緊急ミッション:お兄ちゃんの部屋を探ろう!

 エロ本に反応しないお兄ちゃん。

 下着にも、JCのドキドキバスタオル姿にも欲情しないお兄ちゃん。

 それでいてホモォでもないお兄ちゃん。

 あとはもう二次画像好きなのか、熟女マニアなのか……。

 正直、もう検証はしたくない。でも、家族として、お兄ちゃんがもし誤った道を歩んでいるのなら止めてあげなくてはいけない。


 そこで私はついに決意した!

 お兄ちゃんの部屋を探って、その手のものを漁ってやろう、と。

 口元にペンライトを咥え、全身をレザースーツに包み、マル秘データを収めたUSBメモリを胸の谷間に隠してやろう、と。


 さて、となると準備をしなければ。

 ペンライトどこにあったかなぁ、レザースーツは去年コスプレで使ったヤツを上手く流用して、あとおっぱい、私のおっぱいよ、根性入れて大きくなるんだ、USBメモリを挟めるぐらい。


「お兄ちゃん、お風呂はいりなさいよー」


 って、お母さんの声が階下から聞こえてきた!

 ちょ、早いよお母さん、私まだ準備が……って、ああ、お兄ちゃんが階段を降りていく音が!?

 ええい、もう仕方がない。今は形にこだわるよりも、実績が必要なんだっ。

 

 結局、私はいつもと変わらぬ服装のまま、お兄ちゃんの部屋へと音もなく潜入した。

 よくよく考えたら暗いまま探す意味もないので、普通に部屋の明かりをスイッチオン。奇麗に整理整頓されたお兄ちゃんの部屋を前に、私はまずベッドにダイブする。

「わーい、お兄ちゃんの匂い……って違うわ!」

 そう、目的はそれじゃない。私はベッドから上半身を乗り出すと、その下を覗き込む。

 そう、古今東西、男の子の宝物はベッド下に隠されているもの。何故ってほら、それが一番実用的だからっ!

 しかし。

「ちっ、さすがはお兄ちゃん、こんなベタなところには隠してないか」

 となると、次は本棚が怪しい。

 表紙だけを別のものに変えるという、例のアレだ。

 ところが。

「うーん、ここも収穫なし。せめてイム書院とは言わないまでも、『五年二組の吸○鬼』ぐらい出てきてもいいと思うんだけどなぁ」

 まぁ、アレが出てきたらどん引きだけど。

 さて、どんどん行こう。次は机のひきだしだ。

 サイドワゴンって言うのかな。机の右下に、3つぐらいひきだしがあるヤツ。これが狙い目。なんせこいつ、大抵の場合は引き出しの奥に空間があって、そこにモノを隠すことが出来るんだもん。

 私は一番下のひきだしをそのまま引き抜いて、中を覗きこむ。

「あっ!?」

 ついに見つけてしまった!

 ひきだしの奥の空間にある、そこそこ大きくて、膨らみのある封筒を!

「……」

 封筒を取り出す。でも、中身を見るのはなんか躊躇われた。

 お兄ちゃんの、そういうところを知りたい。

 そう思っていたはずなのに、いざ目の前にすると、なんとも言えない罪悪感が襲ってくる。

 それにお兄ちゃんはこんなのに興味ないはずなんだ、と今さらなんだけどそんな矛盾した感情も……。

 だけど。

「えーい! ご開帳―っ!」

 悲しいけれど、真実はいつもひとつなんだよ。厳しい現実と向き合わないと、人は先に進めないんだよ。見て見ぬフリをするのは、イジメをしている人と同罪なんだよ……ってコレは違うか。

 まぁ、それはともかくドキドキしながら封筒の中身をむんずと掴んで取り出してみた。

 さぁ、お兄ちゃんのいやーんなヒミツ、カモーン!


