Dreamf-4 SSCの戦士(B)

     4




 助けてと言われても、スカイベースにかくまってついでに天ヶ瀬円が戦ったビーストがいる境域を維持させることぐらいしか出来なかった。

 もちろん、それらの手を打った。境域の維持など、やらなかったときは最悪の状況になるのが目に見えてしまう。

 やって当然のことなのだ。


――――また、円を殺す!!


 この、恵里衣の言葉だけが吉宗のあたまにこびりついて離れない。

「おもしろそうな縁がありそうやな、あの二人」

「コマンダー」

「んん?」


 横から吉宗に声をかけてきたのは、SSCの隊員服を来ている大柄な男である、響光(ひびきみつ)孝(たか)チーフだった。


「どないした」

「ブリッジは変わりますので、コマンダーは昼食を」

「んん、俺はまだ腹へってへんねんやけどなぁ。ま、食うときに食うか。じゃ、ちょい頼んだで」


 吉宗はすれ違い際に響きの肩をポンとたたき、ブリッジの出入り口にまで足を踏みだし、その瞬間、


「コマンダー!」

 オペレーターが声を荒げたとほぼ同時に、ブリッジにけたたましいアラームが鳴り響いた。


「どないした!」

「エリア7・1・4に、マイナス霊周波を感知! 一分後、現界します!」

「よし、直ちにチーム・エイトをスタンバイ!エリア一帯の避難勧告!一人たりとも境域に残すなや!」

「了解!」

 オペレーターはモニターに向き合い、各チームとの連携の要となる。


「コマンダー」

「ん」

「私はEXキャリーで出ます」

「ん、しっかり頼んだで。帰ってくるまで、昼飯我慢したるさかい」


 信頼していると、響の肩をトンッとたたき柔らかい笑みを浮かべる。

 響も頷き笑みを浮かべ「了解」と発して敬礼し、ブリッジから出ていく。




    5




「――ッ!」

「――ッ!」


 ビーストが現れる。

 そう、円と恵里衣が感知したその瞬間だろう。艦内中のアラートがなりだし、スカイベース内が騒がしい雰囲気を帯び始めた。


「ビースト――うあっ!」

 ビーストが出現したのならば、ここでぼうとしているわけにはいかない。と、円がベッドから足を下ろし、二足で立とうとするが膝に力が入りきらず、その場で崩れた。


「円!」

 床に伏す円に肩を貸した恵里衣は円を立ち上がらせた後、ベッドに座らせた。


「クソッ、僕はこんな時にッ」

「分かった。私が行ってくる。お願いだから、円はここでじっとしてて。体治しなさい」

「恵里衣ちゃん」

「私、アンタよりもビーストと戦ってるのよ?経験豊富なんだから心配しなくていいわよ」

「頼もしいよ。ホントに」

「じっとしてること。命令だから」

 円の肩にふれた後、恵里衣はそのまま身を翻して走り去っていった。




     6




 その空間、町中に人は一人もいない。しかしそこは確かに殺意が満たされていた。

 轟く異形者の咆哮。


 街路時の中を、その異形者は徘徊している。

 全身の鱗の色は黒に限りなく近い紺色で、ただ腹部だけは茶褐色。頭には長い一本の角を生やし、大きな耳が顔の横を垂れている。


 一番目立つのは尾だ。異形者の図体は二メートル後半ほどある巨体だが、それすらも遙かに越える長さをしており、先端には大きなとげが幾つも生えており、地面に当たるごとに抉っている。


 金属を引き裂くようなうめき声を上げ、その異形者はさまよう。まるで、自らの敵を探しているかのように、見つからずイライラしているかのように。

 その異形者の上空を飛ぶ一機の護送戦闘機。

 その中で、


「ビースト出現ポイントに到着」

「おし」

 機内で待機しているのは四人編成の小隊。SSC所属ビースト殲滅部隊αチーム、「チーム・エイト」。


「ケイス、今回のビーストの情報を」

「OK、リーダー」

 チーム・エイトのリーダー、本木大吾もときだいごの指示に従いケイス・レイリーがビーストのデータが入力されているライトで地面を照らす。

 光に照らされた地面には、ビーストの映像と情報が書き出されている。


 ビーストネーム、アンソーギラス。

 以前、チーム・エイトはこのアンソーギラスの別個体と戦ったことがある。


 おそらく強さで言うと上の下ほどだろう。ただ、接近戦では鋭い爪と強靱な手足での打撃攻撃、中距離では尻尾による攻撃、遠距離では高周波を操ってピンポイント攻撃を仕掛けて来るもので、あまり相手にしたいものではない。


