第6章 高島と稲葉の聴取

 善光寺近くの諏訪すわ刑事おすすめの店でそばをご馳走してもらうことになった。


「諏訪刑事、お願いが」そばをすする合間に理真りまが声を掛ける。


「はい、何でしょうか」諏訪刑事もそばをすする合間に答える。


「去年の冬から今年の春までくらいの間に、事故か病気で亡くなった若い男性を調べてほしいのですが」

「どういうことですか?」

さくらちゃんの彼氏?」


 私にはピンと来た。理真は私を見て、そばをすすりながら頷く。


「さっきの女生徒の話に出ていた、桜さんと一緒に歩いていたという大学生風の男ですか? でも、なぜ亡くなっていると?」

「恐らく、すでに亡くなっているのではないかと」

「今年の春までとおっしゃいましたね。では、何ですか、桜さんに元気がなくなっていたという、二年生に進級した直後くらいのあれは、失恋ではなく、恋人が亡くなったのが理由だと?」

「私の考えでは、ですよ」

「調べるのは無論やぶさかでないですが、それと今度の事件と関係があるんですか?」

「あります。それくらいでなければ、桜ちゃんの行動に説明が付きません」

「桜さんの行動。油木あぶらきさんを殺して腹を裂いたことですか?」


 あの写真を思い出した。ほとんどそばを食べきっていてよかった。


「油木さんを殺したのも桜ちゃんかどうか、その答えの鍵を握っているのは、高島たかしまさんと稲葉いなばさんだと思うんです」


 高島と稲葉。事件当夜上一色かみいっしき家に泊まっていた上一色建設の社員。今日、仕事が終わったら上一色家を訪れるということだが。


「分かりました。お二人を家まで送ったら、さっそく調べてみます」


 諏訪刑事は勢いよく最後のそばをすすりあげた。


 私と理真を上一色家に送り届けた諏訪刑事は、そのまま県警へ向けて車を飛ばしていった。


 門の前に立ち、時間はと腕時計を見ると、午後三時半だ。

 高島と稲葉に話を聞きたがっていた理真だが、仕事が終わってから来るということは夜になってしまうだろう。早くても六時くらいになるはずだ。中途半端な時間ができてしまった。いつもであれば、捜査の空き時間に理真は本業の執筆作業に取りかかったりすることがあるのだが、今回はノートパソコンも持ち込んでいない。どうやら今は差し当たっての仕事は抱えていないようだ。


 私は泊まっている別棟の建物を見上げた。玄関の上に窓が見える。位置関係でいえば、あの窓は今朝訪れた桜の部屋のものであるに違いない。白いレースのカーテンが窓の内側を覆っているのが見える。今も桜はベッドに伏せているのだろうか。何を思って。


「理真、何かやることある?」


 私が同じように窓を見上げていた素人探偵に声を掛けると、


「うん。ちょっと、考える」


 理真は玄関まで歩き出す。当然私も付いていく。


 そのまま部屋へ戻ると、二人ともベッドに仰向けになり、ずっと天井を見ながら過ごしていた。

 横目で理真の様子を窺うと、真剣な眼差しを虚空に向けている。


由宇ゆう」理真から目を離していたときに突然話しかけられた。


「何?」私は顔を横に向け理真を見る。相変わらず彼女の顔は天井を向いたままだ。


「懐かしい気持ちになったね。学校」

「うん、そうだね」


 事件とは全然関係のない話を振られて、一瞬戸惑ってしまった。


「理真、あの女の子のこと、虜にしちゃったね」

「ふふん。まだまだ私もいけるね」理真は口元に笑みを浮かべる。


「高校の時も理真モテてたもんね。男女問わず」


 私たちの通っていた高校は共学だった。理真が入学したすぐから、新入生にかわいい女子がいると評判になったと、あとから耳にした。しかし、在学中に理真が特定の誰かと付き合うことはなかったと記憶する。もちろん男女問わず。


