第137回『円』→落選

「はあい、まあるでーす。これからホットケーキを焼いちゃいまーす!」

「待ってましたぁ!」

「まあるちゃん、最高!」

 お店に出ると、私は人気者になれる。

「おお、今日も見事な円ですね!」

「しかも一ミリの狂いもなく二十センチだ!」

 これが私の特技。完璧な円形のホットケーキを焼けるの。

「じゃあ、美味しくなる魔法をかけますね」

 私はチョコホイップでクマさんの絵を書く。その様子をキラキラした眼差しで見つめてくれるお客さんの笑顔を見るのが大好きだ。


「まあるちゃん、今日は何枚焼いた?」

「二十センチを十枚です、店長」

 厨房に戻ると一気に現実に戻される。

「じゃあ、材料費、計算しといてよ。まあるちゃん、申告よりも材料多く使ってない?」

 また計算なの? だから店長は嫌い。

 私が二十センチぴったりに焼けること、疑ってるのかしら。

「そんなことないですよ、店長」

 二十センチが十枚でしょ? 面積は十掛ける十掛けるおよそ三で、十枚分だから三千平方センチじゃない。

『まあるちゃーん、指名でーす!』

「はいはーい、今行きまーす!」

 私は笑顔に戻ると、また夢の世界へ飛び込んだ。

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