 また、別の部隊のチームからの報告だが高周波を使って人間が唯一ビーストに対抗しうる手段であるヴァルティカムユニットのシステムをダウンさせて、そのチームを全滅させたという報告さえある。注意しなければならない。

 それらの情報を一通りケイスが述べた後、ライトの光を落とした。


「よし、今回の戦闘のフォーメーションはいつも通りだ。だが、ビーストが高周波をだしてシステムダウンを狙ってきたときはすぐに退避だ。システムダウンを狙う攻撃も、高周波攻撃と同様ピンポイント攻撃と聞いている。反応があればすぐにその場から離れるんだ」

「Roger」

 チームの返事にうなずく本木。


「チーム・エイト、降下できるか」

「ああ、いつでも行ける」

 響の確認に答える本木はアサルトライフル状のユニットを持ち、うなずく。


「よし、チーム・エイトスタンバイ」

 その響の命令とともに戦闘機の出入り口からロープが地上に降ろされた。

「GO!」

 本木のその合図とともに、下ろされたロープをすべりおりるチーム・エイトの隊員達。


 隊長、本木大吾

 副隊長兼解析担当、ケイス・レイリー

 狙撃手、ファン・ハークライ

 戦闘兵兼通信担当、雲川俊樹くもかわとしき

 それら四人のメンバーが降下するとともに、アンソーギラスは敵を見つけたかのようにほえる。


「遊んでやるぜ、怪物」

 すぐ目前で吠えるビーストに向け、シングルモードで本木は一発、銃弾を撃った。




     7





「どういう事よ! 頭狂ってるんじゃないの、アンタ!」

 スカイベースのブリッジに恵里衣の怒声が響く。

 吉宗はその恵里衣の声をうるさいと言わず耳をほじって苦虫をつぶしたような表情を浮かべていた。


「相手はビースト。しかも一回どっかの隊を全滅させた事がある奴!戦うのはたったの四人!なのに私は出さないって説明しなさい!」

「そんな叫ぶなや。こっちは任務中なんや。円と一緒にいてやれ言わんかったか、俺は」

「あいつは大丈夫よ。どうせ体力限界だから動けないだろうし」

「そうやったらええんやけどな」


 と、響とパイロットが搭乗しているEXキャリーを通して見える俯瞰カメラに映し出されたチーム・エイトとビースト、「アンソーギラス」をみる。


「全員死ぬわよ」

「死なん」

 恵里衣がぼそりとつぶやいた言葉に吉宗は笑顔で、また自信に満ちた表情を浮かべながら即答した。


「心配すんなや」

「誰が。人が死ぬところを楽しめると思う?」

「例えそうでも行かせへんけどな。今行かれると困るんやわ」

「どういうことよ」

「恵里衣には是非、もう一方のビーストの対処に当たって欲しい思ってる。円も、や」

「もう一方ってなによ。そもそも、さっき言ったでしょ円は動けないって」

「別にいま行ってこいは言うてへんやろ。明日までに行ってもらいたいんや」

「明日まで……」

 その吉宗の言葉に何かが引っかかるのか、ぼそりとつぶやき、恵里衣は考える。


「そういうこと」

「是非、お前等にはあの円が残してきたニ体のビーストの相手をして欲しい。アイツにとったらリベンジマッチになるな。さすがにスピリットを倒すレベルになってくると、人間達だけじゃ太刀打ち不可能やろ。そういう相手は、お前等の土俵のはずや。そいつらと戦うまで、恵里衣は温存。円みたいにエネルギー切れになってもらったら困るしな」