 それからしばらく高校時代のことを懐かしく話していたが、ノックの音でそれは中断された。


「高島様と稲葉様がいらっしゃいました。旦那様も一緒です」


 牧田まきたの声がドアの向こうから聞こえた。時計を見ると午後五時。思っていたよりもずっと早い到着だった。



「特に急ぎの仕事もなかったので早く会社を出てきました。安堂あんどうさんも色々と訊きたいことがあると思いまして」


 高島と稲葉を私たちに紹介した後、泰蔵たいぞうはそう付け加えた。


 高島やすし。二十五歳。営業部所属ということだが、長身で少し冷たい目つきを持つ彼は人に近づきがたい印象を与える気がする。これで営業が勤まるのか? 諏訪刑事のほうがよほど営業マンらしいぞ。


 稲葉文典ふみのり。同じく二十五歳。背は高島よりも若干低いが、建設部所属らしく細身だが、がっしりとした体つきをしている。見るからにスポーツマンタイプの男だ。営業職の高島が背広なのに対し稲葉は会社の作業着姿だ。

 挨拶を済ませたあと、高島が話しかけてきた。


「安堂理真さんって、同姓同名の作家がいたと思うのですが」

「はい、私です」

「やっぱり。作家で探偵だなんて凄いですね。女エラリー・クイーンといった感じですか。私、好きなんですよ、クイーン」


 シャーロック・ホームズに続き、またもや偉大なレジェンド探偵と並び称されてしまった。理真はまだまだ経験も知名度もないが、そう言われて悪い気がするわけはない。現に口元をほころばせている。


「でも、書いているのはミステリじゃなくて恋愛小説なんですよ」

「そうなんですってね。すみません、お名前は存じていますが作品のほうは未読でして」


 高島は頭を掻いた。まあ、高島くらいの年齢の男性は理真の著作を愛読する層ではない。名前を知ってくれていただけでも喜ぶべきことだ。


「では、さっそくですが事件のお話を」


 理真は真面目な顔になって二人に促した。


「それでは、応接室にでも行きましょう」


 泰蔵が一同を案内しようとしたが、理真はひとりずつ話を聞きたいとの旨を伝えた。それならばと、まずは理真、私、高島の三人で応接室へ行くことになった。


 純和風の上一色家でも、この応接室は洋風の作りとなっていた。長方形のテーブルを挟んで理真、私が並んで座り、高島と対面する。

 松波まつなみが、持ってきたお茶を配り終えて部屋を出ると、理真はひと口お茶に口を付けてから話しだした。


「高島さん、事件当夜のことをお伺いしたいのですが」

「それなんですが、もう警察にお話しましたよ。と言っても、もう一度聞かせてくれというのが探偵のセオリーですよね」


 理真は、恐縮です、と言って頭を下げた。ミステリを読む人が相手だと話が早くていい。


 高島の語った内容は調書に書かれていたことと寸分違わなかった。

 油木の死亡推定時刻の午後十一時にはひとりで部屋にいた。松波の悲鳴で目を覚まして勝手口に駆けつけたのが午前二時。そこで牧田からバトンタッチして稲葉とともに桜の腕を掴んで拘束し、警察の到着を待った。

 そこまで淡々と語ったが、くだんの、桜が油木の臓物を掴み取って口へ運んだ場面となると口調は淀み始めた。


「それで、稲葉と一緒に桜さんの腕を取っていたんです。……その間も桜さんは幾度か私たちを振り払おうとしました。ですが男二人の腕力に敵うわけありませんから。そうしているうちに警察が到着して、桜さんを引き渡すことになったのですが、油断しました。私が掴んでいたのは左腕で、桜さんが先に振り切ったのは稲葉が掴んでいた右腕だったんですけど、それに驚いてしまって私のほうの左腕もすぐに振り切られてしまいました。桜さんは油木さんの腹の傷口に右手を突っ込んで、取り出した拳を口元まで……」


