第138回『群雲』→逆選王☆☆☆☆☆
ガタガタと強い揺れを感じ、私は慌てて五歳の娘とテーブルの下に潜り込む。ガチャンとお皿が割れる音。震度は五を超えているだろうか。
揺れが収まると、娘を連れてマンションの屋上へ向かう。エレベーターは停電で止まっていた。
屋上に着くとすでに三十人くらいの人が集まっていた。夕陽がいわし雲をオレンジ色に染めている。
「うわぁ、お空が綺麗。ねえ、ママ、あのプカプカ浮かんでいるのって何?」
津波が来るかもしれないというのに娘はなんて無邪気なんだろう。でも、このマンションは五階建てだから、さすがに屋上までは来ないはず。
「あれはね、雲って言うの。ママも久しぶりに見るような気がするけど……」
西暦二〇三〇年。
プロジェクションマッピングの技術が進化し、雲が広告媒体として活用され始めて十年が経つ。ジャガイモ形の雲にはポテトチップスのCMが投影され、今日のようないわし雲には、美味しそうに焼けていくカルビの様子が映し出されることが多かった。
「そうか、停電してるから広告が映ってないのね」
「ママ、あれっていつもはお肉だよね? でも、今の方が素敵!」
うっとりと夕焼け雲を見上げる娘を見ながら、自然を教える大切さを私は痛感していた。
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