 こくごテスト  てより ゆか  23点。

 さんすうテスト  てより ゆか  32点。

 しゃかいテスト  てより ゆか  10点。


「なんで私の答案があるんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 お兄ちゃんの恥ずかしい秘密を探っていたはずなのに、何故か私の恥ずかしい過去が暴露されたしっ!? 言っている意味が分からないと思うが、私だってなんでこうなったか意味が……って、そう言えば小学校に入って間もない頃、初めてのテストで酷い点を取っちゃって、お兄ちゃんに泣きながらどうしようって相談した記憶がある。あの時、お兄ちゃんは「僕に任せて」とか言っていたような……。

「そうか、こうしてずっと隠していてくれていたんだ……」

 ちなみにその後、お兄ちゃんに勉強を見てもらったおかげで、今ではそこそこの成績をキープしている。

「思えばお兄ちゃんのおかげで、今の私がいるんだよね……」

 お兄ちゃんには勉強を教えてもらっただけでなく、昔からよく遊んでもらった。可愛がってもらった。

 褒められると、とても嬉しくて、もっといっぱい褒めてほしいなと頑張った。

 優しく叱られて、やっていいことと悪いことを覚えた。

 転んじゃって泣いちゃっても、お兄ちゃんに頭を撫でられたら元気がでた。

 私が怖気ついちゃったら、お兄ちゃんがそっと手を貸してくれた。


 そしてこのテスト用紙みたいに、お兄ちゃんは昔からダメな私を庇ってくれていた……。


「それなのに、私、なにやってるんだろう……」

 こんなに優しいお兄ちゃんの恥ずかしい秘密を探ろうだろうなんて、私、なんてヒドいことをやってるんだろう。

 マニアックな趣味があるんだったら止めてあげなくちゃなんて、おこがましい考えだった。

 たとえどれだけどん引きな性的嗜好があったとしても、お兄ちゃんはお兄ちゃん。私の、優しくて、カッコイイお兄ちゃんなんだ。それなのに……

「ああ、私ってサイテーだ」

 私の呟きが、お兄ちゃんの部屋に響いた。


「そんなことはない! 由佳は最高だ!」


 突然の声に驚いて振り向く。

 入ってきた時にしっかり閉めたはずの扉が開かれ、お兄ちゃんが立っていた。

「お兄ちゃん……」

「懐かしいな、それ」

 お兄ちゃんが指差すのは、私が抱えていた、ひどい点数のテスト用紙。

 はっとして慌てて隠そうとしたけれど、もう遅い。そもそもお兄ちゃんの部屋にいるところを見つけられた時点で、言い訳なんか出来るはずもなかった。

「由佳って昔は勉強苦手だったもんな。だけど、今はもう違うだろう? 最高に頑張ったもんなぁ」

 だけど、お兄ちゃんは私を責めたりせず、ただ懐かしいテスト用紙を私から受け取っておかしそうにクスクスと笑った。

「あ、あの、お兄ちゃん……」

「うん、どうした、由佳?」

「その、あの……怒らないの?」

「怒る? なにを?」

 何を言っているのか分からないとばかりに、お兄ちゃんがきょとんと私を見つめる。

「いや、だって、私、勝手にお兄ちゃんの部屋に入って、勝手に机のひきだしを開けて……」

「え? ああ、そう言えばそうだね。どうしたの、辞書でも借りに来たのかい?」

「……お兄ちゃん」

 私は涙が出そうになった。

 なんてお兄ちゃんは純粋なんだろう。

 対して私は何をやっていたんだろう。

 そう! 私のお兄ちゃんは。

 本当に、妹想いの。

 世界一のお兄ちゃんなんだっ!