 そこで高島は、ごくりと生唾を飲み込んだ。桜がその後取った行動を真似ているかのようだった。


「桜さんが油木さんの臓物を口にしたのを見たのは、そのときだけですか?」


 高島の話が途切れたので、理真が質問を投げかけた。


「はい、私と稲葉が駆けつけたときには、もう桜さんは牧田さんに拘束されていましたので」

「その間、桜さんの様子は?」

「私はほぼ真上から見下ろすような状態だったので表情は分かりませんが、ずっと油木さんの傷口を見ているようでした」

「そうですか……」


 理真は湯飲みを手に取り口まで運んだ。


「事件当日に」理真は空になった湯飲みをテーブルに置き、質問を再開して、「何か気になったことや、おかしなことはありませんでしたか? 何でもいいんです。一見、事件に関係なくとも」

「それも探偵の定番の台詞ですよね。ですが何もありませんよ、お話できるようなことは。本当に普通に過ごしていただけですから」

「事件の夜は急遽ここに泊まることになったそうですね。そういうことは、よくあると聞いたのですが」

「ええ、でも、あの日は、そうなると思いましたよ。会長が泊まっていけと言うだろうと」

「油木さんがいたから。彼から桜さんを守るために」


 理真の言葉を聞いた高島は苦笑した。


「そうです。油木さんの桜さんに対する態度は、私も端から見ていて不快になるほどのものでしたから」

「決着を付けるのにいい機会だ、とおっしゃったそうですね」

「私が? 言ってませんよ。牧田さんがそんなことを警察に言ったそうですね。稲葉じゃないんですか」

「稲葉さんも、油木さんのことは好きじゃなかった」

「当然ですよ。彼を好いている人間がいるなら、お目に掛かりたいですよ。私も稲葉も仕事の立場上、態度に出しはしませんけれど。会長もです。でも、それでもって殺害動機があるなんて短絡的に考えないで下さい。それとこれとは別問題です。いくら嫌っていたって殺したりするもんですか。そんな割に合わないこと」

「しかし、実際に油木さんは殺害されました。犯人は桜さんだと思いますか?」

「……分かりません。状況でいえば、桜さんが殺したと考えて間違いないとは思いますが……」

「桜さんも相当油木さんを嫌っていたそうですね」

「ええ、動機もありますね。桜さんは、まだ何も喋らないんですか?」

「はい、私も門前払いを食らいました。私に出馬要請が出たのも、桜さんの行動の謎を解明するためなのですが。……高島さん、素直に考えて、桜さんの手で油木さんを殺せると思いますか?」


 高島は腕を組んで首を傾げると、


「隙を突けば可能でしょうが。でも、あいつ――油木さんは視界に入ると桜さんをいつも目で追っていたようなやつですから、そう言う意味では油木さんが桜さんに隙を見せるとは考えにくいですね」

「油木さん死亡後の桜さんの行動についても、何か心当たりはありませんか」

「……それこそ見当も付きませんよ。あんなに重い油木さんを、どうやって……」


 高島は手を付けていなかった湯飲みを掴み、一気に中身を飲み干した。もうお茶は冷めてしまっているだろう。


「……分かりました。ありがとうございます。大変参考になりました。申し訳ないですが稲葉さんを呼んでいただけますか?」



 高島が部屋を出てから一分ほどで稲葉は現れた。さっきまで高島が座っていたソファに腰を下ろす。

 髪を肩の辺りまで伸ばして薄く顎髭を蓄えている。現場の人間なので、営業の高島と違い服飾規定などあまりうるさく言われないのかもしれない。


「まず、事件当夜のことを話せばいいんですよね? 高島に言われましたよ。一回警察に話しただろうけど、面倒くさがらずにもう一度喋れって。俺、女の子と話すの好きだからいくらでも喋りますよ。俺、本は全然読まないし探偵のことも知らないけど、お二人には興味ありますよ。助手のかたは何をやってるんですか? 探偵さんが作家が本職っていうんだから、助手さんも何か他に職があるんですよね?」


