Dreamf-8 失った者達(D)

       10




 マグリドラはそんな円の様子を見、足止めしようと翼を羽ばたかせ――

「行かせるかよ!」

 鷹居の放った銃弾にマグリドラの体を穿たれ、マグリドラは大きく怯んだ。

「吉野は後方支援を! 北原、河田、俺に続け!」

「了解!」

「ラジャー!」

 鷹居のその指示に、

 通信技術担当の北原五木きたはらいつき

 副隊長の河田紳助かわたしんすけは、

 鷹居に続いてマグリドラへと駆け、詰め寄る。

 マグリドラが態勢を整え、向かってくる鷹居達三人を迎え撃とうとすると後方からのケインによる射撃でまたも体勢が崩された。

 そのまま体勢を崩させるため、

 迫る三人の持つライフルから対ビーストの特殊弾が撃たれ続け、

「ハッ!」

「オラッ!」

 接近しきったところで、

 北原と河田が鷹居よりも前に出てライフルの銃口から出力されたレーザーナイフでマグリドラを左右から突き刺す。

 マグリドラは甲高い悲鳴と共に暴れ出そうとする――

「セアッ!!」

 所を、鷹居が真正面から同じくレーザーナイフで突き刺し、トリガーを引く。

 レーザーナイフで突き刺され、弾丸が外れることは無い。

 銃口が火を噴き、

 銃声が無数に響く。

 ゼロ距離から何発もの銃弾に身を穿たれ、マグリドラはその衝撃で三本の光刃から身を引き、翼をまた羽ばたかせ今度は空に飛ぶ。

「フン……、俺たちに空中戦とは、良い度胸だ!」

 チーム・イーグル四人は再びフライングユニットを起動する。

 背中につけられているバックパックがスラスター状に展開され、スピリットが空を飛ぶときと同じ原理で浮力が発生――

 マグリドラに追いつくまでそう長くは無かった。

 そしてそのマグリドラ自身、たかが人間が自分と同じように空を飛んでくるとは思わず戸惑うような震える鳴き声を上げて呆気に取られ――

「――ッ」

 迫る三人の銃弾に見舞われる。

 悲鳴を上げ、空でのたうち回るマグリドル。

 やたら滅多に翼が羽ばたき、その羽ばたき一回で周囲の空気を乱し、

 衝撃波が発生する。

「チッ――!」

 マグリドルに牽制弾を撃ちながらその衝撃波をかわすチーム・イーグル。

 その中で、鷹居は舌打ちを打つ。

 このままでは迂闊に近づくことも出来なさそうだ。

 その時、耳につけているインカムに通信が入った。

『鷹居、周辺住民の避難が今ようやく完了した。現時点では負傷者はいるが死者行方不明者は0だ』

「了解」

 あれだけの襲撃、戦闘の中、死者行方不明者がともに0で収まったのは奇跡である。

 通信を入れてきたのはこの付近の上空でEXキャリーを操縦し、待機させている響チーフであった。

「全員、一気にこのビーストを掃討するぞ!」

「「「了解!」」」

 鷹居の指示からの三人の返事と共に――

 マグリドラの反撃をかわしながらチームは散開するフォーメーションを組む

 吉野による遠距離からの狙撃、

 河田による中距離からの弾幕。

 それらによってマグリドラはその二方向からの攻撃を捌くことで手一杯になる――

 足止めされる。

 そのマグリドラの背後に回り込み、スラスターの出力を全開にする――

 ライフルからレーザーナイフを出力し――

 同時、河田と吉野の射撃も止まる。

 スラスターの音に反応し、マグリドルの振り向きざま、

「ハアアッ!!」

「セアアッ!」

 ×字にマグリドラの腹部に斬撃を加える。

 マグリドラは悲鳴を上げ、完全に体勢を崩す。

「――ッ、ラアッ!」

 鷹居はさらに一撃を加えようとレーザーナイフを出力するライフルを振り上げ、

 下ろす。

 マグリドラは体勢を崩されながらも鷹居の攻撃を風切り羽でレーザーナイフを止めた。

 熱く、

 火花が散り、

 ジジジッと金属を焼き切る音が響く――




「ゼアッ!!」

 円、マグリドラが足止めされている間にグランゼルへと跳び膝蹴りを喰らわせる。

 突然力を取り戻し、動きのキレや敏捷を取り戻した円の攻撃を、鈍重なグランゼルが捌けるはずも無かった。

 円の飛び膝蹴りはグランゼルの顔面を穿つ。

 赤い光が入り込み、鋼鉄の装甲がギギッと音を立て、

 グランゼルは大きく仰け反って後ずさり、うめき声を上げる。

「ハッ!

