検証その3:お兄ちゃんは腐男子?
お兄ちゃんを試すようなことは、もうしたくない。
と思うんだけど、前回の疑問がどうにも気になって仕方がなかった。
お兄ちゃんは女の子に興味がない?
って、ことはその裏はつまり。
お兄ちゃんって実はホモォ、かもしれないのだ……。
いやー、さすがにこれはないわぁ。
もしそうだったら、ちょっと引くわぁ。
とか言いつつ、私は何故かワクワクしながら部屋の掛け時計の前に立ち、長針の先にある太陽のオブジェと、短針の先にある月のオブジェを同時に押した。
すると長針と短針が真上を差して重なり、三時と九時のところに何かを嵌め込む穴が現われる。が、これはダミー。実はこの時、掛け時計の裏に十字キーとABボタンが現われるので、素早く上上下下左右左右BAと押すと何故かベッドが緩やかに持ち上がり、その下には私が小学生時代から少しずつ溜め込んだ薄い本の数々が……うん、お宝を隠すのならこれぐらいやらないとね。お父さんのはちょっと単純すぎるんだよ。
で、お兄ちゃんが好きそうな二次創作ホモォ本はどれだろうか?
ここは慎重に考えなくてはいけない。
世間的な流行もあるけれども、ポイントはお兄ちゃんがその元となる作品をどれだけ知っているかどうか、だ。やっぱりこの手のは原作におけるキャラたちの人間関係を熟知してこそ、本編では決して語られることのない耽美な世界を楽しめるんだからねっ。
あ、でも、お兄ちゃんがどんな漫画を読むのかって私、知らないや。
そもそもお兄ちゃん、漫画とか持ってないしなぁ。
でも、学校でジャ○プとかア○ターヌーンとかガン○ンとか、みんなで回し読みとかしてるよね、きっと。
「よし!」
ここはひとつ本人に訊いてみよう、っと。
「え? 漫画、かい?」
「そう、漫画。お兄ちゃんって普段はどんな漫画を読むのかなぁ、って」
「うーん、あんまり漫画は読まないんだけどなぁ」
突然部屋に押しかけてきた私の質問に、お兄ちゃんはうーんと考え始めた。
机にはノートと参考書が開かれている。勉強中にごめんね、お兄ちゃん。だけど、代わりにあとでイイモノを貸してあげるヨッ!
「えっと、あ、そうだ、有名なバトル漫画を読んだことがあるよ」
「おおっ!」
バトル漫画とは意外。
はてさて、D○かな、ワ○ピかな。ジョ○ョの○良×ディ○ボロとか結構レアなのもあるよ?
「なんか地上最強の生物と、その息子の親子喧嘩が……」
ダメェ! そんなマッスルカーニバルな二次創作ホモォ本は持ってないィィィィ!
「ほ、他には?」
「他? うーん、あと最近読んだのでは地獄を舞台にした……」
おおっ、キターーーーーーーーー!
お兄ちゃん、それナイス! それなら、私、いっぱい持ってるよ。特に普段は虐げられている白○様が、ここぞとばかりに鬼○様を攻めているハードなヤツは、私が一番気に入っているヤツで……
「麻雀に負けて血を抜かれ、地獄に落ちたお爺ちゃんが、閻魔大王にビンタを食らわすっていう」
それは本来麻雀漫画で、作者がわけのわからない暴走をしているだけだーーーっ!
てか、顎が尖がった博徒とサングラス黒服とのカップリングとか誰得っ!?
「ジャ、ジ○ンプとか読まないの?」
「ジャン○はアレだけ読んでた。結構前、犯罪事件でニュースにもなった……」
……お兄ちゃん、ソレだよっ(キラッ
いやぁ、ビシっとどストレートで来たねぇ。それッスよ、それッスよ。さぁ、どのカップリングがいいの? 黄黒? 高緑? 青黒? 火黒もいいよねぇ。
「『○○ら葛飾区○有公園前派出所』」
両○ん銅像のマラカスが折られた事件って何年前だよーっ!?
そもそも、なんで『こ』『ち』』『亀』を伏字にしたしっ!?
「はぁはぁはぁ……なんだか、めっさ疲れた」
「うん、なんだかよく分からないけれど、さっきからツッコミが冴え渡っているね、由佳」
だ、誰のせいだと思ってるのさ、お兄ちゃん。
「とにかくユー○ローが陵辱されている同人誌とか、ア○ギが『くっくっく、ヌケるものならヌいてみろよ』と挑発しているヤツとか、両○んと本○が全裸で絡まっているシーンがあったら頼むよ」
「そんなのあるないよぅ。もう、お兄ちゃんのバカーッ!」
「いや、最後のはあるんだけどな、本編で……って、そんなことより、いいのかい、由佳? お母さんがさっきから扉の前で仁王立ちしているんだけど」
「はへ?」
言われて振り返ると、確かにお母さんが両手を組んでのガイナ立ち。
「えっ? あ、そ、それは……ッ!!」
そしてお母さんの両脇から見える、左右の手に握られているのは、わ、わたしの……。
「うわん、返してぇ、私のお宝本!」
「由佳、あなたの部屋の秘密、見せてもらったわよ」
ひぃ、し、しまったぁ。つい、お兄ちゃんのホモ疑惑に興奮して、私の部屋の扉を閉めるのを忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「あ、あの、お母さん、これは、その」
私は懸命になって言い訳をしようとする。
でも、いいアイデアが湧いてこない。さすがに実の娘が腐っていたなんて、普通のお母さんにはショックだよね……。
「うう、お母さん、ごめんなさい」
結局、私は素直に謝る事にした。
「謝ってもダメよ、由佳」
そんな私の腕をお母さんが強引に引っ張ってくる。
うわ、怒られる。めっちゃ怒られるよぅ、これ。
私のBLパラダイスが崩壊するぅぅぅぅぅ。
「由佳、あなた、ちゃんと基本を押さえているの?」
「……え?」
「お母さん見たけど、あなたの集めているのは『進○の巨人』とか『おそ〇さん』とか、今風なものばかり。あなたぐらいの歳なら、まずは基本をしっかりと学ばなくちゃいけないの!」
「は、はぁ……」
二次創作BLの基本……『幽○白書』あたりなのかしら?
「まずはコレ、『キャプ○ン翼』!」
「ああっ! てか、原作は詳しく知らないよぅ」
「次に『聖闘○星矢』!」
「Ωぐらいしか知らない!」
「あと、私の青春『鎧伝サムラ○トルーパー』!」
「絶滅危惧種キター!」
「さぁ、今夜はとことん由佳にこの世界の基本を叩き込んであげるからねぇぇぇぇぇ」
「えっ!? わ、ちょっと、お母さあああああああああああああああああああああん」
普段のお母さんからは信じられない力で、お兄ちゃんの部屋から引っ張り出される私。
「あうあうあー、お兄ちゃん、たーすーけーてー」
だけどお兄ちゃんときたら、床に落ちた私の宝物をぺらぺらとめくり、
「ふっ」
と、なんか薄い笑いを浮かべるのだった。
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