいぞッ)

 明らかに敏捷性が段違いに上がっている。

 この青い光を纏う形態の力だろうか。

 これほどまでに自分の思考に体がついてくるのならば、ギリギリまで敵の攻撃を引き寄せてのカウンター、そこからつなげての追撃が可能になるはずだ。

 円は構えを取り、青色になった両目の瞳を真っ直ぐに実体ファントムヘッダーに向け、次の攻撃に構える。

 チャンスであるとするのならば次の攻撃――種類は問わない。

 実体ファントムヘッダーは円へ一撃を加えるため、

 拳を突き出し、

「――ッ」

 その瞬間、円は駆ける。

「なっ――!?」

 その時なんと実体ファントムヘッダーの拳が飛び出してきたのだ。

 拳が飛び出してきたのもそうだが、形を変え鋭利な刀剣となったのに一瞬驚愕する円。

 だが、やる事は変わらない。

 自分の方に向かって飛んでくる刀剣を弾き飛ばし、

 そのまま無防備となった実体ファントムヘッダーの懐へと入り込む。

 それは瞬間よりも速い時間。

 実体ファントムヘッダーもこの円のカウンターには反応不可能であったようで、防御の体勢も取れない。

「ハアッ!」

 そして実体ファントムヘッダーの腹部へと正拳突きを打ち込んだ。

 だがそれだけでは大きなダメージとならなかったようで、

「ゼアッ――

 ハアッ!――」

 続けざまに連続突きを繰り出して追撃を加え、

「オリャッ! ――」

 突きの最後の攻撃に全体重を乗せた正拳突きを打ち込み、

「ハアッ!!」

 少し怯んだところに跳びあがりからのミドルキックを打ち込んだ。

 確かな一撃となった。

 だが、それはストレンジモードであったらの話だろう。

 あれだけの連続攻撃に、実体ファントムヘッダーは怯んで後ずさるだけであった。

 パワーが足りない。

 これでは何の反撃にもならない。

 スピードの代わりにパワーがテンダーモード以下となっている。

「速いだけか!」

 そんな隙を作っている間に、実体ファントムヘッダーは体勢を立て直し全身に力を込める。

 すると、全身から漏れ出していた光がさらに多くなりいつしか実体ファントムヘッダーと一体化――

 鎧となった。

 そして拳が無くなった片腕を差し出すと腕が新しく生え、さらにファントムヘッダーの光がその手に集まり両剣となった。

 その両剣を握り、構える実体ファントムヘッダー。

 見るからに頑丈そうな鎧。ただでさえ攻撃が通らない上、鎧まで纏われたのではおそらく円の攻撃もまともに通ることは無い。

 やはり、ストレンジモードに変身しなければならなかった。

 おそらくそれは本木らも分かってくれている事だろう。

 円は実体ファントムヘッダーと距離を離し、本木とアイコンタクトを取る。

 お互いがうなずいたことでその円らが策を講じている事が分かったのか、実体ファントムヘッダーはすかさず円の方に真っ直ぐと駆け寄ってきた。

「カバー!!」

 狙撃ポイントについているハークライ以外のチーム・エイトの三人が円と実体ファントムヘッダーの間に割って入ろうとする。

 その間――

 円はエネルギーを溜め込み、

 ハークライは遠距離から牽制射撃を行っていた。

 だが、通常のビーストならば一発で怯み、二、三発で完全に動きを止められるものが何発も打ち込んでも走行を止めない。

 尚、円の方へと駆ける。

「クソッ!」

「撃ち尽くせ!!」

 ケイスの叫びが響く。

 円と実体ファントムヘッダーの間には入れそうにないチーム・エイトの三人。

 走りながらでも少しでも足止めしようと銃口を向けてトリガーを引く。

 遠方からの連続狙撃に加えて三人の弾幕をその身に一身に受ける。

 ものの、その足を止めるに至らない。全くと言っていいほどに影響が無い。

 全ての弾丸が弾かれている。

 コロナを出現させた頃には実体ファントムヘッダーは目前。

 青い光の形態のようにかわすことは難しい。

「チッ」

 円はモードチェンジの動作を取りやめ―― 

 同時、実体ファントムヘッダーは攻撃の動作に入った。

「クッ――」

 両剣が振られる前に円は実体ファントムヘッダーの肩を掴み、飛び越えて背後を取る――が、

「ツァッ……!」

 実体ファントムヘッダーは背後を取った円をすぐさま両剣の後面にある刃で円を斬りつける。

 攻撃に反応は出来た。

 だが、着地前である事もあって完全に防御することも回避できない。

 身を反らせて致命傷だけでも受けないようにすることが精いっぱいであった。

 脇腹を切られ、着地時に被弾部を抑える。

 パワーが落ちているだけでなく、防御力も若干落ちているようで、被弾した際のダメージや痛みもしっかりと抑えきれていない。

「クソ……」

 実体ファントムヘッダーの追撃は尚続く。

 実体ファントムヘッダーは円の方に振り向きざまに斬りつけてきた。

「――ッ」

 その斬撃を受け流し――

 来るもう一撃の前に一歩踏み込み、両剣を持つ手を掴んで動きを抑える。

「ツ、クッ……!」

 だが、片手では実体ファントムヘッダーの動きを抑えられない。

 どうしてももう両手で両剣を持つ手を抑えてしまう。

 そして片方が無防備となる。

「グアッ!

