7日目 ロシア語が少しだけ……

包囲されて、3日が経った。 一ヶ月に感じる。

1週間ここにいたせいかロシア語が次第に分かってきた。怖い。わかってきたから怖い。


言葉が分からないと怖い。これは現代で俺が農家をしてた時、東南アジアから出稼ぎに来てる奴らで味わった事だった。

だって何をしだすか全く予想がつかないもん。


此処では逆だった。死ぬ時に兵士達が何かを呻くんだよ。特に即死じゃない場合。『お母さん』だとか『死にたくない』とか。


でもおかしいんだよな。此処にいて、ロシア語に接してるだけでロシア語が使えるようになるなんてあるのか?



敵の攻撃の頻度は少なくなってきた。俺たちを最初に包囲した部隊は前進する事を急いだらしい。

それで、俺達の包囲が解けるわけでは無いんだけどね。


そして、気づいた事が。俺が今いるのは第二次世界大戦中って事。

旗が落ちてたんだよ。死んだ兵士が握りしめていた。真っ赤で左上に黄色いマークがあって、ソ連だって事がわかった。そして敵は日本人じゃない事は確実だから……って感じで学生時代の授業風景を思い出しながら。


ていうか、俺が覚えてる戦争なんて、第一次世界大戦と第二次世界大戦ぐらいしかないし。


まぁ、そんな事を暇な時は考えてた。


「敵だー!」

言葉は分からない方が得をする事もある。


その日の敵のメニューは戦車2両、歩兵は少なくとも俺達より多いな。


ドォン ドォン ……ドドゴォーン

相変わらず、敵は一番でかいこの建物を攻撃してきている。


「来い」

偉い人達も戦闘で負傷したりしてた。だから彼はある程度部隊をまとめる位置にいた。

やっぱり言葉はわかんない方がよかったな。


瓦礫は暫く此処で戦っている俺達に味方した。今や此処は俺たちの庭……。

ヒュゥーーーーーー

「伏せろーーーーっ!」

ドゴォーン


今みたいな爆発で瓦礫の地形は変化するから庭って事はないかも。


俺達はしつこく白兵戦をしかけた。古参部隊に至っては、スコップを改造したりしている。

何とか聞き取った話によると、敵と距離があるとあの時みたいに爆撃を受けるらしい、だから近づいて、爆撃を受けないようにするんだと。

よくわからんけど。


でもこのままだと人数がどんどん削られて……。

「*○・++:/#/&&:」


なんて言ったのか聞き取れない方が多い。簡単な文とか単語だけだと聞き取れない事もないけど、長い文だとぜっんぜんわかんない。

とりま、ついて行く。


パァン

ん? 何だ? 何処から?

左を見ると、敵兵が倒れかかってきた。頭を貫かれている。

何だ⁉︎ こいつ?

俺は自然と、なぜか右を見た。


かなり遠くの、もはや骨組み のみになっている建物にキラリと光るものが見える。

スナイパー? かな?


そんな事を考える暇はなかった。既に白兵戦は始まっていたんだけど、俺は棒立ち状態♪

勿論狙われる。


パァン

また、助けられた……のか?

敵兵はまたも、頭を貫かれている。凄い腕だ。


白兵戦を何とか乗り切った。

再び要塞へ戻る時、スナイパーがいた建物を見たが、そこには建物の骨組みだけがあって、人影はなかった。


また、俺は敵を殺して生き残った。

どうやら待ち伏せされたらしい。そのせいで、俺と彼についてきた奴らの半分は帰れなかった。



そして、要塞に戻って 少し空いた時間に手帳をみた俺は愕然とした。

日本語の所に『俺は生き残った。血と少々の記憶を犠牲にして』と、真っ赤な字で書かれていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る