70日目〔3〕死ぬ範囲でお願い

「タイムスリップの条件が死って事は理解できるか?」

 首を横に振る。

「俺もよくはわからんのだよ」

 えぇ……。


「だが、一度死んだのだろう」

 首を縦に振る。

「つまり、手帳がお前はまだ死なないと判断したわけだな」

 そういう事か。


 俺はとりあえず、ここにきた理由を手帳で説明した。

「なるほど、という事は……その男もタイムスリップしたんだな」

 あーね、あーね。


「何処から来たのかわかるか?」

 わかるわけない。

「そうだよな」


 ん? なんで血だらけだったんだ? あいつも戦時中に来ちゃったのかな?


「さぁ、本題だ」

 どうやって帰るのか。

「どうやって帰るのか」

 当たった! ……何してんだ? 俺。

「君はいつの時代だ?」


 俺は手帳に「今、何年ですか?」と書いた。

「今は1942年だよ」

 そうか、とりあえず……。

 ソ連がなくなった後 って書いた。

「ソ連は無くなるのか、やはりな」


 ん? 関係あるのか? 時代って。

「まぁ、関係ないけどな」

 なんだよそれ。


「死なないといけないのはわかるな?」

 まぁ、とりあえずはね。

「でも、死んだら死体が落ちてるだけになるからなぁ」

 あ、そういえばあの時のあいつ死んでなかったよね? 手帳渡してくれたから。

 という事は……。手帳が死ぬと判断する=死

 ではないのか。


 伝えてみた。

「そうか、なら話は簡単!」

 嫌な予感。

「死ぬ範囲で負傷しろ、お前の時代の医療で治せる範囲でな」

 えぇ……。やだよ。なんだよ死ぬ範囲でって。


「とりあえずもう行けよ、俺も疲れたから」

 なんなんだよ、いろいろ言っといて。

「教会を掃除しないと」

 ヒュゥゥゥーーーーーー……ドゴォン

 あぶっねぇ。

「また、汚れた」


 砲弾は屋根を突き破って俺たちとは対角線上のところに落ちた。

 いや、何も解決してないよね?


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