第185回『ほくほく街道』→落選

「パパ、見て!」

 娘のくるみが携帯ゲーム機を持ってきた。息子の北斗と一緒に。

 画面には一本の道と、その両側に並ぶお店が映し出されている。

「右が私のお店で、左が北斗のお店なの」

「沢山建てたね!」

 俺は驚いた。お店は十軒はあったからだ。

「このお店は?」

「これは果物屋だよ」

「本屋」

 娘と息子が交互に紹介する。

 果物屋と本屋とはなんとも可愛らしい。が話を聞くと意外と手間がかかっているという。果物屋を開くためには果物の収穫が必要で、本屋には本が必要だからだ。と言ってもひとこと文学らしいが。

「その隣りは?」

「靴屋だよ」

「干芋屋」

 干芋屋?

 俺は息子に尋ねる。

「芋を収穫したなら、そのまま芋を売ればいいんじゃないの?」

「この芋は姉ちゃんの果物屋から買ったんだ。買ったものをそのまま売るのは転売だから、禁止されてるんだよ」

 その言葉をゲーム機の転売屋にも聞かせたい。

「じゃあ、その隣りは?」

 俺が訊くと子供たちは次々と紹介してくれた。

「薬屋」

「ホタテ」

「釘屋だよ」

「ホッケ」

「櫛屋さん」

「ホヤ」

「鎖屋」

 いやいや干物はもういいから。

 俺も子供たちと一緒にこのゲームをやってみたいと思ったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る