 稲葉は理真から私に顔を向けた。人懐っこい笑顔を浮かべている。


「アパートの管理人です」その笑顔に釣られて答えてしまった。


「管理人さんですか。いいですね。こんな管理人さんのいるアパートに住みたいな。部屋開いてますか?」

「私のアパート、新潟ですよ」

「あー、そうか、新潟から来られたんでしたっけ。駄目だ、会社通えないわ」

「あの、そろそろお話を」


 後ろに仰け反った稲葉に、冷静に理真が声を掛けた。


「あ、すみません」


 稲葉は、恐縮するように居住まいを正すと話し出した。


 その話は、先ほど高島が話した内容の主語が「私」から「俺」に、「稲葉」が「高島」に変わっただけといってよかった。松波の悲鳴を聞いてから、この二人は、ほとんど同じ行動を取っていたようだ。

 事件当夜に何か変わったことはなかったかとの問いに、特に何もなかったと答えたことも同じだった。


「桜さんが油木さんを殺害したのだと思いますか? 稲葉さんは」


 理真のその質問には、顔を背けるようにして答える。


「さあ、それは分かりませんよ。でも、桜ちゃんがやったかどうかは別として、俺個人としては清々しましたけどね。高島からも聞きましたか? あいつ、桜ちゃんに纏わり付いて鬱陶しいったらなかった。嫌われてるのが分かるだろうに。分かっててやってたんだったら相当な変態だし、分からなかったなら、もう生きていく価値のないくらいの無神経ですよ。あいつが死んで良かったって思ってる人、沢山いますよ」


 高島と違い、随分と直接的な言葉を口にする。


「稲葉さんもそのひとりですか?」

「えっ? やだな探偵さん。そりゃまあ、決して悲しんだりはしてないですけどね。それとこれとは別問題ですよ。わざわざ殺したりしないです。あ、それと高島から聞いたんですけど、『決着を付ける』とか何とか。俺、そんなこと言ってませんからね」


 先手を打たれてしまった。


「ちょっと脱線してしまったんで、もう一度聞きますけど。桜さんに油木さんを殺せると思いますか?」

「……そうですね。桜ちゃんもテニス部にいて、まるっきりの運動音痴というわけじゃないから。いや、でも、あの無駄にでかい油木を殺すっていうのは想像付かないですね。桜ちゃんにしたって、今まで通り無視してたら良かったんです。わざわざ殺すことなんて。ましてや……」


 そこまで言って稲葉は口淀んだ。


「油木さんの臓物を口にするはずなどない」


 稲葉が言い淀んだであろう言葉を理真が続けた。


「……そうです」


 急に態度が萎んだのは、事件当夜のことを思い出したからかもしれない。


「他に何か思い当たる節はありませんか。桜さんの行動について」

「あるわけないじゃないですか。さっぱり理解不能ですよ」

「そうですか……ありがとうございます。大変参考になりました」


 次の休みに長野を案内しますよ、などと、あからさまなナンパの言葉を投げかける稲葉を巧みにあしらって部屋から追い出し。理真は深くソファに腰を沈めた。組んだ両手を頭の上に上げて伸びをしながら、


「二人とも、桜ちゃんが失恋して元気がなくなってたことは言わなかったね。まあ、桜ちゃんが他人に悟らせなかったんだろうけど」

「そうだね。理真の方から聞いてみてもよかったんじゃない?」

「うーん、でもね。せっかく桜ちゃんがひた隠しにしてきたことだから、わざわざ聞くのも悪いかなと思って。あの二人の前では、いつも通りの桜ちゃんを崩さなかったってことでしょ?」

「そういえば、諏訪さんのほうはどうなったかな」


 私が言い終わると同時にノックの音が。理真が、どうぞ、と声を掛けると諏訪刑事が姿を見せた。噂をすれば、だ。


「失礼します。安堂さん、高島と稲葉の取り調べが終わったそうですね」


 取り調べというのは大げさだ。


「はい。諏訪さんのほうはどうでした?」

「ええ、その件で来たんです。ドンピシャでしたよ安堂さん。いました。安堂さんの言った条件を満たす男が」


 諏訪刑事はソファに腰を下ろすと、傍らに抱えていた茶封筒の中身をテーブルに広げた。


「去年の冬から今年の春までに長野市内で亡くなった若い男性は、このひとりだけでした。菅田彰すがたあきら。大学生、享年は二十一です」


 封筒の中身に履歴書があった。貼り付けられた小さな顔写真を見る。

 ちょっと頼りなさげで、やさしそう。目撃した生徒の語ったそのままの印象を私も受けた。大学生という推測は当たっていたわけだ。


「今年の四月十日夜、車にはねられて亡くなっています。事件性はなく交通事故として処理されていました。私も調書を読みましたが所轄の処理に問題はないです。誰が見ても事故ですよ」