「二人懸かり前提なら別にそんな心配ないでしょ」

「念には念や」

 吉宗はその言葉を残し、モニターを正視した。それからは、恵里衣と吉宗の会話は続くことはなかった。


「戦えるのかしら……」

 突然ぼそりと、恵里衣がつぶやく。

「んん?」

 モニターから目を離し、吉宗は恵里衣をまた見やる。


「円は嫌いだって言ってた」

「嫌い?戦いがか。そら当然やで」

「そうだけど。こうやって……」

 恵里衣は円がやったように拳を作ってそれをもう片方の手で包むように掴む。


「嫌いだ、って」

「…………」

 小さく息を吐いて恵里衣を見つめた後、吉宗は三度モニターをみる。


「優しい奴やな、あいつ」

「え?」

 吉宗はモニターを見たっきり、恵里衣に答えなかった。




     8




 その殺意は、一瞬で襲い来る。

「グッ!!」

 アンソーギラスが本木をつぶそうと振り下ろされた手。

 その振り下ろされた直後、本木はユニットをブレードモードに変えた。

 その瞬間、光の刃が銃口から噴き出してきた。

 振り下ろされ、それが本木に届くまでは一瞬。

 本木の受けは間に合った。

 光の刃によって阻まれ、バチンッ!!と言う火がはじける音と共に白色の光が散る。


「グッ、ァアアッ」

 阻まれてもなおアンソーギラスはその腕を押しつけてきている。

 時間が経てば経つほど、それも思った以上の早さで力が強くなってきて、逃げる事はおろか防ぐ事が難しくなってくる。


「ダイゴ!」

 ハークライが本木の危機を察知し、ライフルでアンソーギラスの腕を打ち抜く。

 糸を同じ小ささの穴に通すよりも難しい正確無比な狙撃によって放たれた銃弾は本木の頬をほんの少しかすめ、アンソーギラスの腕を貫いた。


 悲鳴を上げ、本木から離れるアンソーギラスはその場で暴れ回り、近くに寄るものを寄せ付けない。

 アンソーギラスの体中には銃創と思われるものが幾つも見受けられる。

 尚、未だ力が衰えるところを見せないところからやはりビーストは怪物。

 その場で暴れているうちはほとんど的である。


「撃て!!」

 本木がそう叫ぶ、叫ばずとも四人による一斉攻撃が行われていた。

 幾重にも重なる銃声と貫かれる肉の音。

 悲鳴を上げるように叫ぶアンソーギラスは暴れ周り、そして高周波を放つ構えをする。


「来るぞ!」

 ケイスのその合図と同時、アンソーギラスは耳を立て咆哮を上げた――近くにいた三人はその場から飛び退く。

 刹那、元いたその場所に目でも見えるほどの衝撃波が発生し、爆発した。

 その後数秒ほど、風切り音が響く。


「すいませんキャップ」

「いや、助かった」


 端末越しの聞こえるのはハークライの声だ。

 おそらく先ほど本木の頬をかすめたことを言っているのだろう。

 ハークライの位置は把握しているものの、姿は見えない。

 大技を使った反動かアンソーギラスの動きが止まった。

 また、一斉攻撃が放たれる。

 だが今度は怯みすらしない。

 銃弾を受けても尚、アンソーギラスは目に映った雲川へと走り始めた。


「来い来い来いッ!!」

 雲川は動かない。

 迫り来るアンソーギラスに向けて銃弾を打ち続ける。

 アンソーギラスが雲川にまで達するまでは数秒ほどしか必要としない。だが、数秒ほどはまっすぐしか走れない動く的。


 ほかの三人もそれを知って、攻撃を集中させる。

 アンソーギラスの走る速度は車よりも速く照準をあわせるのは容易ではない。

 そんな相手に一寸も狂いもない照準は、確実にアンソーギラスの体を撃ち抜き、雲川の眼前一メートル足らずのところで立ち止まってうめき声を上げて立ち止まり――


 刹那腕を振り回して雲川を殴りつけようとする。

 同時、後ろに飛び退いてかわす。

 だが襲い来る第二波。

 腕を振り回した拍子に尻尾を振り回され、それが雲川を殴りつけた。


「――ッ!」

 衝撃が目に見える。

 攻撃は、雲川を守るように現れた光のフィールドが阻んだ。


「グッ、アアッ!!」

 そのまま光のフィールドに尻尾と雲川ははじかれるような形で吹っ飛ばされる。

「くっそ、あっぶねぇ」


 若干ふらつきながらも立ち上がりながら悪態をついてアンソーギラスに銃口を向けて追撃に備える。

 だが、そのアンソーギラスは追撃を行う仕草を行わない。

 代わりに、耳をふるわせ辺りを見渡すように首を振る。


「まずい――ッ!?」

 それを見て反応を示したのは本木で――――瞬間、アンソーギラスが吠え哮り叫んだ。


「う、グアッ!?」

 その咆哮こそが、アンソーギラスが放つ高周波。その最たるもの。攻撃ではないが、範囲内のものすべての電子システムをダウンさせるものである。


 ピンポイントの攻撃ではない分、アンソーギラス自信よりも低い位置に存在する範囲内の機械すべてがこの攻撃を受けてしまう。

 その範囲内に、本木たちは入ってしまっているのだ。

 その咆哮と、それに伴って発生した突風に突かれて思わず尻餅を突いてしまった。

 その刹那、ピピッという電子音が本木たちの持つユニット、ライフルやら特殊フィールドを発生させるバッジなどから聞こえた。


 すなわち、全機能をダウンさせられたのだ。


 一応、ユニットのライフルで通常のアサルトライフル弾を装填して通常兵装として使用することはできるが、当然、ビースト相手に通用するはずがない。ほとんど牽制にしかならない。また、それすらも怪しいところだ。


(だが、これらすべては想定済み……!)

