第127回『ひょんの木』→落選
「ねえ、朱里、あいつまだ朱里んちに居る?」
オフィスに着くと、同僚の日奈が心配そうに訊いてくる。
「ああ、居るよ。部屋でおとなしくしてるんじゃない?」
あいつというのは、日奈の彼氏で私の元カレのこと。飯を食わせてくれと、先週私のところに転がり込んできた。
「あいつ、二度と私のところには来ないよね?」
「なに? もう飽きちゃったの?」
「だってあいつ、全然仕事しないんだもん」
日奈はぷうっと頬を膨らませる。
「大丈夫よ、部屋から出て行かないわ、鍵を渡してないし。ほらウチってオートロックでしょ」
今度出て行ったら、絶対部屋に入れてあげないんだから。
女に食べさせてもらいたければ部屋でじっとしているくらいの甲斐性は見せるべきだと、私達はあいつの話で盛り上がった。
帰宅すると、あいつは居なかった。
窓が少し開いていて、ぴゅうと風鳴りがする。
「どんな顔して窓から戻って来るのかしら」
私は冷蔵庫からワインを取り出すと、灯りもつけずにソファーに腰かけ、リビングの窓を肴にグラスを傾けた。
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