第184回『眠りすぎないように』→落選

「えっ、一日十時間?」

 留美子が驚きの眼差しを私に向ける。

「夢月、それは寝すぎだよ」

 その言葉に違和感を覚えた私は思わず反論する。

「やだなぁ、寝すぎじゃなくて眠りすぎって言ってよ」

「いやいや、寝すぎは寝すぎじゃね?」

 そんな言われ方は嫌だ。私は「眠る」が好きなのだ。

「ほら、眠り姫とは言うけど、寝る姫とは言わないじゃない」

「でも、永遠に寝るとは言わないけど永遠に眠るって言うよ。縁起悪いよ」

 ああ言えばこう言う。

 そんな留美子を論破するには「寝すぎ」の危険性をアピールするしかない。

「じゃあ、例えば三日間を考えてみて。三日間眠ると三日間寝るはどう?」

「うーん、どっちも同じ感じかな……」

「次は一週間。一週間眠ると一週間寝るは?」

「一週間眠るは何か変かも?」

「でしょ! だから「寝すぎ」の方が危険なの。寝すぎることはあっても眠りすぎることはないのよ」

 ポカンとする留美子。理解できないという様子だ。

 やがて彼女はキレ始めた。

「いやいや、夢月は寝すぎだって」

「違うよ。眠りすぎなの」

「やーい寝る姫」

「だから眠り姫だってば!」

 こうして始まった寝る派vs眠る派紛争は、一年間も続くことになったのだ。

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