 ゼアッ!」

 仰け反ったところを続けざまに正拳突きを二つ穿ち、

「オリャアッ!!」

 両手で正拳突きを撃ち放って大きく後退させる。

「ダッ!!」

 そこをさらに回し蹴りでグランゼルの顎下を打つ。

 そのたび、赤い光が装甲に溶け込み、同様にギギギッと軋む様な音を立てる。

 ダメージが入っているのは間違いない。

 だが――

(やっぱり通りが悪い)

 鋼鉄部ではダメージの通りが低いようだ。

 グランゼルに効果的にダメージを与えるならば……。

 ヒビの入った装甲の部分。

 そのヒビの入った装甲部を砕けば勝機が生まれる。

 意を決する。反撃を受けるかもしれないと。そうなれば、取り戻したエネルギーも無駄になる。

「――ッ」

 足にエネルギーを溜め込む。

 装甲にヒビを与えた時の一撃よりもさらに多く、密度を高く。

「ハッ――!」

 そしてグランゼルへと駆ける。

 円が目前にまで迫った頃――

 グランゼルは体勢を整えすぐ目前で構える獲物を引き裂こうと爪を振り下ろす。

 円はその攻撃を潜り抜け、

「セェアッ!!」

 拳にエネルギーを溜め、

 まだ攻撃を加えていない装甲の土塊部にその拳を穿つ。

 グランゼルがその攻撃で怯んで後ずさりしたところを――

「ハアアッ!!」

 今度はヒビの入った部分に跳びあがってからのミドルキックのストレンジブラストを叩き込んだ。

 その時始めて致命的なダメージを受け、響く悲鳴。

 装甲に赤い光が染み込み爆散する。

 ヒビの入った装甲は砕け散り中の灰色が掛かった皮膚が露出する。

 グランゼルは爆発の衝撃を受けさらに大きく後ずさる。

 そこならば円の攻撃がそのまま通る。

 その一点に、最強の一撃を加える。それで、終わる。




 マグリドラが吐き出す熱線。

 当たれば例え防護フィールドを張っていても一撃必殺だが、当たらないので問題は無い。

 その熱線は直撃はしなくとも陣形は確実に崩される。

 だがその崩された陣形を立て直すためのフォーメーション。

 チーム・イーグルは離散するもまたすぐに立て直し、

「――ッ!」

 反撃の糸口を作る。

 攻撃の体勢に入れる鷹居と吉野の中距離からの弾幕、長距離からの狙撃に晒されマグリドラはのたうち回り、またしても翼をやたら滅多に羽ばたかせる。

「クッ――!」

「――ッ!?」

 射撃手両者はマグリドラが発生させた衝撃波をかわす―― 

「喰らえッ!」

 その隙にマグリドラの背後を取った河田がグレネードを取り出しピンを抜き、投げつける。

 何かが背後から飛んでくると思ったのだろうか、

 マグリドラは振り向こうとする。

 その時に翼に河田が投げつけたグレネードが当たり、その衝撃で爆発した。

 大きな爆発音と共にマグリドラの悲鳴が響き渡る。