 本木が思ったこと。もちろん、この攻撃を受けたほかの二人も同じ事を考えている。


(生き延びれば、勝ちだ……!)

 その時間は一分も足りない。経てばユニットの機能が回復して戦える。

 ビーストにとっては人間三人を殺すのに十分すぎて、人間がビーストから逃げるにはあまりにも長すぎる時間だが、それを乗り切る。


 アンソーギラスは威嚇するようにうめき声を上げて殺気を辺りに振りまく。

 本来ならば絶好の好機だが、システムダウンを起こしている今では手を出すことができない。


 アンソーギラスから距離を取り、攻撃に備える。

 そうしようと三人は後ろへと引き下がり――

 瞬間、アンソーギラスが咆哮を上げ、周りに高周波を発した。


「な――ッ!?」

 これは攻撃だ。

 本木がそれを思ったのは吹っ飛ばされ、地面に体をたたきつけられてからだ。


「あ……グッ!!」

 ユニットによる防護フィールドがないせいでビーストの攻撃をもろに受けてしまった。

 いまこうして意識を保っているのは奇跡。


「こいつ……ッ!」

 この攻撃は報告にはない。

 本木は他の仲間達を見やる。

 気を失っているものがいれば起こしてやらなければならないからだ。


「大丈夫か!」

「はいリーダー俺は何とか!」

「僕も走れます!」

 遠くから聞こえる二人の声に、本木は安堵する。


(これからが苦しいところだ。頼んだぞ)

