第122回『最終電車』→落選

 お目当てのローカル線に乗り換えるため山間の駅で降りる。一日五往復しか走らない、炭鉱のある街へと続く路線。その線路の直上には、一対の架線が線路に沿って延びていた。

「ほお、あんたも珍しいかね? その電線が」

「ええ、見るのは初めてです。僕は都会育ちですから」

 こんな風景、もう都会では見ることはできない。


 二〇五✕年。電磁波に対して極端に耐性の低い赤ちゃんが生まれはじめた。

 子供達の命を守るため、無線方式の通信インフラは廃止。電磁波を垂れ流す電車も、都会からだんだんと姿を消していった。

 電車の運行が許されたのは、電磁波密度の低い田舎の路線のみ。しかし全廃は時間の問題だった。


「ここの電車も、来年には廃止になるんですよね?」

「そうみたいじゃの」

 ゴトンゴトンと駅に近づいて来る電車。それと共に胸がなんだか苦しくなってくる。

「どうしたんかね? 顔が真っ青じゃぞ」

「だ、大丈夫です……」

 必死に平静を装う。だってずっと待ち望んでいた電車体験だから。こんな僕達のために廃止されるなんて本当に残念だから。

 小さな電車はゆっくりと出発する。シートに深く腰かけた僕は、意識を失うまでの間、揺れる景色を瞳に焼き付けていた。

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