 硝煙の中から姿を現したマグリドラの体中には切り裂かれたような傷痕がある。

 その時にマグリドラの背後から前に回り込んだ北原はレーザーナイフを出力させ、

「――ッ!!」

 マグリドラの方へとツッコんでいく。

 当然迎撃しようとするマグリドラ。

 口に熱線を吐き出すエネルギーを溜め込み始める。

 動きが止まるその隙、

 吉野がのがす訳も無く、開けられたマグリドラの口内に照準を向け、トリガーを引く。

 熱線が撃たれるのが速いか、弾丸が貫く方が速いか。

 しかしそのどちらでもない。

 同時だった。

 マグリドラが熱戦を放った瞬間、吉野が撃った弾丸がマグリドラの口内を穿つ。

 熱線はマグリドラの眼前で爆裂し、

 爆炎に呑まれ、その煙の中から出て来たマグリドラの顔面は片目がつぶれ、嘴は砕けて残った部分もひび割れていた。

「ハアアッ!!」

 大きな隙をさらしたマグリドラの腹部に、北原はレーザーナイフを突き刺し、

 さらにトリガーを引く。

「ハアアアッ―――!」

 今度は弾丸は出ない。

 だが、突き刺したマグリドラの体内でレーザーナイフは爆発し続けながらエネルギーをチャージしているのだ。

 籠もるような爆発音と、手に伝わる衝撃。

 マグリドラは体内を破壊され悲鳴を上げる。

 そして、溜め込んでいたエネルギーが開放される。

「ラアアッ!!」

 破壊し尽くされた体内にさらに大きな一撃。

 爆発はマグリドラの皮膚、甲殻すらも砕き、大穴を開けた。

 そのあまりにも大きすぎる衝撃は北原を後ろに吹っ飛ばすのには十分な威力であった。

 それほどの攻撃を受けて尚、マグリドラは絶えない。

 もう一撃が必要だった。

「――ッ!」

 後方に吹っ飛ばされる形となった北原の横を、鷹居が空を駆ける。

 レーザーナイフでは止めを刺すに足りえない。

 空を駆ける中、ライフルユニットに差し込まれているツールを引き抜き、

 バッグパックから差し込まれているブレードユニットを引き抜きながら、

 ブレードユニットへとツールを挿入する。

 激しい噴出音を出し、

 ブレードの形を成す光がユニットから噴出してきた。

 マグリドラに体勢を整える暇も与えない。

「ハアッ――!!」

 一気に間合いに詰め寄り、すれ違いざまに一刀両断する。

 斬撃を遮るものは無い。

 焼き、切断する音。

 ――刹那、

「ゼアッ!!」

 思いっきりブレードが振り切られる。

 マグリドラは悲鳴を上げることなく身を二つに割られ、

 爆散する。

 爆音を立て、

 上空で二つの爆炎が巻き上がり、粉々となった身が地に落ちる。

「状況終了」

 鷹居の終戦宣言。

 後は、円が相手にしているグランゼルだけだ。




 