 ガハッ! ――」

 分かっていても防御出来ない。

 防御している方とは逆の腕で円の脇腹や肩、頭を続けざまに殴りつけてくる。

 遂には円の首を掴み――

「グッ、アッ――!」

 円もついに両剣を持つ実体ファントムヘッダーの片手の抑えを解いてしまった。

 その時再び、円の体にエネルギー限界を示す光の波紋が走る。

「ガッ――、はッッ」

 意識が落ちる。

 ギリギリと首を絞めつけられ抵抗する力も奪われていく。

 これでまた先ほどみたいに口を開いてエネルギーを吸い込むつもりなのか。

 ――否、

 もはやそんな遠回しな手を使う事もない。

 実体ファントムヘッダーは両剣の切っ先を円の胸元に向け、

 それを突き刺した――ッ

「ハアアアアアアッ!!!」「ゼァァアアアッ!!」

 実体ファントムヘッダーの両脇をブレードユニットで突き刺す、ケイスと雲川。

 突然の不意打ちに実体ファントムヘッダーは円の拘束を解き、後ずさる

「デァアアアッ!!」

 円と実体ファントムヘッダーの間に跳び込み、ライフルの銃口からレーザーナイフを出現させ、実体ファントムヘッダー突き刺しトリガーを引く本木。

 実体ファントムヘッダーの体の内部から爆発音が続けて響く。

 が、怯む様子はおろかそれをダメージとも思っていないようである。

 つまり、体の深いところまではダメージが入り込んではいない。

 結果、目前に居る本木がその刃を受ける――

「グッがっ、アアアアッ!!」

「――ッ! キャプテン!」

 サクリッと言う皮膚をいともたやすく裂く、軽い音。

 腹部に突き刺さった両剣の片刃は、本木の大きなガタイを貫き、背中から尖端が出て来た。

「キャップ!!」

 ケイスも雲川も、ハークライも、本木の名を叫ぶ。

 下がればその刃を抜ける

 だが――本木は踏み出し、実体ファントムヘッダーの両剣を持つ腕の肘を掴み――

「|円ァァァアアアアアアアッ!!!!」

 その名を叫ぶ。

 意味など、考えなくても分かる。

「ウォオオッ――

 ゼァアッ!!」

 力を溜め込み、

 一連の動作から赤いコロナリングを出現させ、

 片手を突き上げ、光に触れた。

 円の手に触れられたコロナリングは爆発し、赤い光が円の体を縁取るように纏われる。

 突き上げた手を下ろし、光を自分の体に取り込む。

 強き赤い光の形態ストレンジモードとなった円はストレンジブラストの体勢を取る。

「ぐッ……」

 自分の背後で円が何を行っているのかと首をゆっくりと後ろに向ける本木。

 地に広がった赤い光が円の片足に収束し、

「――ッ」

 駆ける――

 同時に、本木は実体ファントムヘッダーを掴む手を緩めた。

 実体ファントムヘッダーの引っこ抜こうとする力が余計に働き、

「グアッ……」

 両剣は引き抜かれ、本木から離れる――。

 微妙な体勢の崩れ。

「ハァアッ!」

 跪く本木の頭上を飛び越え、実体ファントムヘッダーにストレンジブラストを撃ち込んだ。――同時に、左右の両脇から実体ファントムヘッダーを突き出した

 目いっぱいのエネルギーを溜め込み撃ち込んだストレンジブラストは実体ファントムヘッダーの胸部に直撃し大きく吹っ飛ばす。

 そして金属の鎧の一部分の中に赤い光がとどまり、

 その部位を爆散させた。

 突然自分の体の内部が爆発したのだ。

 不意打ちにも近いその攻撃に防御する手立てはない。

「まど……か……ッ」

 切り裂かれた腹部から血が溢れ出ながら円の名を呼ぶ本木。

 こうしたのは、力を制御することが出来ずに青い光の形態になった事から始まるのだ。きっかけは、自分自身にある。

 振り向いて頷く事も出来なかった。

「キャップ!」

 ケイスと雲川は跪く本木に駆け寄り、介抱する。

「すぐに手当てしないと!」