 願わくは、ハークライが先ほどの攻撃の範囲内にいないことを。

 アンソーギラスは哮り目に映る敵、本木の方へと突き進んできた。


「――ッ!」

 それは、走り出した瞬間に本木のところへとたどり着いてしまうほどの速さ。


 アンソーギラスと本木の間には五〇メートルほどの距離があったというのにその距離をないものであると思わせるほどの速さである。

 その突進の速さに乗せるように、アンソーギラスは腕を振り下ろし、本木の体を潰そうとする。


「クッ――!」

 その攻撃をギリギリにかわし――

 刹那、もう一方の爪を振り上げていた。


「――ッ!」

 身を大きく反らせ、それもかわす。

 時に、アンソーギラスは耳をふるわせていた。


「――ッ!」

 ぞわっと悪寒が走る。

 この体勢で高周波を出されてしまったら終わりだ。

 本木はライフルの銃口を向け牽制を放とうとする。

 間に合わない。

 直感がそう思ったときにはアンソーギラスがうめき声を上げ始めていた。


 その時、肉を穿つ衝撃の音と共にアンソーギラスが悲鳴を上げ動きを止めた。

 ここまでのダメージを与えられるのはユニットによる攻撃のみ。

 これは、ハークライによる狙撃だ。

 さらにもう一撃、狙撃が行われアンソーギラスは、悲鳴をあげて数歩ほど引き下がった。

 その間に本木は立ち上がりアンソーギラスから距離を離す。


「キャップ!」

 雲川のその声と共にアンソーギラスの体からバチバチッと言う閃光が現れ、立て続けに響く銃声が聞こえた。


 アンソーギラスにとってはただ砂嵐が当たってかゆくなる程度であろうが、そちらに気を向け両手を広げて威嚇し、呻き声を上げる。

 そしてすぐさま、今度は雲川のところへと走りだした。

 雲川と本木と、ケイスのライフルのマズルフラッシュが瞬き続ける。

 バキバキッと言う堅い殻にものが当たる音が聞こえる。

 だが、アンソーギラスの体に傷はない。

 カラカラという乾いた金属音が地面から聞こえ、つぶれた銃弾がそこらに散らかっている。


 効いてない。効かないとわかっている。だが、トリガーを引き続け、一人に攻撃が集中しないようにする。

 三人は絶えずその場から動き回り、狙いを定めづらくする。

 アンソーギラスのあらゆる攻撃。

 本木たちによるゲリラ戦法。

 状況が絶えず変化し、ギリギリの攻防が続く。

 アンソーギラスの攻撃はどれも人間の目がギリギリとらえられないほどの速さで繰り出される。


 スピリットにはそれらすべてが見えるらしい。

 時間が進むごとに、アンソーギラスの放つ殺意は強くなる。


「クッソ……ッ」

 猛攻を耐え凌ぐ集中力がそろそろ切れそうだ。

 三人も限界のなか、アンソーギラスが大技を打ち放とうと力をため込む動作を始めた。


「ここが正念場か……ッ」

 ケイスがその言葉を吐いた――

 ほぼ同時にアンソーギラスが哮ると三人のいた地点が爆ぜた。

 その高周波による攻撃をかわす三人。

 だが、その瞬間またアンソーギラスが高周波を発する動作を始め、また爆ぜた。


「グッ……!?」

 かわせたものの、爆風のようなものに突きとばされ、本木がのけぞってしまう。

 その後、アンソーギラスが最後の一撃を放とうと、また力を溜め始めた。


「マズイ――ッ」

 雲川が危機を察知する。三人ともそうであった。

 遠くからハークライが狙撃して攻撃を止めようとしているのか、だが、被弾してもそれを気にもとめないアンソーギラスは吠え哮り、今度は自分の周囲諸共破壊するほどの高周波を発した。


「グ、アッ!!」

「――ッ!?」

「ガハッ!」

 身を裂かれるような痛みと共に爆風によって体を吹っ飛ばされる。

 本木たち三人は地面に倒れ伏せさせられた。


「グ、ハァッ……」

 よく死ななかったものだと三人共思う。

 ほぼ直撃であったはずだが。

 アンソーギラスは一度ほえた後、また間髪入れず今度は視界に移り込んだケイスの方へと走り出した。


「ヤッベェ……」

 すぐさまライフルの銃口を向け、トリガーに手をかける――、

 その時にはすでに、アンソーギラスはすぐ目前に、

 腕を振り下ろしてケイスに止めを刺そうとしていた。

 だが、ハークライの狙撃がアンソーギラスの動きをとめた。

 三人は狙撃によってひるんでいるアンソーギラスに銃口を向けた。


「俺たちの勝利だ」


 ケイスのその言葉と共に放たれる、銃弾のスコール。

 先ほどまでとは違い銃弾がアンソーギラスの体にはじかれることはなかった。


 肉を穿ち、潰す音。

 アンソーギラスの体は引き裂かれ、人間である血であろう、どの色ともとれない光が飛び散っていた。


 アンソーギラスの悲鳴が響き、逃げようとするが銃弾に阻まれそれすらも許されない。

 最後はハークライの狙撃がアンソーギラスの頭蓋と呼ばれる場所を貫いた。

 アンソーギラスはうめき声もあげずその場で倒れ伏し――


「マズイッ!」

 ケイスはすぐさまその場から飛び退き、アンソーギラスから大きく距離を離す。


 その瞬間、アンソーギラスの体が炎を上げて大爆発し、その身を散らせた。


「グアッ!」

 爆炎からは逃げおおせたが、爆風によってケイスの体は空中に投げ上げられた。


「うっわ――ッ」

 このままではビースト諸共道連れである。

(あんな奴と心中はゴメンだぜッ)

 そう思いながらケイスは空中で体勢を立て直す。


「フロート!」

 キィインというかすかな音。

 その瞬間ケイスの体の内からパッと光の粒子が飛び散ると、加速して落下していたケイスの体がフワリと浮かび、ゆっくりと地に降りてきた。


 ストンと小さな足音で地に降りたケイスは小さく息を抜いてアンソーギラスがいたところをみる。

 破片すらも爆炎で燃え尽きた。

 そこには何も残っておらず、ただ一つ地面にヒビが見えるだけであった。


「大丈夫か、ケイス」

「……ッ、はい、大丈夫です」

 駆け寄ってきた本木と雲川に笑顔を見せるケイス。

 その様子を見て本木はうなずき、耳に当てている通信機を押さえる。


「アンソーギラス、討伐完了」

『了解、EXキャリーをおろす。終わったら、昼飯でもおごってもらえ、コマンダーに』

 通信機から聞こえたのは響の声だ。


「フン、そうさせてもらう」

 そんな会話をした後すぐ、狙撃ポイントからハークライが三人のいるところに戻ってきた。


「おい、どこにいたんだ」

「あそこ」

 雲川に聞かれたのでハークライが先ほどまでいたところを指さす、が、おそらく建物の陰になっているのだろう見えるはずもなかった。


「あぁ、そうか」

 実際に足を運ばないとわからないところなのだろう。

 そんな返事をして話を切った。

 戦闘空域外から現れたEXキャリーが降りてきた。




      9




「んん、そんな金ないぞ、今」

 懐から取り出した財布の中身をみてぼやく吉宗。

 恵里衣はそんな吉宗の様子など見ない。モニターに映る間違いない現実。


 人間の手のみでビーストを倒す。聞いたことはあるがまさかここまで完璧にやってのけているとは思わなかった。


「私たち……いる?」

 思わず口からそんな言葉が漏れてしまった。

 

to be continued

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