105日目 足に恨みは無い

 ちょっとヤバイ事態が起こってしまった。

 死は恐れていない。現代に帰れるから。でも、ここで死ぬのは少し怖い。


 完全に迷った。途中、ドイツ兵に見つかって銃撃された。そのせいで足が駄目だ。


 いつもの如く、部隊についていった。そしたらドイツ軍から攻撃を受けた。間違えて、ドイツ軍の陣地に入っていたらしい。

 あの指揮下手な上官のせいだ。思い出したくもない。


 周りは雪だらけ。遠くに街が見えるが、部隊がもともと街からかなり離れていたし、潰乱して逃げ散ったおかげでさらに離れた。

 さっきも言ったが足が使えないから無理だ。匍匐前進でなんとか前に進んでる。痛い。


 右足のふくらはぎを貫通。左足は膝に入った。他にも二、三箇所、足にかすった。

 撃ってきた奴はなんとか撃退した。また戻ってくるかもだけど、短機関銃は頼もしいな。


 手帳1つに銃が一丁、弾は……替えが、3つ。だから、えっと……35×3で105発か。まぁ、あんまり関係ないけどね。

 食料は簡単な携帯食1つ。


 てか、足にだけ命中って俺の足になんの恨みがあるんだよ。

 ズルズルと血の跡を雪につけていく。


 寒いのに足は痛いし熱いし、わけわからん。

 もう、腕も疲れた。朝からずっとだし。雪のせいで全然進まない。

 何時間こうしてるのかな。


 ここが現代に帰る最大のチャンスなのはわかるよ。でも、即死したらどうする? 逆に手帳が死なないと判断したら?

 もう、怖すぎる。




 ん〜、何時間たった? 陽が明らかに傾いてる。 誰か、くる?

 雪の丘の向こうから足音がする。ドイツ軍が居た方だ。腹這いになっていたので上を向いて、銃を音がした方に向ける。

 今まで意識がなかったけど(多分)頑張って、臨戦態勢をとる。


「ニホンジンデスカ?」

 ⁉︎ え! 嘘⁉︎ これはロシア語が理解出来てるんじゃない、日本語だ、日本語が聴こえてるんだ。

 なんか、涙が出てきた。明らかにドイツ兵が言ってるし、超カタコトだけど。


 雪の向こうから聞こえる声に耳をすました。

「ニホンジンナラ、シテクダサイ」

「あ、あ……」

 あれ? 声が出ない。あ、4ヶ月ぐらい声出してないんだ、当たり前か。

「あぁぁぁぁぁ!」


 それを聞いた途端、雪の向こうからドイツ兵が4、5人出てきた。俺は銃を降ろした。交戦の意思がないことを示したかった。

「/&;※♨︎≧¢→+$ッ?」

「○♪☆€♪+ッ」

「ホントニ、ニホンジン?」

 頷いてみせた。



 俺は捕虜になった。現代に帰るチャンスが遠ざかった。




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