「いやいい、自分でする……ッ。ケイス、雲川、ファン……円を援護しろ」

「しかし――ッ!」

「援護だッ!!」

「……ッ、了解ッ」

 ケイスと雲川はお互い目を合わせ本木を血に倒れ込ませ円の横に並び立つ。

「よくも俺たちのキャップを!!」

『こいつだけは許さねえッ!』

「マドカ! こいつだけはブッ倒すぞ!」

 ケイスのその心に喝を入れ込むその言葉。

 自責している場合ではない。

「了解!」

 円、ケイス、雲川は構え――

 実体ファントムヘッダーは体勢を立て直し、

『「「「行くぞッ!」」』

 両陣間見え、駆け寄る。

 ハークライによる遠距離からの狙撃は、ストレンジブラスによって生まれた鎧のヒビが入る部分を正確に穿つ。

 先ほどまで弾かれていた弾丸が、今度はバキッバキッと音を立てさせて鎧のヒビを広げていた。

「――ッ!」

 そのヒビの入り柔くなった部分に向け、雲川がさらに追撃を加える形で連射を撃つ。

 トリガーを引くと同時に撃ち出される弾丸は、

 鎧をついに砕くに至る。

 鎧を砕かれた挙句、数十発もの弾丸に身を穿たれ、実体ファントムヘッダーは悲鳴を上げその場で暴れる。

「オラアッ!」

 ライフルユニットの銃口を実体ファントムヘッダーの露わになった生身にぶつけトリガーを引く。

 一秒で十数発も撃ち出される弾丸にゼロ距離で穿たれ、且つ炸裂され。その身に大きな傷を負う――。

「ゼアアッ!」

 その大きな傷を負った所をさらに円の赤い光を纏わせた渾身の拳撃を撃ち込まれ、

 滞留する赤い光の力によって爆裂し、身が抉られる。

 その痛みのあまりに暴れまわり、両剣を振り回す実体ファントムヘッダー。

 大きく広げられる形となった両剣を持つ方の腕の脇下を通り抜けるようにその攻撃をかわす円。

 さらに、暴れまわる実体ファントムヘッダーの動きを封じる、ハークライの狙撃。

 動きを封じられた挙句、実体ファントムヘッダーは雲川とケイス両者のブレードユニットによって突きされた。

 ジジジジッと実体ファントムヘッダーの身を焼き尽くす音が聞こえる。

 実体ファントムヘッダーがあげる悲鳴。

 その悲鳴の何億倍もの悲鳴を、起こすのか。

 倒さなければならない。

 自らの強さを確かなものとするために。

 この手から何も取りこぼさないためにも。

「マドカ! 止め刺せ!!」

「早く!」

 ケイスと雲川は実体ファントムヘッダーから離れる。

 確かにその止めを刺すことが出来るならば、今だ。

「ハァアアッ――!」

 両手を大きく広げ、ストレンジブレイズウェーブの体勢と動作を取り始める円。

 小さな太陽の出現、

 プロミネンスの集約、

 形成の確立――そして、

 ストレンジブレイズウェーブの体勢と動作の間に振り向く実体ファントムヘッダー。

「ゼァアアアッ!!」

 その瞬間、円は両手を突き出し、

 大きく足を踏み出し、

 出現させた太陽からプロミネンス状となった光線を撃ち出した。

 防御する暇もない。

 光線は、露わになり抉られて大きな穴になりつつあった実体ファントムヘッダーの身を穿ち、焼き、破壊する。

 空間すらも衝撃で歪ませる程の光線に手に持っていた両剣すらも手放しその場で悲鳴を上げながら両手両足を広げた実体ファントムヘッダー。

 しばらくの間の後、

 ビーストのように何度も起きる爆音、

 何度も爆発を繰り返しながらその身を粉々に四散させた。

「キャプテン……」

 すぐさま円は本木の方に駆け寄り始める。

『「「キャップ!」」』

 チーム・エイトのメンバーも同様、本木に駆け寄っていった。遠くからフライングユニットを使い、狙撃ポイントから本木の元へと飛んできたハークライ。

「キャプテン!」

「くっ、はあ……ッ」

 意識は朦朧としているだろうが、死んではいない。

『応急手当は本木が自分でしていた。すぐにEXキャリーを下ろす。急いで乗り込め』