 私と理真は同時に事故の調書を覗き込む。

 四月十日午後十一時三十分。

 バイト帰りの菅田彰は、歩いていた歩道から車道にはみ出し乗用車にはねられた。乗用車の運転手が119番通報したが、午後十一時五十五分、搬送先の病院で死亡が確認された。

 運転手と事故を目撃した通行者の証言によると、菅田はおぼつかない足取りで歩道を歩いていたが、急によろけるように車道にはみ出し車にはねられたという。

 調べによると、菅田は朝からバイト数件を掛け持ちしており、午前五時から午後十一時まで、ほとんど休みなく働き詰めだった。また、そんな生活を何日にも渡って繰り返していたことも分かった。過労により目まいを起こすかして車道に飛び出てしまったという結論だった。

 菅田彰に家族はおらず、警察が見つけた遠い親戚にも遺体の引き取りを拒否されたため、近くの寺に無縁仏として葬られたという。


「事故を調べた所轄の刑事に聞いたんですけれどね」


 諏訪刑事は手帳をめくりながら、


「この菅田という青年は今時珍しい苦学生で、バイト代はほとんど学費と生活費に消えていたそうです。その生活も質素そのもの。1Kの安アパート暮らしで携帯電話も持っていなかったそうです。通っていた大学の学生に聞いたところ、もともと質素な生活が苦にならないタイプだったようで、バイトも学費を払って、食うに困らない生活を営む程度の稼ぎを得るくらいで満足していたと。遊びよりも勉学に打ち込む時間を大切にしていた、学生の鑑のような男だったそうです。本人が苦にしていないのであれば、苦学生とは言わないかもしれませんね」


 話を聞いた理真は調書に目を落としたまま、


「そんな人が、亡くなる直前には過労で体が言うことをきかなくなるくらい働き詰めの生活をしていた」

「そういうことです」

「……諏訪さん、桜さんの誕生日はいつですか? 四月か五月じゃないですか?」

「えーと、待って下さい」


 諏訪刑事は手帳の別のページをめくって、


「ええ、そうです、四月二十日ですね」

「……そうですか」

「菅田が亡くなった十日後ですね」

「諏訪さん、ここから日光まで、車でどれくらい掛かりますか?」

「日光って、栃木県の日光ですか?」


 理真の唐突な質問に面食らったように、諏訪刑事は腕を組み首をかしげる。


「車でなら、四時間もあれば十分ではないでしょうか。上信越道、北関東道、東北道と乗り継いで。今は道路が整備されましたから、長野インターから日光インターまで、ほとんど高速道路だけで行けるはずですよ。でも、それが何か?」

「私と由宇は明日、日光へ行ってきます。そこで目撃証言が取れれば、この事件は解決します」

「ええ? 何ですって? 目撃証言って、誰の?」

「桜さんと、死んだ菅田さんですよ。諏訪さん、すみませんが明日の朝、近くのレンタカーショップまで……あ、牧田さんに頼もうか」

「皆さん、お夕飯の用意が出来ましたよ」


 その牧田がノックの音と共に応接室に顔を出した。

 さっそく理真がその話をすると、牧田は快諾してくれた。駅近くのレンタカーショップが朝八時から営業しているという。


 話が決まり、意気揚々と夕飯に向かう理真の後ろを私と諏訪刑事が付いていく。

 諏訪刑事は未だ首をかしげているが、私には見えてきた気がする。この事件、桜の抱え込んだ悲しみが。

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