 グランゼルに赤い光がため込まれ、目前に巨大な赤い球体を出現させている。

 おそらく、今まで撃ち放ってきた攻撃の中で一番強い攻撃を撃ち放つきだ。

 だが、完全に無防備になるとすれば攻撃の瞬間。

 撃ち放たれる攻撃を押し返すほどの威力のある攻撃を放つだけだ。

 ストレンジブレイズウェーブよりも強力な一撃を。

 あるとすれば一つ。

 今日初めて使った技ならば――

 円は両手の拳を握り、エネルギーを体全体にため込みながら大きく広げ、広げた両腕を前に縦に突き出すと、両拳に太陽にも似た光が宿る。

 その二つの拳の位置を楕円を描くように移動させて位置を逆にする。

「ハアアァッ……!」

 右手の拳を目一杯に引き込んで力を溜め込み――

 そして左手にあった光も右手に集められ――

 その時引き込んだ拳を中心に大きなコロナリングが現れる。

 コロナリングの中には左手に集められていた光が漂う。

 そしてリングが縮み、光も円の右手に集まっていく。

 グランゼルの溜め込むエネルギーも最大に達し――

 咆哮と共にグランゼルは溜め込んだエネルギーを光線として放つ。

 空気を焼き、周囲を赤く染める。

 撃ち出すのは、グランゼルのほうが速かった。

 光線が撃ち出された瞬間にエネルギーが溜め込まれた円は――

「ゼァァアアッ!!」

 その拳を真っ直ぐと、力強くグランゼルの放つ光線に向けて突き出す。

 突き出した拳がほんの数ミリほどで光線に触れようとしている所で、円の光線が撃ち出され、競り合いに――

「ハアッ!!」

 なる事すらなかった。

 撃ち放った光線にさらに力を加える。

 たったそれだけで、円の撃ち放った光線はグランゼルの光線を喰らいつくし、

 グランゼルを穿つ。

 まだ余っていたグランゼルのエネルギーすらも喰らいつくし、焼き尽くし、

 露わになった生身に直撃する。

 グランゼルは吠えてその場でのたうち、地団太を踏み、跳びあがって暴れる。

 しばらく爆音と熱と赤い光が周囲に満たされ、

 拳に集められたエネルギーを全て撃ち尽くした円は小さく息を吐き、真っ直ぐとグランゼルを見据える。

 あれほどの光線を受けてなお倒れない。

 グランゼルは円の方へと一歩、また一歩と歩み寄ってくる。

 が、円には分かる。もう終わりだと。

 そして最後の一歩を踏み出した瞬間、グランゼルは唸り声をあげて立ち止まる。

 瞬間、鋼鉄の金属の装甲がグシャリと音を立てて膨張し、

 バキバキッと土塊の装甲が砕け散る。

 グランゼルの原型はもはやなくなった――

 瞬間、全身から赤い光を散らし、

 爆散した。

「――ッ、はぁ……はぁ……」

 やっと終わった。

 もう一体のビーストも、上空での爆発から考えて倒せたはずだ。

 エネルギーも余裕をもって残っているが、長い極限状態から解かれ、円はようやく自分の意志で地に膝を着けることが出来た。

「天ヶ瀬!」

 空からチーム・イーグルの四人が下り立つ。

「無事か?」

「ええ……。あの、皆は……?」

「誰も居なくなっていない」

「……ッ」

「全員無事だ。このラッキーガイめ」

「そうですか……」

 鷹居の言葉でようやく全ての荷が落ちた円は安堵の溜め息を吐き、膝に続いて手も地面に着く円。どうにも自分の力では立てそうにもない。

 そんな円に手を差し伸べる鷹居。

「立てるだろ?」

 立てるかと聞かない辺りが鷹居らしいところだった。

 差し伸べられた鷹居の手を掴んだ円はそのまま引き上げられ、立ち上がる。

 ガクリッと膝が崩れるもすぐさま鷹居が支えてくれたおかげでまた崩れることは無かった。

 支えられながらも辺り一面を見渡す。

 酷いものだった。道路もビルも車も何もかもが破壊されている。

 完全に世紀末の世界だった。

「もっと早く来てれば……」

「心配するな。境域はまだ解けてない。解けたら、全部元通りになる」

「…………」

 だからといって今まで作り上げてきた、手に入れてきたものがこうも簡単に壊されるのは誰しもいい気持はしないはずだ。

 元通りになる。そう思っていなければやっていられないのだろう。

「っし、あと五秒かな」

「ん?」

 鷹居が腕時計を見るようなそぶりを見せる。

「5

 4

 3

 2

 1

 ――」

「――ッ!」

 五秒のカウントの瞬間、世界が反転する。

「うぐっ……!」

 その世界の反転した時に覚える感覚で一瞬よろめく。

 そうしてまた辺りを見回すと、世紀末的な風景は無くなり、またいつもの仁舞中央通りがそこにあった。

 周辺道路が封鎖されていたためか、車通りは一切無い。

 避難していた周辺住民もようやく解放された為か人だかりもちらほらと見え始める。

「これで完全に世間に晒されるな」

「そういうな。いつかはこうなってたんだ」

 吉野の言葉に対する鷹居の答えの通り。

 住民たちが現れる中、チーム・イーグルの四人と円ら五人だけが明らかにその中で浮いていた。

「友里……」

 現れだした住民の中に友里の姿を見つけた。

 友里も、円を真っ直ぐと見つめてくる。

 今にも友里の方に駆け寄ってしまいたい。無事でよかったと、言葉をかけてやりたかった。が、今すべきではない。友里も同様のためか、ほんの少し円の方に手を差し伸べ、口元の動きで自分の名前を呼んでいる事が分かった。円と同様、駆け寄りたい衝動を抑え差し伸べた手をゆっくりと下ろす。

