第6話 君を消してあげたい


 ガタンゴトンと電車に揺られながら、僕と桜は車内にだれもいない中、二人寄り添って椅子に座っていた。

 景色が次々と流れていく。田舎の方だからか、青々とした田んぼが広がっている。時折見たこともない野鳥が滑空していたり、澄んだ美しい清流の上を通ることもあって、ずいぶんと遠くまで来 流れ行く景色を見るともなしに眺めながら、これまでの経緯を反芻する。

 あれから、透明人間になって桜の病室に忍び込んだ後、僕は効果が持続している内に彼女を担いで病院から脱出した。

 無論、そのまま桜を運んだら前代未聞の大事件だ。だから僕は、余っていた小瓶を桜に飲ませて、二人して透明になって故郷から逃亡したのだ。

 と言っても、そのまま逃げたわけではない。こうなることを見越してありったけの貯金を下ろしていたけれど、患者服のまま桜を衆目にさらすのはさすがにまずい。未成年ということもあり、情報規制されているおかげで地元以外での顔バレは心配しなくてもいいかもしれないが、やはり帽子ぐらいは被せておきたい。

 そんなわけで、今桜は適当に見繕った地味めの服装と、どこぞの球団のロゴマークが付いた帽子を被せていた。一見するなら、どこにでもいる田舎の高校生カップルぐらいには見えるだろう。ちょっと挙動が不審ではあるかもしれないけど。

 桜はというと、一言も喋る素振りを見せず、電車に乗り込む度に僕の肩に頭を預けて眠りこけていた。きっと心身ともに疲労しているのだろう。病室を抜け出してからまだ一日しか経っていないし、無理はない。


 あの不思議な薬は、最後に桜が使った分で無くなってしまった。あれからまた忽然と現れたりしなかったし、そもそもどういった理由で僕の手元にやって来たのかすら定かではない。でもきっと、気前の良い神様が桜を助けるためにプレゼントしてくれたのだろうと、今となってはそう自分を言い聞かせている。


 これからどうなるかなんてわからない。警察だって総力を上げて桜を捜索するだろう。いつか足取りを掴まれて、近い内に捕まる可能性だって十分にある。こうしている今だって、すでに警察の網の中かもしれないのだ。


 それでも、僕は。



 君が望んだものとは異なるかもしれないけれど、誰にも見つからない世界へ渡って、いつか傷が癒えて昔のように笑い合えるその日が来るまで、僕は君をみんなの前から消してあげたい。



 電車が一際強く揺れた。それでもレールの上をひたすら走り続ける。終わりが見えるその時まで。


 そばで寝息をたてる桜の手を握りながら、僕は窓から見える景色をずっと眺めた。

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君を消してあげたい 戯 一樹 @1603

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