 耳につけているインカムからEXキャリーに搭乗して待機している響の声が聞こえ、「了解」とチーム・エイトのメンバーも含め円は答えた。

 これで終わりなのか、

 否――

『円!!』

 突然インカムからスカイベースのブリッジにいる綾子の声が響く。むろん、チーム・エイトの無線からも聞こえた。

『まだよ! まだ消えてない!!』

「なに!?」

 まだ消えていない。即ち、まだ終わってない。

 円は実体ファントムヘッダーの体の破片が飛び散る場所を見る。

 すると、ぐしゅりっと金属は流体金属になり一点に集まって人型を為し、

「そんな、バカな……ッ!」

 実体ファントムヘッダーはギリリッと鳴き声を上げて力を溜め込む動作みせた。

「クソッ、EXキャリー! 早くキャップたちを回収しろ!!」

『なッ――!』

「早く!!!」

 円はすぐさま立ち上がり構える。

 だが、エネルギー限界の中でのモードチェンジとストレンジブラスト、最後にはストレンジブレイズウェーブの使用。

 エネルギー限界なんてもののレベルではない。ストレンジブラストを全力で撃てばそれでエネルギー切れ、円は消失する。

 だが、何もしなければ本木の命が危ない。

 身を挺してでも、実体ファントムヘッダーを止めなければならないのだ。

(これが、本当の最後か……)

 ゆっくりと構え、円は実体ファントムヘッダーのみを見詰める。

 残り少ないエネルギーでどこまで戦えるかと、考える―― 

 刹那、

「――ッ!?」

 流れを感じた。

 エネルギーの流れだ。強大な――それこそ、円たちスピリットのような――――

 その時空気を焼き、雨粒を消し、

 円ら背後から金色の光線一閃が通り抜け、実体ファントムヘッダーを穿った。

 その威力たるや、見た目からは想像できない。ストレンジブレイズウェーブ以上なのは間違いなかった。

 金色の光線に焼かれ、実体ファントムヘッダーはその全身を砂鉄のような粒子に変え、地に落ちた。

 今度こそ、倒された。

「今のは……まさかッ」

 ケイスがそんな事を呟く物なので円はその光線が撃ち放たれたであろう方を向く、と――

「――ッ!」

 目を見開いてその姿をしかと捉えた。

 そこには円よりも少し年上程の青年が、片腕を立てて前に掲げていた。

 茶色のセミロングの髪の毛に前髪辺りに金色のメッシュが入った髪色。円よりも少し黒い肌色に端正な日系人の顔立ち。ロング丈の黒色のスプリングコートの下に黒いシャツ、灰色のクロップドパンツを着こんでいる。

 おととい、見たころと同じ姿をしていた。

「櫻満……カイト……」

 今度こそ、間違いなく映った筈だ。

 EXキャリーにも、スカイベースにも。

 確かにいたのだ、あの場に。

「カイザー……ッ」

 その姿をしかと見たとき、突如として境域内の雲が一点に集まった影響で発生した豪雨のせいで視界が悪くなり、一気に見えづらくなる。


「――――……」


「なっ……!?」

 その時向こうにいる櫻満カイトが口を開き、どうやらその言葉は円にしか届いてい無いようだった。

 その発した言葉の意味。そして理由。それを問いただしたい。

 だが、カイトは背を向け歩き去る。

「待って!」

 と、カイトの方へと駆け寄ろうとする円だが、刹那、世界が反転した。

「ウグッ!」

 境域が解けたのだ。

 世界が反転し、ほんの一瞬、円はカイトから視線をそらしてしまう。そのほんの一瞬で、カイトの姿は消えていた。

 カイトが円に向けて発した言葉。

 一体何の理由と意味があったのか――

 だが今この場で分かる者は一人もいなかった。

to be continued...

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