『チーム・イーグル、EXキャリーでスカイベースに搬送するぞ』

「了解」

 円の耳に宛てられているインカムにEXキャリーに搭乗している響からの通信音声が入る。その通信の相手は間違いなくチーム・イーグルのみに向けられている事が分かる。

 鷹居は当然、応答する。

『天ヶ瀬』

「はい」

『別に、行ってもいいんだぞ』

 響のその言葉の意味。

 円が友里に寄り添いたいと思っている事はお見通しらしい。今その場にいる一番大切な人の傍に居たいと思っているのは間違いない。自分の気持ちに素直になるべきか――

「いや……」

 それを否定した。

「イーグルと一緒に上げてください」

『……うん、分かった。そこに下降させる。一緒に乗ってくれ』

「了解」

 そうして、響との通信が切られしばらくしてから上空からEXキャリーのエンジン音が聞こえて来た。

 その後しばらくしてから青を基調とした機体であるEXキャリーが地上にその姿を現す。

 完全に着陸することは無い。

 低空で滞空飛行を行い、縄梯子が数本ほど下ろされる。

 その縄梯子で引き上げてもらい、EXキャリーへと搭乗することになる。

 チーム・イーグルの面々と同様に、円も縄梯子を掴む。

 もうすぐ地から離れる。その瞬間まで、円と友里はお互いの目線を外すことは無かった。今じゃなくてもいい。どうせ、明後日会うのだから。

 足が地面を離れた時、円はようやく友里から目線をそらし引き上げてくれているEXキャリーを見上げた。

 引き上げている最中、EXキャリーは上昇を始めており全員が搭乗したころには雲の近くにまでの高度を飛行していた。

「ふぅ……」

 チーム・イーグルの面々は背負っていたバッグパックを下ろし、武器をEXキャリーにつけられているフックにひっかけ、座席に深く腰掛けて息を抜く。

 円は、そもそも武器等持たないので座席に座り、窓から外を見渡す。

「チーム・イーグル及び、天ヶ瀬円の回収完了、スカイベースへ帰還する」

『了解』

 無線での響と綾子のやり取りの後、EXキャリーはスカイベースに向かって飛び始めた。

 EXキャリーの操縦桿を握る響は少し後ろを見やったあと、片方の手でサムズアップして見せ、円達に向けて笑顔を見せた。

 親指を上に立てて称賛を表すハンドサイン。

 円も手元でその手を作る。

 これは、円の父親の癖であった。そのサムズアップと共に向けてくれる笑顔がかっこよくて、いつの間にか幼いころの円の癖にもなっていたのだった。

 一度目の全てを失った日までは。

(いつか、向き合うんだな……)

 自分の過去と。

 ならばその手始めにと、

 円は響に返すようにサムズアップを向け、笑顔を向けた。




       11




「祐太!」

「――ッ! ママ!」

 ビーストの蹴撃からずっと一緒に居た少年と共に両親を探していた友里。

 その時、人混みの中から今一緒にいる少年の名前を呼ぶ女性の声が聞こえ、こちらを見つけたその女性がこちらへと駆け寄ってきた。

 友里の手を離れ、祐太は駆け寄ってくる女性の方に向かって、駆け寄っていった。

「祐太! ――ッ、祐太……」

「ママ……」

 お互い嗚咽を漏らしながらもひしと抱き合い、しばらく離すことは無かった。それから、母親が今までどこに行っていたのかと聞いたらしく、祐太が友里を指さしてきた。

 母親と祐太二人とも、友里の方に振り向き、母親は大きく頭を何度も下げる。祐太は友里に向かって手を振ってきたので、友里もまた振り返す。

 そして祐太は母親と共に救助隊の誘導に連れられその場から立ち去って行った。

 二人が背を向け立ち去っていくまで手を振り、ほんのしばらくしてからその手を下ろす。

 あの時円が来なかったらこの結末にはならなかった。本当にカッコよかった。絶望を一気に覆す存在。

 運が良かったのか、それともそうでないのか。そうでないとするなら何がこうさせたのか。しかし今は、どちらでも良かった。

 空を見上げる。

 日は落ちきり、夜闇で暗くなった空を仰いだ後胸に手を当てて祈るように、

(ありがとう……円)

 心中でつぶやいた後、もう一度空を見上げ柔らかく微笑みを浮かべた。

                          to be continued...

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