「……えっと、うん、そう! 辞書を学校に忘れちゃって借りにきたのっ!」

 私はもう二度とお兄ちゃんを騙すようなことはしない、だから許してと心の中で請いながら最後の嘘をつく。

 お兄ちゃんは仕方ないなぁと眩しい微笑みを浮かべながら、私に辞書を貸してくれた。

 私は辞書と、そして大昔の赤点テストを抱えて部屋を出ようとして。

 扉の前で立ち止まる。

「ねぇ、お兄ちゃん?」

「ん? なんだい?」

「あのね、変な質問をしていい?」

「変な質問? なんだよ、急に?」

 不思議そうな表情をするけど、決して拒否しないお兄ちゃん。だから私は思い切って尋ねてみた。


「お兄ちゃんって、好きな人、いるの?」


 そうだ。

 エロ本だ、パンツだ、バスタオル姿だ、ホモォだと、お兄ちゃんの嗜好を色々と探ってみたけれど、結局のところ私が知りたいのって、つまりはこういうことだったんだと思う。

 私の、優しいお兄ちゃん。

 私の、カッコイイお兄ちゃん。

 そして私の大好きな、お兄ちゃん。

 そのお兄ちゃんに好きな人がいるのか、どうか。

 もし特別想いを抱いている人がいないのなら、その時は……。


「いるよ、好きな人」


 だけどお兄ちゃんは、あっさりと答えた。

「えっ、ウソ!?」

「ウソって酷いなぁ。僕にだって好きな人ぐらいいるよ」

 いや、そりゃーそうだけど、そんな素振りなんてこれっぽっちも見せてなかったじゃん!

 てか、普通、好きな人がいるのなら、その人をオカズにアレやらナニやらするでしょう、常考?

 それなのにそんなのちっとも……。

 と、そこでふと私の中にある、妙にもやもやした気持ちに気付いた。

 お兄ちゃんに好きな人がいるって、確かに驚いたんだけど。

 でも、それ以上に私自身が、私の思っていた以上にお兄ちゃんの事が大好きだったって事に気付いてしまって。

 さらになんと言うか、今回は観察できなかったけど、お兄ちゃんが私以外の人を想ってあんなことやそんなことをするのかと思うと、どうにも気にくわないというか……。

 私は自分の考えに顔を真っ赤にしながら、思わず頭を抱え込む。

 すると、そんな私を見てお兄ちゃんが

「どうやら僕の好きな人が誰なのか、由佳には分かったみたいだね」

 なんて言ってきた。

 はい?

 いや、私は今、「お兄ちゃんは私のもの。私のことを想ってのハッスルしか許さん」なんてアホなことを考えていた自分に悶えていただけなんですけど?

「まぁ、そういう訳だから、僕もさすがにこれ以上は恥ずかしいから、そろそろ出て行ってくれるかな?」

 え? いや、ますます意味が分からないんですけど……って、お兄ちゃんも顔が真っ赤!?

 で、お兄ちゃんはお相撲さんみたいにプッシュプッシュしてきて、私は部屋の外へ追い出されてしまったのだった。


 へ? どういうこと?

 突然の展開に、私は廊下で、ぽつんと立ちつくす。

 改めて考えをまとめてみよう。

 まず、お兄ちゃんには好きな人がいるそうで。

 その告白に、自分の中にあった「お兄ちゃん束縛欲」に気付いて、変な想像をしちゃった私は赤面して。

 すると何故か私の赤面を「お兄ちゃんの好きな人に気付いた」と、お兄ちゃんが勘違いして。

 ……って、ちょっと待って。何で私が赤面しただけで、お兄ちゃんは自分の好きな人が誰なのか知られたって勘違いしたんだ?

 そりゃあ想いを寄せる本人に「好きな人がいる」って遠回りな告白をして、それに気付いた相手が顔を真っ赤にしたら、恥ずかしいのも納得だけれど……。


「って、ええっ!?」


 私は驚きの声をあげるやいなや、慌てて自分の部屋に飛び込んだ。


 嘘?

 嘘でしょう?

 まさかお兄ちゃんの好きな人って?

 いや、嬉しいけど。ホント、すごーく嬉しいけれど。

 でも、ダメだよ、私たち、兄妹だもん!

 あ、でも、その禁じられた関係がまた、その、なんか、ちょっと、イイかも!?

 いやいや、ダメ。さすがにそれは……ああ、でもやっぱり!


 ベッドに潜り込んで悶える私。


 その後、滅茶苦茶自己発散した。

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